第5話 そして、これから
その後、リリアは肉体的ダメージと私とユーリくんからの精神的ダメージで逃げる気力も失ったようだ。
「聖女で満足しておけばよかったのに、バカな真似をしたわね」
「ぐっ……お前さえ! お前さえ来なければ!!」
私を睨むリリア。
「私も来たくて来たんじゃないけどね、私が来ちゃうスキマを作ったのあんたでしょ。自業自得よ」
「その女より、私の方がユーリ様には相応しいのよ!! 金だって権力だってうまく使ってやれるのに!! わかるでしょう!!」
「……何があなたをそうしてしまったのでしょうね。王家に仇をなす行為をしてしまったのです。覚悟はしておきなさい」
冷静にそう言うクラウディアの目は、いくらかの悲しみを宿していた。
「……!」
クラウディアから目を背けるリリア。
「あのー、ユーリくん。これって容赦とか恩赦とかは……」
覚悟って、そういうコトよねー。仕方ないだろうけどねえ。
「そうだな、父をまず元に戻してもらおうか。話はそれからだ」
「……わかったわよ」
リリアが手を伸ばすと、王様が黒い光に包まれ、その光がリリアの手に戻って収束する。
「む……ここは……」
王様が目を覚ます。
「よし、連れて行け! 対魔法拘束を忘れるな!」
ユーリくんの号令で衛兵たちがリリアを何かで包んで連れて行く。
「ちょっ、恩赦は! ちゃんと元に戻したでしょう!!」
リリアが暴れているけど、衛兵に力で敵うはずもない。
「沙汰は追って公平に下す。とても軽ければ島流しで済むだろう」
おー、ユーリくん容赦ない。オブラートに包んでるけど、軽ければってことは、ねえ。
ピュアで若いけど、彼もまた王家の一員ってことか。
「クラウディア。操られていたとはいえ、あんなことを言ってすまなかった」
「……いえ、心配しましたのよ。元に戻ってよかった。本当に」
クラウディアはユーリくんに控えめに身体を預ける。
少しためらってから、優しくその背中をギュッとするユーリくん。
「うむ! 二人の婚約はもちろん継続しておるとここに改めて宣言しよう! フォーディン公爵令嬢よ、そなたに一切の非はなかった。わしからも詫びさせてくれ。すまなかったな」
王様も頭を下げる。できた王様。
「ならびに、窮地に降臨し救いをもたらした英雄ユウリよ! そなたにもできる限りの褒美を取らせよう。ただ、異世界から来たという者に何を与えたものか検討させて欲しい。まずはゆっくりしてくれたまえ」
おお、なんか貰えるらしい。英雄って。こそばゆいなあ。
*
それから二日。
リリアの沙汰は、あまりにも前代未聞ということで、結論が出るまでしばらくかかるそうだ。とはいえ王太子と王に手を出したのだ、軽くはないだろう。
ちなみに神殿からは即日聖女の肩書を剥奪され、切り捨てられたらしい。
あと謎なのはリリアが話していたという男。ユーリくんいわく魔術師。この男は騒ぎが大きくなる前に逃げたようだ。王国が指名手配し、総力をあげて捜索にあたっている。
昼下がり、王宮の中庭のガゼボ。
「これからどうするのだ、ユウリ」
クラウディア、ユーリくん、私の三人でお茶会中。
なし崩しで王宮に居候させてもらっているけど、考えてみれば不安定な身分だ。
王族とか貴族とかいう前に、私この国の国民ですらないんじゃないかな? 英雄ってなに? 身分?
「どうしましょ。いきなりすぎたから何も考えてないわ。英雄だったら一人旅にでも出るのが定番かしらね」
「なんの定番ですか。女の一人旅なんて死にに行くようなものですわ」
「やっぱり? そんなお話みたいにはいかないよねえ」
モンスターとかいるのか知らないけど、中世くらいの治安って考えたらそりゃそうよね。
「ユウリ、あてもないなら、よかったらここに住まないか」
「あら嬉しい。こんな美人のお姉さんだからそばに置いておきたくなっちゃった? クラウディアがいるんだから私に惚れちゃダメよ?」
「まあ! ユウリ! とっとと旅にでもなんでも出ていきなさい」
ちょっとからかったらすーぐこれ。ほんとにピュアなカップル。
「誰が惚れるか! だいたいおまえは僕の女版みたいなものだろう。母上みたいな顔をしおって、惚れようがない」
「そりゃそうね、身体的には双子みたいなものだろうし」
そんな会話の横でほっとしているクラウディア。
「そうだ、国賓として迎えるように父に頼んでみよう。望むなら爵位も授けられるだろう」
ぶっ!
いきなり爵位とか言われてお茶をリアルに吹き出してしまった。
「汚いなあ。爵位を授けるには淑女としてのマナーを学んでもらう必要がありそうだな」
「あら、でしたら私がお教えしますわ」
クラウディアにはどちらかというと魔法を教わりたいけど。私に使えるのか知らんけど。
ヘンテコな異世界生活の始まりだったけど、まーなるようになるでしょ!
死んだはずなのに、今こうしておいしいお茶いただけてるんだもの。儲けもん儲けもん。
「じゃあ、しばらくご厄介になります! ……あまり堅っ苦しいのはやめてよ?」
ポジティブにいきまっしょー!
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