第3話 ユーリとユウリ
部屋に通される。ユーリくんの自室……ではないようだ。客間か何かだろう。それでもそこいらのホテルの比じゃない豪華なお部屋。
しばらくして。
さて。
ドアを開けてみる。
衛兵。衛兵。衛兵。
窓を開けてみる。
四階。絶壁。下に衛兵。
うーん、無理。
警備、本気すぎるだろ。
「あーあ」
ベッドにダイブ。
ぼふっ、と柔らかい布団が体を包む。
さすが王宮、質が良い。
屋根裏みたいなルートもなさそう。あったとしても登れなそう。
床も壁も隠し通路なんてないふつーの部屋。
抜け出して活躍ルートでもないんかーい!?
……異世界、思ったより窮屈。
「寝よ寝よ」
何時かわからないけれど、もう結構な時間だと思われる。
やれることもないので、私はふて寝することにした。
『……!!』
夢を見た。
遠くで誰かが叫んでいるような。
『……おい……おい! おまえ!』
「ん? うおわっ」
夢の中で目が覚めた。不思議な感覚。
目の前で私の肩を揺らしているのは、さっき窓ガラスに映った時に見た金髪イケメンこと、ユーリくん。
「夢で王子様と会うなんてロマンチックねー」
『のんきな奴だな。こんなことになっても慌てもしないのか』
「私の世界には結構こういう話転がってるから、慣れてるのよ」
『……どういう世界だ』
語弊はある。しかし訂正はしない。なぜならその方が面白そうだから。
「それはそれとして。あなた、今どこにいるのよ。クラウディア泣かしちゃダメよ?」
とにかくこの男を連れ戻さないと。私も身動き取れないしクラウディアもかわいそうだし。
『おまえの中……いや、僕の中にいる。ずっと魂が肉体から隔離され押し込められた状態だったのだが、おまえが来てからここまで出てこられるようになったのだ』
「何があったのよ。おおかたリリアになんかされたんでしょうけど」
『そうだ。おまえも受けたあの黒い魔法。あれを受けたら意識が隔離され、勝手に身体が動かされていたのだ』
リリアやるねー、なにその術。悪そう。
「でも私には効かなかったわよ? まあなんか、君の体が女にはなったけど」
『ああ、知っている。まったくなんということか。リリアの魔法は魂と肉体を分離して調整する魔法。僕の魂はそれで隔離され、隙間をリリアに使われたんだ』
「スキマ、ね……もしかして君にそういうスキマがあったから、私がそこに入り込んだってわけ? スルっと?」
『その可能性が高いな。もしかしたら名前まで同じで親和性が高かったのかもしれない』
そんなムチャクチャな。
「じゃあ女になったのは?」
『おそらく、おまえの魂が僕の体と完全には一致していなかったのだろう。別人だから当たり前だがな。それがあの魔法で魂に干渉したので、体の方が先に反応しておまえの魂にピッタリになった。そう踏んでいる』
「うーん、わかるような、わからないような……。それで、これからどうすんのよ?」
『リリアを探し出して、何としても反魂の術をかけさせるんだ。あいつは僕を操りながら、見知らぬ魔術師らしき男とそんな話をしていた。僕は動けない。頼んだぞ!』
「あ、ちょっと!」
もっと色々聞きたかったのだけれど、リアルに目が覚めてしまった。
窓を見ると朝。夢の中の体感よりずいぶん時間が経っていたらしい。
「ユーリ殿下、お目覚めですか」
コンコンコン、とドアがノックされる。
「はい、起きてまーす」
殿下じゃないけど、もうめんどいから流すことにした。
「失礼いたします」
入ってきたのはメイドさんたち。
おお、ホンモノ。
「お召し物をお取り替えします」
「え」
有無を言わさず三人がかりで寝巻きを引き剥がされる。
あれよあれよと着付けをされていく。
「はい、できました」
「おおー……」
鏡に映るのは空色のドレスに身を包んだ金髪美女。いいのか、ドレスで。
部屋から出ると、衛兵に交じってクラウディアがいた。
迎えに来てくれたみたい。
「朝食の前に申し訳ないけれど、国王陛下が速やかにユウリに会いたいとのことですわ。謁見の間にご案内します」
ああ、そりゃ息子がこんなふうになったら気になるよね。
「わかったわ、案内よろしく!」
そう言ってクラウディアの手を取った。
『こらー! 勝手に僕のクラウディアに触れるなー!』
頭の中に響く声。ユーリくんだ。
「お? なにあんた、喋れるの?」
『昨夜お前と夢で会っただろう。その影響か以前よりも前に出てこられるようだ。女になったとはいえその体は僕のものだ! 勝手をするなよ!』
「はいはい。一歩前進じゃない、よかったわね」
「ユウリ……?」
クラウディアが怪訝な顔をする。
「あ、ごめん、なんかユーリくんと頭ん中で喋れるようになったみたいでさあ」
「ユーリ殿下!? 殿下がそこにいらっしゃるのですか!?」
がしっ、と私の頭を掴んで揺らすクラウディア。
この子も大概である。
「ちょいちょいちょい! 落ち着きなさい」
ガバッとクラウディアに抱きついて止める。
『こらー!! だ、抱きつくなどハレンチな!! そこに直れこの不埒者がー!!!』
ユーリくんの頭に血が昇ったそのとき――
ぽんっ!
『へ?』
私の意識が体の中に吸い込まれる。
「こ、これは……いだだだだだ!」
「ユ、ユーリ殿下!?」
なんとユーリくんが体ごと元に戻った!
代わりに私の意識が体の中に押し込められたみたい。
男の体なのでコルセットの締め付けに悲鳴をあげている。素直にかわいそう。
『コルセットよ! クラウディアに緩めてもらいなさい!』
「なるほど!? クラウディア! 背中の紐を緩めてくれ……」
「は、はい! ただちに!」
そんなこんなで。
「ふう……まずは着替えだな……」
爽やかな色の女性向けドレスに身を包んだ金髪イケメン王子。
私的にそんなに悪くはないが一国の王子として問題なのはわかる。
『よし、実験。ふんっ!』
「なに? ……ぬわっ!」
私が意識を集中して戻れ戻れと念じると、またぽんっという音と共に私とユーリくんが入れ替わる。
「ほっほっほ、私の勝ちねユーリくん!」
『なんだとー!』
「ユウリ!? 何がどうなっているの!?」
「次は……うりゃ!」
またクラウディアに抱きついてみる。
『だ、か、ら、それをやめろと言ってるだろー!!』
ぽんっ!
「な、なんだ!?」
『あらあらお熱いことで』
抱き合ったまま驚いている二人を冷やかす私。
「あっ、すまん……」
「こちらこそ……」
真っ赤になる二人。若いっていいねえ。
『さっきもユーリくんが怒ったらあなたになったじゃない? それで私も戻れー! って強く念じてみたら戻ったのね。つまり、想いが強い方が前に出られるようになったんじゃないかしら』
「だから今はわざと僕を怒らせたのか。昨晩から少し様子が変わったと思っていたが、そんなことになっていたとは……」
『まあユーリくんでいる方が何かと都合いいでしょ。着替えたら王様のとこに直行! 次狙われるの王様だって相場が決まってるんだから!』
「なんだと!? なぜ父上が!?」
『リリアは王族を操ろうとして失敗したのよ? もうユーリくんにしたみたいに王様を操って無罪にさせるくらいしか手がないでしょ。国からも逃げるなら別だけど』
大抵の悪徳聖女は諦めが悪いというあっちの世界での経験則にもよる。フィクションだけど。
「なるほど、急ごう。誰か! 服を用意してくれ!」
ユーリくんの声にメイドたちが集まってくる。
ドレス姿のユーリくんを見て「あらまあ」みたいな声を上げながら囲んで運んでいった。
楽しそうねー。




