第6話 『太さ』
リリアを捕まえてから二日。
リリアはタコ殴りにされながら王様にかけた魔法を解き、魔力を封じられて牢屋に入れられたらしい。
判決は、あまりにも前代未聞な事件ということで、結論が出るまでまだしばらくかかるそうだ。
ちなみに神殿からは即日聖女の肩書を剥奪され、切り捨てられたとのこと。
あと謎なのは、クラウディアが言っていた、リリアが話していたという男。
リリアいわく、この男にユーリくんとくっつくバラ色の未来図を吹き込まれ、その手段としてあの魔法を教わった、らしい。
男は「ロウ」と名乗っていたとのこと。
それでコロッと欲に任せてやったと。だからロウという男の正体は知らないということだ。ホントかどうかは知らないけど。
ロウは騒ぎが大きくなる前に姿を消したようで、王国が指名手配し、総力をあげて捜索にあたっている。
クラウディアの見立てと同様に、隣のバルード帝国のスパイではないか、と疑われている。
そんなこんなな夕暮れ近く、王宮の中庭のガゼボ。
クラウディア、ユーリくん、私の三人でお茶会中。
「ユウリ、どうだ、我が王宮には慣れてきたか?」
居候の身となった私だけど、まだ自由に王宮内をうろつき回れるわけではなかった。
クラウディアが世話役を買って出てくれて、この二日は一緒に行動している。
クラウディアといると、クラウディアといたいユーリくんもついてくる。だから結果的に三人でいることが多くなった。
なんだかんだ仲良くなってきた気がする。
「おかげさまで、どうにかねー。でもこれからどうしよっかなって。一人旅とかに出るのが定番なんだろうけど」
「なんの定番ですか。女の一人旅なんて死にに行くようなものですわ」
「やっぱりそういう感じ?」
モンスターなんかがいるのかまだ知らないけど、中世くらいの治安って考えるだけでも、そりゃそうよね。
「異世界のことを色々と教えてもらう約束だからな。しばらくはここにいてほしいぞ」
「あら、こんな美人のお姉さんだからそばに置いておきたくなっちゃった? クラウディアがいるんだから私に惚れちゃダメよ?」
「まあ! ユウリ! とっとと旅にでもなんでも出ていきなさい」
ちょっとからかったらすーぐこれ。ほんとにピュアなんだから。
「誰が惚れるか! だいたいおまえは僕の女版みたいなものだろう。母上みたいな顔をしおって、惚れようがない」
「そりゃそうね、身体的には双子みたいなものだろうし」
そんな会話の横でほっとしているクラウディア。
「まあ、父には気に入られたのだろうな。なんせ母上みたいな顔をしているんだから。ゆくゆくは側室にでも誘われるのではないか?」
ぶっ!
いきなり側室とか言われてお茶をリアルに吹き出してしまった。
「汚いなあ。王家に嫁ぐには淑女としてのマナーを学んでもらう必要がありそうだな」
「あら、でしたら私がお教えしますわ」
変に乗り気なクラウディア。
「……クラウディアにはどちらかというと魔法を教わりたいんだけど。そうだ、教えてよ、魔法!」
そう。魔法。
異世界に来たらやってみたいことランキングナンバーワン。
どうせ暇だし、これからどうしようかとちょっと悩んでいたところだ。手に職がついたら儲けもの。
「教えるのは構いませんが、ユウリが使えるかはわかりませんわよ? 素質のある家系、ない家系がわかれますの」
「やってみなきゃわかんないってことね? じゃあ試してみましょ。私、この世界で自分が何ができるのか知りたいし」
「良い心がけじゃないか。僕も付き合うよ」
ユーリくんはクラウディアと一緒にいたいだけだろー。
「では、明日からでも」
「よろしく!」
*
夜になり、部屋に戻ってきた。
「ふー」
思えば、まだこの世界のことほとんど知らないんだよなあ。
王族や貴族がいる。
聖女もいる。
魔法もある。
いい人も悪い人もいる。
知ってるのこれくらい? これじゃあねえ。
私は、ただの日本の大学生だった。それなりに学校に行って、それなりにサークルとかゼミに行って。
いきなり死ぬとも思ってなかったし、死んだらこんなことになるとも思ってなかった。
鏡を見る。
「ユウリ、か」
私ではない、私。金髪美人のユウリがこちらを見ている。
ベッドに横になる。
クラウディアも、ユーリも、いきなり出てきた私のことを本当はどう思っているのだろう。
私みたいな転生者、他にもいるんだろうか。
そのうち帰れるのか――帰る?
日本に?
死んだのに?
「ま、いっか!」
根っからのずぶとさが私の良さである。
明日のことは明日考えよう。
私は布団に潜り込むと、目を閉じた。
『なんじゃ、また来たのか』
また、夢の中で目が覚めた。
目の前には例の神様。
「いや、別に来たくて来たわけじゃないんだけど」
『本来、ここに来られるということはすごいことなのじゃぞ。少しは有り難がらんか』
まあ、神様に会えるというのはすごいんだろう、実際。
「はいはい。あっ、そうだ。もらったスキル! 『太さ』って、何にも役に立たないんだけど! どうなってんのよ!」
神様だろうが何だろうが、クレームはちゃんと言っておかなければならない。
しかし神様はふぉっふぉっふおっと笑い飛ばす。
『青いのう。あんなレアなスキル、まさに運命、定めとしか言いようがなかろうに。案ずるな、あれはまさにお前のためのスキルじゃ』
「そんなこといわれてもね、どう使えってのよ」
念じようが叫ぼうがなーんにも起きやしない。
『気づかんか?』
「まったく」
『ふぉっふぉっふぉっ、『太さ』は良くも悪くも『太さ』じゃ。たとえば、またここに来られたのは偶然だと思うか?』
「偶然もなにも……寝たら来ただけなんだけど」
『まったく、縁は異なものなのじゃ。まあ遠くないうちにわかりやすくも見えるじゃろうて。アディオス、セニョリータ』
だからなんでスペイン語――と思ったら、またベッドに戻っていた。
「なんか、思わせぶりなこと言ってたなあ……」
もったいぶるの好きすぎるだろあの神様。
そんなことを考えていると、コンコンとドアがノックされる。
「ユウリ? 魔術の練習、やりますか?」
外を見るともう陽が高い。
クラウディアが迎えに来てくれたのだった。
「ごめんごめん、寝坊したわ。やるやる!」
私はあわてて着替えて、部屋から飛び出した。
まあ、スキルは置いといて、とりあえず魔法よね!




