第4話 謁見の間
「お? なに、君、喋れるの?」
『目が覚めたのだ! 夢で女になったりなんだかいろんな目に遭ったような気がしたが、夢ではなかったようだな! その体は僕のものだ! 勝手をするなよ!』
さすが神様、ちゃんと効果あり。
「はいはい。一歩前進じゃない、よかったわね」
『貴様、何者だ! なぜ僕の身体を使っている!』
「私は大野悠里、なんでかなんて私が知りたいわよ。ああ、強いて言えばリリアのせいかな?」
「ユウリ……?」
ユーリくんの声が聞こえていないクラウディアが怪訝な顔をする。
「あ、ごめんごめん。なんかユーリくんと頭ん中で喋れるようになったみたいでさあ」
「ユーリ殿下!? 殿下がそこにいらっしゃるのですか!?」
がしっ、と私の頭を掴みガクガクと揺らすクラウディア。
この子も大概である。
「ちょいちょいちょい! 落ち着きなさい!」
ガバッとクラウディアに抱きついて止める。
『こらー!! だ、抱きつくなどハレンチな!! そこに直れこの不埒者がー!!!』
ユーリくんの頭に血が昇ったそのとき――
ぽんっ!
『へ?』
私の意識が体の中に吸い込まれる。
「こ、これは……いだだだだだ!」
「ユ、ユーリ殿下!?」
なんと! ユーリくんが体ごと元に戻った!
代わりに私の意識が体の中に押し込められたみたい。
男の体なのでコルセットの締め付けに悲鳴をあげている。素直にかわいそう。
『コルセットよ! クラウディアに緩めてもらいなさい!』
「なるほど!? クラウディア! 背中の紐を緩めてくれ……」
「は、はい! ただちに!」
そんなこんなで。
「ふう……まずは着替えだな……」
爽やかな色の女性向けドレスに身を包んだ金髪イケメン王子。
私的にそんなに悪くはないけれど、一国の王子として問題なのはわかる。
『よし、実験。ふんっ!』
「なに? ……ぬわっ!」
私が意識を集中して戻れ戻れと念じると、またぽんっという音と共に私とユーリくんが入れ替わる。
「ほっほっほ、私の勝ちねユーリくん!」
『なんだとー!』
「ユウリ!? 何がどうなっているの!?」
「次は……うりゃ!」
またクラウディアに抱きついてみる。
『だ、か、ら、それをやめろと言ってるだろー!!』
ぽんっ!
「な、なんだ!?」
『あらあらお熱いことで』
抱き合ったまま驚いている二人を冷やかす私。
「あっ、すまん……」
「こちらこそ……」
真っ赤になる二人。若いっていいねえ。
『さっきもユーリくんが怒ったらあなたになったじゃない? それで私も戻れー! って強く念じてみたら戻ったのね。つまり、想いが強い方が前に出られるようになったんじゃないかしら』
神様が言ってた「徐々に」って、こういうことかー。
「だから今はわざと僕を怒らせたのか。こんなことになっているとは……」
『まあ王様に会うならユーリくんでいる方が何かと都合いいでしょ。着替えたら王様のとこに直行! 次狙われるの王様だって相場が決まってるんだから!』
「なんだと!? なぜ父上が!?」
『リリアは王族を操ろうとして失敗したのよ? もうユーリくんにしたみたいに王様を操って無罪にさせるくらいしか手がないでしょ。国からすらも逃げるなら別だけど』
大抵の悪徳聖女は諦めが悪いというあっちの世界での経験則にも基づく。まあフィクションだけどさ。
「なるほど、急ごう。誰か! 服を用意してくれ!」
ユーリくんの声にメイドさんたちが集まってくる。
ドレス姿のユーリくんを見て「あらまあ」みたいな声を上げながら囲んで運んでいった。
楽しそうねー。
*
「父上! ご無事ですか!」
バァン! と扉を開けて謁見の間に入るユーリくん。
ちゃんと昨日みたいな服に着替えている。
続けてクラウディアも一礼して入る。
「お、おお、ユーリ! 女になったと聞いておったが、何事もないようじゃな?」
「はい、それも事実なのですが、今は私に戻っております。父上はお変わりありませんか」
「うむ。わしはどうもないが……今は、というのは?」
『……出ていい?』
「ああ」
『ふんっ!』
ぽんっ!
「な、なんと……!?」
絶句する王様。
「お初にお目にかかります、大野悠里と申します。他の世界から来たんですけど、来たときに息子さんと混ざってしまったみたいで」
我ながら客観的に聞いたら意味がわからない説明だと思う。事実しかないけど。
「他の世界……」
王様、絶句する。
「私はたぶん前の世界で死にました。そうしたらたまたまユーリくんの体に魂の隙間があって、そこに入ってしまったとかなんとか? まあその原因を作ったのは聖女リリアなんですけどね」
これも信じがたい話だけど、神様の説明の通り話してるだけなんだから仕方がない。
「なんと?」
玉座から立ち上がる王様。
「……では、貴様はアンデッドの魔物のようなものか」
ん? んん?
「皆の者、邪悪なるこの者をひっ捕えよ!」
あら?
いきなり風向き変わりすぎじゃない?
これは……もしかして、もうリリアにやられちゃってたかなー?
わらわらと迫り来る衛兵!
『父上! 悪いのはリリアです! この者ではありません!』
ぽんっ、と怒ったユーリくんにまた切り替わる。
王太子に代わったからか、衛兵たちの歩みが止まる。捕まえるのを躊躇しているようだ。
「リリアが諸悪の根源! なぜわからないのです! ユウリも被害者なのです! ……たぶん」
『そこで弱気になんなー!』
思わずツッコんでしまった。




