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暑い日差しの朝、学校が休みの今日は朝からコンラートさんの家に向かっていた。
手持ち扇風機があるだけで全然違う。ずっと風を浴びれるのはやっぱり涼しい。いつもより早い足取りで、いつのまにか家の前に着いていた。
「おはようございます」
「おう。来たか。…ってそれ何だ?」
「今日はこれを見せに来たんです。」
「自分で作ったのか?」
「はい。教えてもらった錬金術で」
「なになに?私も見せてちょうだい。それより、まずは席について」
席につくと、二人はリベルの手に握られている扇風機を興味津々に眺めている。
「で?なんだ?これは。何に使うんだ?」
「全くわからないわ」
「こうやって使うんです」
どんな顔をするかなと少し期待して、風が出る方向を二人に向け、魔石を押した。
ウィーンと羽が回る音がして、風が吹いている。
「おい!それ!」「すごい!涼しそう!」
顔を見合わせて貸して貸してと興奮している二人の髪がなびいている。
「涼しいわ…」
ブランシュさんはうっとりした顔をしているが、コンラートさんは難しそうな顔をして黙り込んでいた。
「本当なら、強弱もつけたかったんですけど、私にはこれが精一杯でした」
そう。本来の扇風機なら、風の強さも設定できるようにしたかったが、まだリベルにはどうしたら作れるのかわからなかった。
「…コンラートさん?」
相変わらず黙っているコンラートさんに声をかける。
改良点か、術式を教えてもらえるか、何かしら反応があると思ってたのに…。
コンラートさんは、ゆっくりリベルに視線を合わせて、真剣な顔をして口を開いた。
「これ、商品化しないか」
「……えっ?!」
想像もしてなかった言葉に一瞬反応が出遅れる。その間に、コンラートさんはリベルの手から抜き取り、自分に風を当てながら話し始めた。
「これは、売れるぞ。強弱がつけられるなら、もっといい。実際、俺も欲しいと思った」
「そうね…私も一つ欲しいわ。この大きさなら外に出る時も使えるもの。」
この世界は、扇子しかない。しかもそれは扇ぐ物ではなく、貴族が話す時に口元を隠したり、そういう時に使われている。
おまけに、手持ち扇風機は、実際に売られている物を頑張って再現したものだから、平民には売れるかもしれない。
けど……絶対商品化には、面倒なことが待っているのはわかる。
リベルは一息ついて、口を開いた。
「あげます」
「は?」
「商品にするつもりはないです。これは、師匠のコンラートさんに教えてもらった錬金術の成果を見せたくて作っただけなので…商品化するなら、コンラートさんがしてください。」
リベルの目標は扇風機ではない。もっと上のクーラーである。
…そもそも、お金儲けで作った物でもないし。
扇風機を何個も作るのも、お金の設定も、契約の商談も想像するだけで気が遠くなる。改良の余地もあるなら、専門のコンラートさんに任せたほうがいい。
『うんうん』と心の中で納得していると、コンラートさんはバンっと机に手をついて、勢いよく椅子から立ち上がった。
「いや!待てよ!ありがとうで済む話じゃないだろ!」
「そうよ。これを作ったのはリベルちゃんなのよ」
「でも、契約とか…わからないし。これ以上、私改良できないし、別にいいです。」
「……じゃあ、こうしない?この魔道具を商品化する権利を買わせてもらうか、利益の何割かを渡すことにするか。」
どう?とブランシュさんはコンラートさんの腕を触り、座ることを促して、リベルに問いかける。
「そうだな。俺としてはこんなに良い物を逃すなんてありえねえ。だからって、無償でその権利をもらうのもありえねえ。おい、リベル。どっちか選べ」
落ち着きが戻ったのか、コンラートさんは腕を組んで椅子に座り直した。
「どれくらい売れるかわからないのに、権利を買ってもらうのも…」
「俺の勘だと結構売れると思うけどな」
「私もそう思うわ」
お互い譲らない平行線のまま、リベルは妥協点を考えた。
「じゃあ、最初の二年は利益の何割か貰って様子をみて、いけると思ったら、権利を買い取るというのはどうですか?」
「…そうだな。うちとしても、権利を一括というのもしんどいからな。それでいこう」
長い話し合いの末、よくやく金額がやっと決まり、コンラートさんは「今度契約書をもってくるから、また工房に来てくれ」と言った。
心なしか、コンラートさんは気合が入ってるような…ぼーっと見ていたら、ブランシュさんが内緒話をするように、こそこそ話しかけてきた。
「見て、あの人ワクワクしてるのよ」
「ワクワク…してるんですね」
「そう」
あれがワクワク顔か…ブランシュさんと笑い合っていると、紙とペンを持ち出してきたコンラートさんは、早く言えと言わんばかりに紙を人差し指でトントン叩く。
「リベル!今のうちにこれを改良したいところ教えてくれ」
「風の強弱と、首からぶら下げられるような、少し頑丈な紐をつけたいです。」
「首からぶら下げられるなら、両手が空くわけか。いいこと考えつくな」
「…そうですかね」
元の形を知っているリベルはそう答えるしかなかった。
苦笑いをして、目線を逸らしていたら、一拍置いてコンラートさんは話し出す。
「あと、あれだな。」
「?」
「ここまでいいの作られちゃ、弟子卒業だな」
「…卒業、ですか」
「そうねえ。商品になりそうな物持ってきちゃったらね」
「最初は弟子なんてと思ったが…お前に教えてて楽しかったぜ」
いい物にも出会えたしな。とコンラートがいいながら握手を求めて手を差し出す。
「ありがとうございました。お世話になりました。…ブランシュさんも」
「卒業したが、いつでも聞きにこいよ」
「ふふ。また遊びにきてね」
「はい。ありがとうございます」
二人の言葉を聞き、リベルは少し泣きそうになっている自分に気づいた。
◇
「ただいま」
「風のやつ」
帰ってきて早々、シルは自分の床の前を手で叩き、置け。と訴えてきた。
「はい。どうぞ」
魔石を押して、倒れないように立てる。
よっぽどお気に召したらしい。
今回はシルの魔石がいっぱい役に立ったからな…あれはあげよう。
「今度は、もっと涼しいもの作るからね」
「これじゃないのか」
「うん。これじゃないよ。待っててね」
「そうか」
そう。いよいよ、明日から取り掛かろう。
念願の、クーラー作りに。




