第8話 そっちかよ!!
困った。
何がって、ワンチャン魔法でウハウハ異世界生活! って思ってがんばっていたのに、あんなツチノコじゃ戦ったりなんて無理そう。
無職――そんな響きが頭をよぎる。
ここに居候させてもらえているうちに手に職をつけなければ。少し焦りを感じる。
「ユウリ、いや、ユウリ様」
クラウディアが、がしっ、と両手で私の肩を掴む。
「今すぐ、国王陛下のもとへ参りましょう」
急に目がマジすぎて怖い。
いまの光るツチノコみたいなのが新種の魔法とかだったのだろうか。実用性はなさそうだけど。
「え? 急にどうしたの。なんで?」
「いいから! 大変なことなのです、これは!」
クラウディアに引きずられるように王宮を進む。
「ちょっ、わかったから、行くから!」
王様にそんなにすぐに会えるの? とも思ったけれど、クラウディアが「国の命運に関わる火急の用である」と伝えると、次々に扉が開いていく。
あの光るツチノコ魔法、そんな大事なんだろうか?
ついに、謁見の間。
あ、ユーリくんもいる。
王様の隣には見たことのない女性。私を見て、一瞬ギョッとしたような顔をした。王妃様、かな。なるほど今の私に似ている。そりゃ驚くよね。
「陛下、突然のお目通りをお許しいただき誠にありがとうございます」
クラウディアが跪いて話し始める。
慌てて私も同じポーズを取ろうとする、と、クラウディアに止められた。なぜ?
「うむ。面を上げよ。それで火急の報告とは?」
「はい、こちらのユウリ……いえ、オオノ・ユウリ様は、神の祝福を受けた『御使の聖女』であることがわかりました」
ざわざわっ!
周りの人たちが一斉にざわつく。
なに、なになに、それ。
一人取り残される私。
「……それは、誠か」
「はい、夢で神に逢われたと。半信半疑でしたが、証拠がございました」
「聖女ユウリ、先程の魔法を使って見せてください」
「聖女て……。ライトアローのこと?」
「はい。詠唱は覚えていますか」
「ええと……等しく我らを照らす光のマナよ、我に力を与えたまえ」
手に魔力を集めると、またウニョウニョ動き始める。
「ライトアロー」
念のため、誰もいない方に向けて発射。
ぼてっ。
相変わらず光の三角コーンもどきが床に落ちてうねうね進む。そして消える。
気がついたら、辺り一面、シーンとしている。
……気まずい。
その静寂をクラウディアが破る。
「こんなライトアロー、どなたもご覧になったことはないでしょう。これが神のご意志なのです。数日前の夜、夢の中で神に何を授かりましたか?」
「え……『太さ』を……」
クラウディアに振られて答えたものの、大勢の前でこんな残念スキルもらったって言うの、恥ずかしい。
「それが、先程のライトアローか……なるほど……とても太い、な……」
王様、そんな神妙に言うほどのもんでもないでしょあれ。
すると、王様は玉座から立ち上がり、私の方にやってくる。
近くまで来て、突然跪く。
「えっ」
これにはさすがの私もびっくり。
「ちょっと冗談やめてください、王様でしょあなた。なにいきなり私なんかに跪いてるんですか」
クラウディアもびっくりしているかと思ったら、全然してないというか、なんならクラウディアも私の方に向きなおして跪いてる。
ざざっ!
王様に呼応するように、みーんな私の方を向いて跪いた。
……嫌な予感。
ツチノコが珍しいって思ってたら私が珍しい方だったってやつ!? そっちかよ!!
「御使の聖女ユウリよ」
王様が私の目を見て話し出す。
ああこれはビンゴ。やばい展開だ。絶対面倒なやつ。何十回もゲームとかで見たやつ。
「伝承によれば、神の祝福を受け遣わされし聖女は、国を、世界を救うと言われておる。異世界からの来訪といい、ただものではないと思っておった。どうか、我が国、グランバークをお救いください」
ああー!! やっぱりー!!
どう考えてもこれ選ばれしなんたら的な展開だと思ったのよ!
ただの一般人なのよ私は。さっきのツチノコ魔法で国救える? 無理っしょ!
「えーと。まず、みなさんどうか普通にしてください。神様に会っておでこひっぱたいたのは本当だけど、もらったのこの『太さ』とかいうしょーもないやつだけなんですよ。あははー」
必殺、笑ってごまかす。
「それが何よりの証拠。先般は英雄などと称し、とんだ失礼をした。あなた様は神に次ぐお方なのです」
「いや……絶対そんなことないから」
どう否定しても聞いてくれない。いいえを選んでも会話が無限ループする昔のRPGみたいになってしまった。
「ユーリくん、クラウディア、ちょっと来て」
もうこの二人に助けを求めるしかない。
「は、御使の聖女様」
ユーリくん、あんた性格変わっちゃってない? そんなキャラじゃなかったでしょ。
「いいから普通に喋って。お願いね。ちょっと別のとこでお話ししましょ。じゃ、王様、ちょ〜っと二人借りますね〜」
二人の背中を押して、テラスのテーブル席へ。ひとまずお茶をいただいて落ち着くことにする。
「ちょっと、何さっきの! いきなり国なんて救えるはずないでしょ! 意味わかんなすぎだから説明して。あ、普段通り喋ってね、敬語使ったらさっきのツチノコぶつけるぞ」
「あ、ああ。ユウリは自分がなんなのかわからないのかい?」
「わかるわけないでしょ! 聖女ってリリアのことでしょ! 私はただの異世界からの居候よ」
「この国に伝わる、いや、他の国にも似た伝承はあるか。言い伝えによると、神に祝福されし聖女が降臨したとき、その国は救われる。そう言われているんだ」
「実際に、二百年ほど前に他国に降臨された聖女は、敵を打ち払い、国を豊かにし、栄華を極めさせたそうよ。それが今のバルード帝国。憎き帝国だけれど、聖女様のその偉大な存在は国を超えて崇められているわ」
……憎き帝国ねえ。国家の事情とか知らんけど。
つまり、過去にも私みたいな転生者がいて、なんか神様にもらったスキルで無双した、みたいなこと?
「その聖女さんはきっと神様からすごくいいスキルをもらったのよ。私の『太さ』とか意味わかんないじゃない」
「件の聖女の祝福は『長さ』だったそうだ。どうだい、似ているだろう?」
あのハゲジジイめ。
昔っからそんなノリなんか。
「……似てはいるけどね。その聖女さん、よくそれで国なんて救えたわね」
っていうか神様、世界のバランスみたいなこと言ってたけど普通にヘンテコスキルでもバランス壊してんじゃない!
「あああ、私のスペシャルお気楽異世界ライフが……」
外堀埋まってるってレベルじゃなかった。
思わず頭を抱えてしまった。




