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縁側に続く戸を開けると、朝焼けが空を染めていた。
「おはよ」
シルの鼻提灯がパンっと割れた。
昨日採った果物を切り、一切れ食べる。
一個は目が合ったシルに放り投げると、そのまま口を開いて丸呑みした。
「噛みなよ」
今日は、水路でお世話になった人たちへ、お礼をしに行く予定だ。
鍋に切った果物と砂糖を入れて弱火でぐつぐつ煮る。ゆっくり混ぜながら、欠伸を噛み締めた。
春に甘露樹をたまたま見つけたのはラッキーだったな。
…樹液を取るのは大変だった。一晩中張り付いて、様子見てたなあ。
思い出して、リベルは遠い目をしていると、柑橘の甘酸っぱい匂いがふんわり漂ってくる。
シルが近寄ってきた。
「まだ食べられないよ。熱くていいなら、あとでパンに塗って食べる?」
シルはゆっくり頷いた。
……魔獣なのに、餌付けしてる気分。
「ハーブティーじゃなくて、コーヒーが飲みたいなあ。」
モーニングコーヒー、恋しいな。
久々にギルドの戸を叩いた。
いつもの受付嬢のお姉さんだ。
「久しぶりですね。今日も査定させていただきますね。」
「あの、……これも査定できますか?」
どん、どん、とカウンターに、シルが捕まえてきた魔獣を二匹置いた。薬草も横に並べた。
「これは…ホーンラビですね。ちょっと状態悪いですけど、査定対象ですよ。ご自分で狩られたんですか?」
「いや、狩っては、ないです。…じゃあ、これも一緒にお願いします。」
「そうなんですか…?」
査定していた手が一瞬止まる。
「珍しい傷の着き方ですね」
うーんと考えながら魔獣の査定をし慣れてるのか、手を動かしている。
リベルは査定されてる間シルが持ってきた日を思い返していた。
『………ぎゃーーーーー!!なに?!』
『弱いくせに向かってきたからな』
『持ってきてどうするの!?』
『…小さすぎて足しにもならんが、人は好んで食べるだろう』
『……解体?!むりむりむり!!』
生き物が息絶えてるのを見るのも嫌だし、それを捌くのも無理だし。…目にも入れたくなかった。本当なら、ギルドにも持ち込みたくなった。
「お待たせしました!銀貨14枚です」
「ありがとうございます」
いつもより多い。…シルに肉を買ってあげようかな。
ギルドを出て、フォルム街にあるハンナさんの薬屋に向かう。
だんだん日差しが暑くなってきて、体力が奪われる。
「………はあ」
首元に凍らせたタオルを巻いているが、溶けてきて意味をなしていない。
誰もいないことを確認して、杖を振った。
首元が再びひんやりする。
応急処置にしては、いいのを思いついたと思う。
「…着いた」
扉を押すと、チリンチリンと音が鳴った。
……風鈴いいなあ。涼しくなる気がする。
「こんにちは…」
「いらっしゃい!暑いねえ!今日も!……長袖着てるのかい?!倒れるよ!」
店の中も気温が変わらない。ハンナさんもタオルで汗を拭いている。
「日焼け対策で…。それより今日はお礼の品持ってきました。ダンさんと食べてください」
「お礼なんていいって言ってるのに!いつもありがとうね!……ジャムじゃないか!こんないいもの貰っていいのかい?」
「甘さは控えめなんですけど、よかったら」
「ジャムなんて、久しぶりだよ!ありがとうね」
「よかったです」
…やっぱり砂糖は高級品なんだな。
ハンナさんはジャムが入った瓶を見てずっとにこにこ笑っている。
ハンナさんに手を振って、店を出てから苗屋に入る。
「こんにちは。今日は何を買う予定かい?」
ダンさん、日焼け似合うな。余計に逞しく見える。
「アロエの子株ありますか?」
「あるよ!…怪我でもした?」
少し屈んで、心配そうに目線を合わせてくる。
「怪我はしてないです…。でも、念のために育てておこうかと思って」
「それならよかった。切り傷にも使えるからね。育てるのはいいと思うよ」
アロエの値札を見て、お金を渡す。
「はい。あ、あと、ハンナさんにジャムお渡ししたので、一緒に食べてください」
「本当?!嬉しいなあ。パンを食べるのが楽しみだ」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。
…いつもより、盛大に髪の毛が乱れてそうだ。
お礼参りの最後はじいさんだ。確か、中央広場の噴水のベンチにいるって言ってたな。どこだろう。
噴水から水がバシャバシャと音を立ててる。近づくと、水面がキラキラ光って眩しい。視線をベンチへ移すと、短髪の白髪のじいさんの後ろ姿が見えた。
「じいさん」
「お。嬢ちゃんか。…水路工事は順調か?質問もしに来ないで…」
片手にお酒を持って、昼から飲んでいるみたいだ。
「完成しました。メモ、ありがとうございました。本当に助かりました」
メモと一緒にジャムも渡す。
「一人でやりきったのか。大したもんだ!」
…正確には一人ではなかったけど。
まあ、ほぼ一人でしたようなもんだ。
「ジャムはお礼です。パンに塗って食べてください」
「おぉ。ジャムか…。気持ちだけでも嬉しいが、これは、嬉しいな。酒のつまみにしたら嫁に怒られそうだ」
共通して、ジャムは喜ばれるらしい。
また甘露樹を見つけたら、樹液をできる限りたくさんとろう。
「肉買ったのか」
「はい。ご褒美に」
…シルのご褒美だけど。
「そおか。水路ができた時は達成感があるからな」
「そうですね…」
リベルはそう返事するしかなかった。
しばらくじいさんと二人でぼーっと景色を眺めていたら、
「親父!また昼間から飲んでるのか!」
と大きな声が聞こえた。
「おぉ。仕事はどうした?」
「今は休憩だよ!暑いから倒れるなよ!あと、あんまり飲みすぎるなよ!」
…息子さんだろうか?顔が確かにじいさんの面影がある。
やっぱり同じ大工なのかな?
でも、大工っぽい見た目じゃないなあ。
作業着でもないし…言葉使いは平民だけど、服装は貴族寄りだ。
腰には作りかけだろうか、魔道具がぶら下がっている。
「わかった、わかった!お前は仕事に戻れ!」
「言われなくてももう戻るよ!じゃあまた家行くから!」
怒涛の会話で去って行った…。
じいさんも口喧嘩していた時は、嫌そうな顔をしてたけど、やっぱり嬉しそうだ。
「今のは息子なんだが、最近口煩くてな」
「仕事は継がれたんですか?」
「いや、大工になりたいって小さいころは言ってたんだが……錬金術師だよ」
じいさんはぐびっと酒を煽る。
「….…錬金術師」
「ん?嬢ちゃんも将来は錬金術師になりたいのか?」
「いや、私は…」
首を左右に振る。
「そおか。あいつは、大きくなるに連れて、道具ばかり作ってな。作っては試し…屋根が吹っ飛んだこともある!それで俺の大工の腕が上がったのもあるかもしれんな!」
じいさんは思い出して大笑いしている。
錬金術師になる気は全くない。でも、興味はすごくある。
…錬金術、それができれば、家の快適度はぐっと上がる。
リベルの視線は錬金術師だという息子さんの後ろ姿を追っていた。




