表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/28

16


西へ傾いた陽が木々の隙間から差し込み、森は茜色に染まり始める頃、リベルは学生服から作業着に着替えて、アーティザンへ向かっていた。


「…専用ペン…悲しいな」


コンラートさんに言いたくないな…


「…はぁ」


ため息が止まらない。せっかく交渉までしたのに…。


トボトボと足取りは重くても、気がつけば目の前には、目的地のアルケミア工房が見えていた。


「こんにちはー…あれ?」


受付に誰もおらず、いつも受付にいるお兄さんが居ないかと見渡しても、シーンとした室内に人の気配はない。どうしよう…と受付を覗けば、ボタンがついてある箱が目についた。魔石がついているので魔道具だろう。


「押したらだめかな…」


ボタンに指を近づけては離しを一人で繰り返していると、


「押していいよ」


と上から少し笑いを含む声がした。


…いつものお兄さんだ。


「これ、呼び鈴の魔道具なんだ。そっか。初めて見る子には分かりづらいのか…。改善の余地あるな…」


なにやらぶつぶつ呟いている。


「コンラートさんは?」


「もうすぐ降りてくると思うよ!仕事も、もう終わるしね!」 


待ってる間に、好奇心から呼び鈴を押してみると、ピピピっと大きな音が鳴った。


「これは貴方が作られたんですか?」


「そうだよ。人がいなくても音でわかるように作ったんだ。…けど何かわからないと意味ないね」


お兄さんは少し悲しそうに笑っている。


うーん…。


私が知ってる呼び鈴はもっと…


「ベルっぽい形…」


今は例えるなら、爆弾のスイッチみたいな…うん。


「……ベルか!確かにいい案かもしれない!やってみるよ!ありがとう」


「いえ…思ったこと言っただけで」


錬金術師の仕事って、こうやって改良を重ねて世に出すのかな…。


「二人して何盛り上がってんだ」


「コンラートさん!」


お兄さんと、魔道具のことを話し合っていたら、奥からコンラートさんがダルそうに降りてきた。


「いや、このお嬢さんにいい案もらってね!」


「ほー。あんまり活用されてねえからな。これ」


「そうなんだよね…」


「それより。嬢ちゃん。うちの家行くぞ」


「家?」


「嫁に許可は取ってある。ここは閉まるし、家で教えてやるよ」


「その事で、少し問題が…」


「問題?」


「専用ペン、持ってないんです…。買うまで待ってもらえませんか?頑張って、稼ぐので」


「…なるほどなあ」


コンラートさんは顎に手を置いて考えている。リベルは申し訳なくなって、俯いた。


「なら、もう使わないペンを貸してやろう。古い型だが、問題なく使えるはずだ。いいか?貸しだぞ。」


「…いいんですか?」


「まあ、あの魔石もらってお釣りくるくらいだしな…。買ったら返せよ」


「はい!お願いします」


「じゃ、行くか」


振り向き、呼び鈴を手に持つお兄さんに手を振って、アルケミア工房を出た。





アーティザンを抜けると、リベルの家と変わらない大きさの家が並んでいる。


…ここにみんな住んでるんだ。


そんな家並みを眺めながら、しばらく歩くと、木造の家が多い中、石造の家の前で足を止めた。


「ここだ」


「…お金、稼いでるんですね」


「そこそな。いい家だろ、頑張って建てたんだ」


「さっ!入れ」


「お邪魔します」


「ただいま」


「お帰りなさい!あら、そちらが言ってたお弟子さん?」


奥さんだ。ハンナさんのような元気な人を想像していたけど、スラリとした体型の清純派といった感じだ。おまけに美人だ。


「お邪魔します。リベルです」


「そういや、名前聞いてなかったな。」


「私はブランシュです。よろしくね。さあ、錬金術始める前にご飯にしましょ」


入って入って!っと席に促される。


「いえ、お構いなく…。私何も持ってきてないので…」


「いいの。お客さんなんて滅多に来ないから。それに、結婚する前は私も錬金術師だったの。今日久々に錬金術に触れるから楽しみにしてたのよ」


職場結婚だろうか。コンラートさんの方を見ると、得意そうに笑っていた。


ご飯はありふれた食べ物だったけど、すごく美味しくて、温かった。


「すごく、美味しいです」


「本当?よかった。いっぱい食べてね。リベルちゃん細いから…」


「ありがとうございます」


ご飯を終えて、片付けを手伝い、いよいよ、錬金術の開始だ。


「まずは簡単なものを作ってみるか。やり方は知ってるか?」


「一通り本で読みました」


「えらいわね〜。いい弟子じゃない」


「あ、ありがとうございます…」


ブランシュさんはすごく褒めてくれるので、思わず下を向くが、恥ずかしさを振り払うように首を振って、コンラートさんに切り出した。


「魔石に、術式を刻印して魔力で結びつけるんですよね」


「まっ、簡単に言うとそうだな。そういや、ペンだったな。ちょっと待ってろ」


コンラートさんは部屋を出て行った。



「リベルちゃんはどうして錬金術を習いたいの?」


「…どうしても、欲しいものがあるんです。それを作りたくて」


「そうなのね。錬金術師を目指してるわけじゃないのね。何を作りたいの?」


「…まだ、内緒です」


残念。とブランシュさんが言ったくらいで、コンラートさんが筆を持って帰ってきた。


「前に使ってた型だが、まだ使える。それが魔石刻筆だ」


これが専用ペン…『魔石刻筆』


ドキドキしながら、手に取って握ってみると、想像していたより少し、重い。そのまま目線の高さまで持ち上げて、じっくり見ると、見た目は羽ペンに近く、ペン先は鈍く光り尖っている。持ち手は、絵柄が少し禿げていて、使い古しているのがわかった。


「はい。ありがとうございます。お借りします」


「ふふふ。さ、続きしましょう」


「魔石にペンで刻印するのは術式。これは覚えないと始まらねえ」


「はい。」


机に、とんっと魔道具が置かれた。以前授業で見た、魔法が飛び出すあの道具だ。


その横には魔石も装飾品もついていない、ただの箱が置かれている。


「これは初歩的な術式を刻印したものだ。これを作ってみるか。箱はなんでもいいから、魔石を組み込んで刻印するだけだ」


「術式は火魔法でいいですか?」


「おう。なんでも。でもなんでだ?」


「…授業で、出てきたんで」


「あら、貴方…貴族の子なの?」


「え?!」


「この辺りで魔法を習う学校なんで、貴族が通うあの学校しかないじゃない」


…しまった。庶民が通う魔法学校もあると思ってつい口から出てしまった。


「……」


何も言い訳が思い浮かばない。どうしよう。貴族がこんな格好でいるわけがないし、お忍びでもない。


ぐるぐる考えを巡らしているけど、言葉が出てこない。


「まっ、いいじゃねえか。深くは聞かないし、俺は錬金術を教えるだけだ」


「…そうね。ごめんなさい。言いたくないこと聞いてしまって」


「いえ。聞かないでくれて、ありがとうございます。…コンラートさん、いい男ですね」


「そうだろう」


ガシガシと頭を撫でられる。


…私は人との縁が良いのかもしれない。出会った人みんな、暖かくて、いい人だ。


「火魔法の術式はこれだな。今から俺が実演するから、本と見比べろよ」


そう言って、魔石にコンラートさんは魔石刻筆で術式を刻印していく。


筆を進めるたびに魔石の内側に文字が浮かび上がり、淡い光が連なっている。


真剣に本と見比べるが、目が追いつかない。そうしている内に、術式は刻み終わっていた。


「これで術式が完成だ。…最後に、箱の上に魔石を置いて、魔力を流す」


先ほどより強い光が放った瞬間、魔石が箱に組み込まれていた。


「これで、魔道具の完成だな」


「……すごい」


箱を手に取って確かめると、授業で見た、あの箱になっている。


「押したらだめよ。魔法が発動しちゃうわ」


「あ、はい。」


「やってみるか。経験して覚えるしかないからな。術式はこの通りだ」


「はい」


持ってきた魔石を取り出して、筆を握る。


ドンドンドンと鼓動が耳に聞こえる。


錬金術も初めてだけど、思い返すと、人に見られながら作業するのも初めてで、今更ながら緊張してきたのか、筆を握る手が震えているのに気が付いた。


昨日念のために、初歩術式だけは紙に書いて予習したことを思い出し、大丈夫と自分に言い聞かせるように、息を吸って、筆を走らせた。





「………やりやすい」


描きやすいと言って良いのか、刻みやすいと言って良いのか、とにかく、付与魔法の時と違ってやりやすいのだ。確かに付与魔法でも専用ペンを薦めるわけだ…。




リベルを見ていた、コンラートは思わず眉をひそめた。


「……お前」


ブランシュも口に手を当てる。


「うそ……」


リベルはいつものように自分の世界に入り、二人が顔を見合わせていることにも気づかない。


「    ふぅ」


一通り刻印ができたところで、一息ついた。


「驚いた…。初めてで、ここまで刻印できるやつなんてなかなかいないぞ」


「普通は最初、苦戦するのに…」


リベルは感想も気にせず、筆から杖に持ち変えた。


「魔力はどのくらい流せばいいですか」


「あ、あぁ…。勝手に魔石が吸い取る。だけど、危ないと思ったら杖を置け。まあ、魔石自体に魔力があるから、そんなに量がいるわけじゃない」


「わかりました」


箱の上に魔石を置き、杖先をつけて、魔力を流すとスーッと体の力が抜けていく。


例えるなら、貧血になりそうな感覚に似てるかな。


…そんなに量がいらないってどのくらいだろう。大丈夫かなと心配した矢先、魔石が光った。


「…できた?」


「完成よ。凄いじゃない!」


「まあ、まだまだ甘ぇところはあるが…錬金術の素質あるんじゃねえか?リベル」


「以前付与魔法したことがあるんで…それよりかは楽でした!」


「付与魔法か!なるほどな……あ、おい!」


「ちょっと、大丈夫?」


リベルは緊張の糸が切れたように力が抜け、椅子からずり落ちた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ