15
翌朝、リベルの行動は早く大きな袋を持ち、森の中を歩く。シルも一緒に歩いていたが、途中で消えてしまった。
「相変わらず綺麗な湖だ」
まさかこの湖の底に魔石があるなんて思わなかったな。どのくらい深いのか、膝まで水に浸かって覗き込んでみても、透き通った水の向こうに底は見えない。
服を脱いで、飛ばないように石を置いてから、軽く体を動かして湖に入った。
肩まで湖に浸かり、すーっと大きく息を吸い込んで、ザブンと潜る。水を蹴って一気に奥へ奥へ進んでいく。
『見えた!!!』
湖底で黄色の魔石が光り、水越しにゆらゆらと揺れて見える。早く掴もうと腕を伸ばしてみても、魔石には届かない。
『もう息が持たない…!!』
慌てて身を翻し、きらきら輝く水面へ向かう。
「…ブハァ!!!」
肩で息をしながら湖を見つめる。あそこまで息が持たないなら、シルはどうやって採ったんだろう。
…人間と違って、肺活量が違うのか?
「網が欲しい」
湖底まで届く長さがあれば、簡単な作りでも十分だ。蔓を探しに湖にから上がり、下着姿のまま歩き回る。人が来ない森は、こういう時にありがたい。
しばらくして、戻ってきたシルは魔石を入れる袋を叩き、中身を確かめている。
「まだ採れてないよ」
「湖に入ったんじゃないのか」
「…息が持たなくて、」
ハンっと鼻で笑われた。
………悔しい。絶対採ってやる。
蔓を見つけると、魔石が落ちない程度の隙間を空けながら左右交互に重ね、最後に少し太く丈夫な蔓を輪にして編み付けた。
「あとは、木の持ち手をつけて……完成!」
完成した網をシルに見せつける。
「フッ…」
また鼻で笑われた。
見てろよ。これで魔石ザクザクだ。
もう一度湖に潜り、息が続く限り湖底に近づくと、網を持っている手を精一杯伸ばす。
『もう少し…!あと少しで届く!』
揺れる光が網の中に吸い込まれていくと、呼吸が限界に近づき、今度は上へ上へと足を蹴る。
ーーーーーザバッ
水面から顔を出すと、呼吸が整わないまま急いで反対の手に持っていた袋を開き、網の中の魔石をまとめて放り込んだ。
そのまま一気に沖まで泳ぎきり、陸へ上がると、服を置いている場所へ走る。冷えた手で、袋を開いて、一つずつ数を数えた。
「1、2、3、4、………14!!」
「採れたのか」
「うん。君が拾ったより多いよ」
なんてね。と続けて言おうとした瞬間。
目の前からシルが消えた……。
「……え?」
遠くで大きな水飛沫の音が聞こえる。シルは湖に潜ったのだろうか。音のする方に視線をやるが、シルの姿はなく、水しぶきも見つからなかった。
今までに聞いたことのない、鼓膜を揺らす大きな水音が鳴り響き、咄嗟に足が一歩後ろに下がった。目の前では、湖が左右へと裂けていく。
「信じられない……」
裂けた湖の間から、何かが光る筋のように体を横切り、目で追うより先に、ボトボトと落ちる音が耳に残る。
「、なに…?」
後ろを振り向けば、魔石が地面を跳ねていた。
もう何が何だかわからないまま、勿体無い精神で魔石を拾いつつ、湖に顔を向ければ、シルが地面を蹴りこちらに跳んでくるとろだった。
一体、どんな脚力をしているんだ…。
地面に着地し、近づいてくるシルの顔はとても満足そうだ。
……二度と怒らせないようにしようと、心に誓った。
魔石を家に持ち帰った日からいつも通り授業を受け、帰れば魔石について本を読んだ。
今日は念願の休み。
リベルはまた、アルケミア工房の前に立っていた。
「すみません。コンラートさん取次お願いしたいのですが…」
「あれ?この間の弟子希望の子じゃない?」
「あ、そうです…」
この間取り次いでくれた人だ。
「意外とめげないね〜。ちょっと待ってて呼んできてあげる」
「お願いします」
しばらく受付で待っていると、コンラートさんが現れた。後ろで先程の男性が口をぱくぱくと動かして、頑張って。と声に出さずに伝えてくれた。
「確かに、考えますと言ってたな…」
コンラートさんは頭を抱えている。
そう。リベルは考えた。
「何回来られても…」
「今日は交渉に来ました」
「交渉…?」
「錬金術師のことは詳しく分からないです。けど、私なりに自由に使える魔石はないんじゃないかと考えまして」
「まあ、それはそうだが…限りはあるな」
「一日中じゃなくていいんです。時間が取れる時に、基本的なことを教えてもらえるだけで良いんです。教えてもらえたら…こちら、差し上げます。」
そう言って、袋の中を見せる。
「これ、下級魔石じゃないか!五つも!」
「一番流通してますけど、試作に使えるんじゃないかって」
「…嬢ちゃんみたいな子がどこで手に入れたんだ」
「秘密です。でも、怪しいところで手に入れた訳ではないですよ」
コンラートさんは悩んでいる。無理だとすぐに断らない。もう一推しだ。
「…本当はもう一つこの下級魔石持ってるんです。それも、お付けします」
「昼間は仕事していいんだな?」
「はい」
「空いてる時間でいいんだな?」
「はい」
「この魔石本当に貰うぞ?怪しくないんだな?本当だな?」
「どこで手に入れたのかは言えませんけど、確かなところから手に入れてます。大丈夫です」
「……よし!いいだろう!今回限りの弟子にしてやる!」
「っ! ありがとうございます!」
リベルは小さくガッツポーズをして喜んだ。
受付にいた男性が「良かったね」とまた声を出さずに伝えてくれたのが目に入り、リベルは頷いた。
錬金術のことは魔道具を作る手段としか知らず、教えてもらう前に、予習をしておこうと、図書室に寄った。
「あの…」
「はい。」
初めて声をかけたら司書は肩を上げて驚いている。少し笑いそうになった。
「錬金術の本ありますか」
「…ちょっと待っててください」
司書はこの図書室にある大量の本を全部読んでるんだろうか。いつも分かりやすくて、ピンポイントで抑えてくる。
そんなことを考えて待っていると
「…錬金術でもする気ですか」
「……それは、えっと、」
「まあ、いいですけど」
期限内に返してください。と言いながら渡される。
魔石、持ってます。錬金術するつもりです。とは言えなかった。
◇
シルとご飯を済ませた後、縁側に腰を下ろし、ハーブ茶を口元へ運びながら夜空に輝く星を眺め、飲み終えると本を開いた。
『錬金術とは、魔石を用いて魔道具をはじめとする様々な物を作る技術的にである』
ここは付与魔法の時にそれっぽいの読んだな。
ペラっと次のページを捲ると、リベルは重要な事実に気付いた。思わず本に顔を近づけ、書かれた文字をもう一度確かめる。
「ここでも専用ペンが出てくるのか…!」
思ったよりも大きい声が出て、隣で寝ているシルの鼻提灯がパンっと割れた。
専用ペンの値段を調べたが、とてもじゃないけど買える金額ではなかった。二年生で習う頃には公爵家から届くが、それまで待ってられない。
明日コンラートさんに会うときには、まだ習えないと伝えなきゃいけない。
「お金、稼がないとな。」
リベルは空を仰いだ。
15話までお読みいただき、本当にありがとうございます。
毎日更新を続けられているのも、読んでくださる皆さんのおかげです。
これからも主人公たちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。




