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掌の上に乗っている魔石を見つめていると、緑色と薄い黄色の石が陽の光を受けて、キラキラ輝いている。
…宝石みたいに、綺麗。
「これ、すっごく高価なものなんじゃ…」
魔石の存在は知っていたけど、現物を見たのは初めてだ。掌の上で転がしながら眺めても、何の魔石なのか、さっぱりわからない。あのシルが拾ってきたものだと思うと、綺麗なのに得体の知れず、少し怖い。
「ザラタンが死んだから拾ってきただけだ」
「ザラタン…?」
死んだってことは魔物だろうか?魔物についてはまだ授業で習っていない。
「…五匹、狩ったの?」
「緑の魔石がザラタンだ。…寿命だ」
シルの言葉につられて緑色の魔石へ視線を落とすと、薄黄色の石よりも一回り大きい。
「…きみが使いなよ。」
ザラタンがどんな生き物かは知らないけど、恐れ多くて受け取れない。シルが持っていた方がいいだろうから、そっと手を差し出した。
「必要ない。人間しか使わん」
「…そーなんだ」
必要ないなら、貰えるものはありがたく貰っておこう。きっとそんな簡単に手に入る物じゃないから、仕舞う場所を考えないといけない。
これがあれば魔道具が作れるし、一段と快適な生活に繋がるはずだろう。
作る魔道具は、もちろん ――――
「ねえ、夏は暑いよね!」
「……そうだな」
これで、念願のクーラーが作れるかもしれない。
まずは、魔石の種類を知らないと何も始まらない。歴史の授業を聞いていても、頭に浮かぶのはあの輝く石のことばかりで、気がつけばノートに書かれている文字は走り書きになっていた。
授業が終わると共に、鞄に教科書とノートを仕舞い、足早に図書室に向かう。
図書室へ通う中で歴代一番かも知らないくらい早く着き、扉を押してカウンターに行くと、
「……いない…」
いつもカウンターに座っている司書がいない。珍しいこともあるもんだ…今日は休みだろうか。ここ最近は、一言二言話すだけで、お目当ての本をすぐ借りられることが当たり前になってたのかもしれない。自分で探そうと振り返れば、こちらに歩いてくる司書と目が合った。
「貴女、授業受けてますか」
「…お休みしたことは、ありません」
急ぎすぎて、司書より早く着いたみたいだ。眼鏡を押し上げながら司書はいつもの席に座り、こちらを向いた。
「それで?今日は?」
「あっ…魔石の本を」
「………これを」
「二冊?」
「期限は一週間にしましょう」
「ありがとうございます」
司書が選ぶ本は外れたことがなく、これもきっと為になるんだろうと思うと、二冊を抱える腕に力が入って、そのまま足早に家へ向かった。
借りた本を机に置いて、二冊のうち一冊を手に取る。『魔石学入門』。題名だけで初心者向けだとわかり、もう一冊の図鑑もパラパラと捲ってみれば、こちらも読みやすそうだ。
「頭いいんだろうな…。」
司書の顔が浮かびながら、本に目を落とした。
『魔石とは、魔力が凝縮•結晶化した鉱石である』
瞬きをすることも忘れるくらい目は文字を追い、ページをめくる手も止まらず、気づけば半分は読み終えていた。
そのまま読み進め、あと数ページで読み終えるところで、膝に柔らかい感触を感じて視線を移すと、肉球がちょこんと乗っていた。
「飯の時間だ」
窓の外はすっかり茜色に染まっていた。
「そうだね。まだ肉が余ってたはずだよ。焼こうか」
シルは舌をぺろりと舐めた。
桶の肉に夢中なシルを見て小さく笑い、リベルも本を片手に夕食を取ると、食べ終わる頃には一冊目を読み終えていた。
本によると、魔物が死んだ後に残るものと、天然の魔力溜まりから生まれるものの、二種類の魔石があるらしい。緑色の魔石はきっと前者だろう。
「…魔石って、面白いね」
「そうか」
一息ついて、コップの水に口をつける。
「そういえば、黄色の魔石はどこから拾ったの?」
「あれは湖の底だ」
「……っ!ごほっ、ごほっ!……この間行った湖の?!」
「そうだ」
…あんなところにあったのか。何も知らず、涼んでいた底にあったなんて。
クーラー作りには、絶対クリアしなければならない二つの問題がある。
一つ目の魔石の問題は今回のことで解決したが、残る二つ目の問題が、魔石を魔道具に定着してさせるための―――――
「……錬金術」
これがどうしても必要になってくる。
今のリベルには、錬金術の扱ある術がなく、学校では一つ上の学年が習うものだ。
いつものように本で調べてできるような単純なことではない。
今手元にある魔石五つしかなく、どれだけ失敗するかも未知数だ。
…まだ手を出すには早いのだ。
「目の前に魔石があるのになあ〜」
机に突っ伏しながら、ツルツルした艶のある魔石を撫でる。
「できないのか」
できる、と答えたい気持ちはあるけれど、今回ばかりは難しい。それを生業にする人だっているくらいだ。
「職業か…」
…そうか。学校が無理なら、教えて貰えばいいんだ。
学校が休みの日に、じいさんを訪ねてフォルム街の噴水広場へ向かった。
「こんにちは」
「おお、嬢ちゃん。今日はどうした。ハンナのところか?」
「いえ。今日はじいさんの息子さんと話がしたくて」
「俺の息子ぉ…?!」
「錬金術を教わりたくて」
「なるほどなあ。けど、無理だ。嬢ちゃん。紹介してやりたいが、俺の言うことは聞かん。俺と似て、頑固でな…」
「……じゃあ、自分で頼みに行きます。場所だけ教えてください」
じいさんはリベルを見てニヤリと笑った。
「意外と根性あるな、嬢ちゃん。…息子はアーティザンのアルケミア工房にいる。無理だと思うが、頑張りな。」
「ありがとうございます。行ってみます」
じいさんに手を振って、アーティザン街に向かって歩き出す。
アーティザン街といえば、工芸職人が集まるところであり、例えるなら工場地帯である。
初めて訪れる場所に胸が高鳴り、早歩きだった足は、いつの間にか駆け足になっていた。
「……っ、はぁ、着いた」
…どうして私走ってたんだろう。
膝に手をついて荒い呼吸を整えると、小さな工房から小綺麗な石造りの事務所、研究所のような建物まで並ぶ街並みを見渡した。
フォルム街の賑わいとまた違う、人が働く音が響いている。
『アルケミア工房』
…ここだ。工房って名前から、個人でやってるのかと思ってたけど、建物を見る限り会社みたいだ。結構いいところに就職してるのかもしれないな、じいさんの息子。
「失礼します……」
小声で中に入ると、受付にいた男性と目が合った。
「…こんなところに、何の用事ですか?学生かな?」
「…コンラートさんに取次いでもらえますか」
「コンラートさん?…ちょっと待ってて」
男性は受付の奥にある階段を登って行った。
コンラートさん、来てくれるかな。無茶をしていることくらいは分かっているけど、今は考えない。胸を打つ鼓動だけが、ドンドンドンと鳴り止まなかった。
あの日、一瞬しか会ってない私を覚えているだろうか。頼み、聞いてくれるかな。
下を向いて足元を見つめていると、とんっと肩に手を置かれ、視線を上ればさっきの男性が笑顔でこちらを見ていた。
「今少し手が離せないようだから、客室で待っててくれる?案内するよ」
「あの、客室じゃなくていいです。ここで、待ちます」
「…そう?じゃあ伝えておくね」
無茶な頼み込みをするのに客室で待つなんて、できないや。
足元を見つめて何分経っただろうか、不意に声がかかった。
「……どっかで会ったことあるか?俺に用事って」
あの時見かけた息子さんだ。
「……この間、じいさんと、ベンチで」
「……うーん。居たような…?ごめん。覚えてないや。それで?用事って?親父何かした?」
緊張で胸の前で手を握って、大きく息を吸って言葉にした。
「無理を承知でお願いします。錬金術を私に教えてください」
顔が膝につきそうなくらい、頭を下げた。
「えっっ?!」
びっくりした声が響き、それから頭を掻く音が聞こえる。
「…弟子とか取ってないんだ。教えてあげられる時間もないし。悪いけど、諦めて」
了承してもらえるとは思ってなかったけど、下げた頭を上げられない。
「…どうしても、だめですか…?いっときだけでいいんです…」
「依頼もあるし…ごめん」
…やっぱりだめか…。
「……もう少し考えます」
一礼して、工房を後にしようと歩き出した。
「ごめんな。…ん?考える?おい!」
扉が閉まった後、コンラートさんが慌てた声が響いていたことを、この時の私は知らなかった。
◇
リベルは縁側に寝転び、魔石を手に取り、見つめていた。
「諦めきれないな〜」
一軒一軒、頼み込むのも大変だし、知り合いの知り合いの方が安心できるんだけど…。
どうしよう……自分で本見てやってみる?いや、無謀だ。魔石がいっぱいあれば失敗しても怖くないんだけど、
「……あ。」
起き上がり、シルを見つめる。
「…なんだ」
「湖に魔石ってまだある?」
自然と口元が緩んだ。




