09
「よし、やるぞ」
作業着に着替えたリベルは意気込んでいた。
この森には誰かが勝手に物を捨てていく場所がある。前に散策していた時に見つけた。たまに掘出し物があるからリベルは重宝している。
…宝探しの気分なんだよね。
茜色の空を見上げながら、目当ての場所まで歩く。
「大量だね」
使わなくなったソファや、鍋、机…いろいろなものが乱雑に捨ててある。
ソファが欲しい……けど、今は必要ない。引き続き使えそうなものを探す。
「……あった。私、運あるな。」
探していた樽が見つかった。
…クリーン魔法を使えば、まだまだ使えそうだ。
他にも、板や釘などを頂戴した。
チラリと横を見ると、シルはまだ綺麗そうな布を咥えていた。
…何に使うかわからないけど、洗濯してあげよう。
明日は学校が休みだ。
丸太集めはその時にしよう。
翌日、魔物同士喧嘩でもしたのか、傷が入って少し傾いてる木を見つけた。
「この木にしようかな」
リベルは斧を握り、目印に向かって、思いっきり振りかぶった。
「……ちょっとしか傷がつかない」
これは体力がいるぞ…。
何度も何度も斧を打ちつける。
振るたびに腕がじんじんと痺れ、握った柄が少し滑る。
…桑で畑を耕した時が懐かしい。あれも大変だった。
木が少しずつ倒れていく。
少し距離を取り、「あと少しだな。」ともう一度意気込んだその時、
びゅんっと、リベルの横を風が切った。
スローモーションを見ているかのように、大きな音を立てて、木はゆっくり倒れた。
振り返ると、シルは満足気な顔をして、ふんっと鼻で息を吹いた。
「……いいとこ取り」
…私のこれまでの苦労は、一体。
リベルは呆れてしばらく動けなかった。
朝の庭は、すでに真夏の熱気に包まれている。
リベルは、昨日拾ってきた樽を見下ろしていた。
杖を振って、試しに水を入れてみる。
「…やっぱり漏れるよね」
隙間から水がちょろちょろ漏れ出ている。
隙間へ薄い板を打ち込んでから、もう一度杖を振ってクリーン魔法をかける。
苔や汚れが取れて綺麗になった。
念のため、雨漏りで習得した付与魔法の魔法陣を描く。
「あっ、…だめだ」
視界が揺れ始める。
……魔力切れだ。
シルが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
そのまま視界が真っ黒になった。
翌朝。
カン、カン、と木槌の音が響く。
勢いよく、丸太を縦に割る。
すでに何本か割り終えた丸太が、端にまとめて積まれている。
「……暑い」
額から流れた汗が木屑を濡らしていく。
これから中をくり抜くことを思うと、少し気が遠くなった。
「これを楽にできる魔法、ないのかな……」
……今思いつく限りでは、応用できそうなものはないな。
諦めて、目の前の作業へ集中する。
「……一旦、休憩しよう」
隣を見ると、シルは大きな欠伸をしていた。
リベルは少しだけ、むっとした。
毎日少しずつ削っては、また翌日続きを削る。
それから何日もかけて、中をくり抜き続ける。
「……終わった」
あとは、ささくれを削れば完成だ。
この日は、家から一番近い小川に来ていた。
辺りを見渡し、手頃な石を集めていく。
「……何をしている」
「石を集めてるんだよ」
「魚は獲らないのか。……こんな大きさでは腹の足しにもならないが」
「魚はいらないかな」
最近の私の行動が不思議らしい。たまに、何をしているのか聞かれるようになった。
拾った石を積み上げては、また次の石を拾いに行く。
それを繰り返していると、隣からぼとっ、ぼとっと重い音が聞こえてきた。
「……集めてくれたの?」
「暇だからな」
「ありがとう」
石を集めてくれるのは、素直にありがたい。
……ただ、少し石が大きすぎるけど。
シルが集めてくれたおかげで、堰は思ったより早く形になった。
「できたよ」
「……何だ、これは」
「堰だよ」
「……?」
川の水位が少しだけ上がる。
完成まで、あと一仕事だ。
コン、コン、と無心で木槌を振るう。支柱を地面へ何度も打ち込むと、少しずつ支柱が地面へ沈んでいく。
シルが見よう見まねで手のひらで打ちつけていたのは止めた。
……三回くらいで全部埋まりそうだった。
すべての支柱が立つと、樋を乗せてロープで固定していく。
一本一本、力いっぱい結び終える頃には、握力がなくなり、手が小さく震えていた。
「……いよいよだよ」
「何をする」
「水を流すんだよ」
……シルは興味津々だ。
樋の口を、堰で水位を上げた場所へ合わせる。すると、水が流れ出した。
やった!と思った途端、
「……止まってるぞ」
「…言わないで」
勾配が足らないのか、途中で止まってしまった。
「抜くのか?」
「……聞かないで…」
悲しくなるから。と心の中でつぶやいた。
じいさんのメモは汚れたらいけないから書き写してある。
メモを広げて、注意事項を読む。
一ヶ所だけ、樋が高くなっている場所があった。
これなら、まだ少しの手直しで済みそうだ。
もう一度、水を流す。
…今度こそお願いします!と心の中で叫んだ。
「………」
「…こっち見ないで…」
漏れてるぞと目線で訴えられた。
「…ここでも付与魔法かあ…」
これは何日かかるんだろう…。
リベルは座り込んだ。
学校が終わると森へ向かい、日が暮れるまで魔法陣を描いた。
あの漏れてるところを見つけてからは、そんな日々を繰り返した。
…もう防水の付与魔法なら得意だと思う。ただ、一ヶ所ずつしかできないから、時間がかかる。
魔法陣を描いてる間、シルは多分狩りに出ていたと思う。
…確認したことはないけど。
今日は最後の一ヶ所だ。
「できた……!」
ちょうどシルも森の奥から帰ってきた。
今度こそ、うまく流れるだろう。
シルも興味深そうにこっちを見ている。
水は止まることなく流れていく。
「完成したよ」
シルは頷いた。
水路を一度振り返ってから、家へ向かった。
庭にある貯水樽に少しずつ水が溜まってきている。
「これで家で水が使える」
ちょろちょろと流れる音を聞きながら、縁側に腰を下ろし、目を閉じて耳を澄ます。
「…頑張ったな」
月を見上げながら、呟いた。
隣で、シルは体を舐めて毛繕いをしている。
随分森の奥まで走ってそうだったもんな…。
自分の体を見ると、肌が随分焼けている。
「…なんとかケアしないと」
これじゃあ、お兄様に怒られる。
先ほどとは打って変わって、はあ〜、とため息が出た。




