第7話 『太さ』
王宮の中庭についた。
中庭というけれど、学校のグラウンドくらいある。しかし大部分は庭園になっており、あまり魔法をぶっ放していいようなところには思えない。
「本当に、ここで魔法やっていいの?」
「ああ。いきなりここをメチャメチャにするような魔法なんて使えるわけないからな」
ハハハと爽やかな笑顔でみくびられる。
まあ、実際そんな簡単じゃないよね、きっと。
「じゃあ、まずは魔法……みんなそう呼ぶけど正しくは魔術ね。その基本ね」
ユーリくんも魔法って言ってたけど、確かにクラウディアは宮廷魔術師がどうとか言ってたな。
「魔力を感じて集めるの。こう」
前に伸ばしたクラウディアの右手が、ふわーっと光る。
「抽象的だなあ。うーん、ふんっ!」
とりあえず腕を伸ばして力を入れてみる。
何も起こらない。
「力ではないのよ。集中する感じね」
「こうだぞ、ユウリ」
ユーリくんも手を光らせてみせる。
「ユーリくんも魔法使えるの?」
「ああ、クラウディアには遠く及ばないけどな。王族は大抵みんな魔法が使える。稀に大魔術師も出るんだぞ」
「そうね、大魔術師は稀に現れる飛び抜けた才能の持ち主の称号よ。先の大魔術師様は王家の出、そして私のひいおばあさまにあたる方よ」
「へー。あなたたち親戚なのね」
「親戚? まあ、そうなるな」
少し意外そうな顔をされる。
「ユーリ殿下、ユウリはこの世界のことを知らないから無理もありませんわ。わが公爵家は、王族から幾人もの方をお迎えしているの。逆に王家にも嫁いできた。だから改めて親戚なんて聞かれ方をするのは珍しかったのよ」
なるほど? 確かにユーリくんとクラウディアも婚約者だし? ……現代日本の知識あるとちょっと大丈夫かそれって気もしちゃうけど、そこはまあ、異世界か。
血筋がどうのってのは才能の遺伝みたいなモノだと思うから、それならユーリくんができるならほぼ同じ血が流れてるだろう今の私もできる、のかも?
……魂方面だと無理かもだけど。
「むむむむむ……」
少し現実的に才能ありそうな話を聞けて、練習にも熱が入る。
「まあ、才能があっても普通は一日や二日ではうまくいかないから。気長にね」
「クラウディアも最初できるまでは大変だった?」
「うーん、私はね、気がついたらできていたの。覚えてないくらい小さい頃にね。お父様の魔術を見て真似していたらしくて」
天才だ。天才がいる。
「クラウディア、あなたってもしかしてその大魔術師ってやつなの?」
「えっ!? いや、そんな、私なんてまだまだよ」
そう言いながら満更でもない顔をしている。
「ユウリ、いいところに目をつけた。僕はクラウディアはゆくゆく大魔術師の称号に辿り着けると思ってるぞ」
「リリアに魔法使った時、自分で天才って言ってたもんね〜」
「あ、あれは売り言葉に買い言葉というか、その場のノリというか……」
クラウディア、顔まっか。思い出したら自分でも恥ずかしいのね、あの悪役令嬢っぷり。
「よっ、天才! 大魔術師様! 稀代の悪役令嬢!」
「……前も言ってましたけれど、その悪役令嬢ってなんですの?」
ああ、そうか。まあそりゃそうだ。
わかるわけないよね、こんな概念。
「ええと、王子様の想いびとの邪魔をして、王子様に婚約破棄されがちなご令嬢、の総称?」
「定義が狭すぎますわ……」
確かに。いや、まったく。
「私のいた世界にはよくある話だったのよ」
「……どんな世界なのよ」
また誤解されてそうだけど、めんどうだからほっとこう。
それから私たちは、というか私は、延々と魔法の練習という名のうなり続ける作業を続けた。
二日後。
「おお!?」
「やったじゃない!」
ついに、私の手がぼんやり光った。
クラウディアに比べれば弱々しく不安定な光。でも、確かに私が紡いだ魔力だ。
「三日でできるなんて、すごいわ!」
クラウディアもぴょんぴょん飛び上がりながら喜んでくれている。かわいい。
ちなみにユーリくんは今日は用事があるようで不在だ。このかわいいクラウディアは私が独り占めである。
魔力の出し方、手に集中するっていうか、体の血流ぜんぶ手の先に集まれー、みたいな感じ? これは確かにどう言葉で教えられても自分で「わかる」しかないかも。
とにかく、できなかったら異世界から来ただけのただの人で終わるところだったので、とても嬉しい。
「これを……どうするの?」
「そうね、これができれば簡単な魔法はすぐよ。これとか。ライトアロー!」
クラウディアの手から、矢……というか、ちょっと太いお箸くらいの長細い光の針? 楔? が飛び出す。
何キロくらい出ているのか、結構な速さで飛んでいって庭木に刺さる。そしてしばらくして消滅する。
木には小さな穴が残った。
「おおー。攻撃魔法ってやつ?」
「そうね、その一種。まあこれは牽制みたいなもので、石でも投げた方が強いくらいの初級魔術だけどね」
「やってみたい! ライトアローって叫べばいいの?」
「はじめはきちんと詠唱した方がいいわ。本当はね、集中してその形と役割を具現化できればなんでもいいの。その手助けが詠唱やスペルね」
詠唱。
なかなか本格的にファンタジーっぽさがでてきたぞ。スペルは魔法の名前を言うことだろう。
「手の先に魔力を集めて、さっきみたいな形を思い浮かべながらこう言ってみて。『等しく我らを照らす光のマナよ、我に力を与えたまえ』」
「えー、ひとしくわれらをてらすひかりのまなよ……」
棒読みで唱えてみると、ふわっとした光がもにょもにょ動き始める。新感覚。
「いいわよ、最後まで唱えたらライトアローって言いながら前に飛ぶ動きをイメージして」
クラウディアの言葉にひとつ頷く私。
じゃあ全身全霊でやってみるか!
「我に力を与えたまえ! ライトアロー!」
バシュッ、と光の矢が飛んでいく!
……と思いきや。
「なにこれ?」
なんとも形容し難い、直径十五センチくらいの光の丸太みたいなもの。それが私の手から飛び出して三十センチほど先にぼとっと落ちた。
「な、何が……?」
クラウディアも唖然としている。かなり想定外だったみたいだ。
「あり得ない……こんなライトアロー……」
よくみると一応円錐の形をしている。刺さりそうなほど尖ってないけど。工事現場の三角コーンを小さくしたみたいな?
それは落ちてからもなおもぞもぞと前に進み、そしてしばらくして力尽きたのか動かなくなり、消えた。
「……気色わるっ」
我ながらなんとも言えない感覚だ。これを私が生み出したのだからタチが悪い。
「あー、これが神様の言ってた『太さ』ってやつ?」
ハゲ頭の神様を思い出す。
「神から授かりし、太さ……神に祝福されたというお話、本当だったのね……」
信じてなかったんかーい!




