第3話 神様
神。
それは人を超越した存在。
その存在との邂逅は、過去から現在に至るまでの、人類の見果てぬ夢である。
などと詩的なことを考えても目の前のハゲたおっちゃんがソレならば、そんな大それたもんでもない様に思える。
『心、読めるからな? 神の髪に触れることは禁忌じゃぞ?』
「つまんないダジャレはさておき、すごいわね。本物の神様みたい」
『本物じゃ! まったく、なんで魂でなく人の姿、それも全然違う見た目になっておるのか……。変なやつじゃのう』
「転生の神様ならあなたが私をあの世界に飛ばしたんでしょうが!」
『は? いやワシは何もしとらんが』
「は?」
『ん?』
噛み合わない二人。
「あー……」
私は昨日の経緯を話した。
『なるほどのう? となると隣の神か? いやしかしワシの領域だしのう。どれ』
神様が私の頭に手を乗せる。
『なるほど、確かに他の者が眠っておる』
ユーリくん、私の中にいるんだ?
『おそらくは、その聖女の魔術、それは魂を体から分離して眠らせ、その隙間を使い身体を操る魔術。お主はその隙間に入ってしまったのだろう。スルッとな』
「スルッと」
『うむ。さらに元の人物向けに魔術をかけられたことで、対象外だったお前さんの魂に身体がフィットしてこうなった様じゃな。なんという偶然の産物』
わかるような、わからんような。
「……眠ってる子、起きるの?」
『起こすことはできる。何せワシは神じゃからな』
「そうしたら私はどうなるの?」
『普通の状況ではないからやってみないと確実なことは言えんが、おそらくはヌルっと押し出されて霊に戻る。平たく言えば、死ぬということだ』
「ヌルっと。うーん、また死ぬのはちょっとねえ……」
『そうじゃろうな、最初の死は不必要な不幸であった。だからワシのところに来る権利があった。しかし自ら選んだのでは、ワシのところには来られぬ。ただの霊となる。だから勧めはしない』
「よし、じゃあ二人とも助けてよ! 神様なんだからできるでしょ?」
『神を便利屋のように使うやつじゃな。まあ、実際、できるとも。ただし、お主に渡すスキルを創造する力を使うことになる』
スキル! いまスキルって言った!
「というと?」
『使える力が減れば、スキルの創造が安定しなくなり、変質する。必ず弱くなるとは限らんが、な』
「うーん……」
泣きそうなクラウディアの顔が思い浮かぶ。
私のせいじゃないとはいえ、このままはちょっとなあ。
ま、なんとでもなるでしょ!
「いいよ、それで。私もユーリくんも助けてね!」
神様は私の顔をまじまじと見る。
『珍しいやつじゃな、赤の他人のために不利益になるかもしれぬ方を選ぶとは』
「いいじゃない、誰かの泣き顔より笑顔が見たいもの」
『わかった。ではそうしよう』
神様が再び私の頭に手を乗せる。
温かい何かが流れてくるのがわかる。
一分か、十分か。長い様な、短い様な時間が経ち、神様は手を離した。
『終わったぞ。じきに目を覚ますはずじゃ。そうしたら、徐々に二人に戻るじゃろう』
「徐々に……」
じわーっと身体が生えてくる想像をしてしまう。グロい。
『そういうヤツではない。まあそのうちわかる。それで、お前さんに与えられたスキルじゃが……なんと!』
「なんと……?」
緊張が走る。
『異世界で会話ができるスキルじゃ! すごいじゃろ!』
「……いや、もうできてるから」
そういえばなんで会話できてるのかわからないけど。
『え? そうなの?』
「じゃなきゃさっきの話おかしくなるでしょ」
『それもそうじゃな……じゃあ違うのにするか。少しまて、お前に相応しいスキルは、と。お前の長所はなんじゃ?』
「長所? 難しいこときくのね。うーん……ずぶといところ?」
『……それ、長所か? おお? しかしそれでスキルが創造されたぞ。なんと!』
「なんと……?」
二度目。
神様、もったいぶるの好きみたい。
『なんと、『太さ』スキルじゃ!』
「は? 今なんて?」
『いやー、ワシも長いこと神をやっとるがこんなスキルは初めてじゃわい。では達者でな。アディオス、アミーゴ!』
なんでスペイン語やねんーー
突っ込もうと思ったらお城の部屋のベッドに戻っていた。
外を見ると朝。
案外時間が経っていたようだ。
「まったく『太さ』って何よ! 失礼しちゃうわね! ……まさか!」
慌てて鏡を見る。
しかし、特にでっぷり太ったりはしていなかった。
「ほっ、そんな安直なものではないようね」
でもじゃあ、『太さ』って何? 今よりずぶとくなってもしゃーないし……。
そのとき、コンコンとドアがノックされる。
「はーい」
「起きていましたか、ユウリ」
クラウディアだ。今日は紺色のドレスを着ている。
「リリア、捕まった?」
「それが、どこに隠れたのか、まだの様です」
「そっかー、逃げるの早かったもんねえあの子」
「それより、国王陛下がお呼びですわ。ユウリに会いたいと。それで迎えに来ました」
あー、息子が女に変身したらそりゃ気になるよねー。しかたない、行くかー。
それはそうと。
「クラウディア」
振り向くクラウディア。
「太くなれ!」
両手をクラウディアに向けて念じる。
しかし、何も起こらなかった。
「……なんですの?」
眉をひそめるクラウディア。
「あーなんでもないですごめんなさい」
そもそもどうやって使うのこのスキル。
「ユウリ、陛下の御前に向かうなら、着替えをした方がいいわね。誰か!」
私はユーリくんの服のままだ。たしかにサイズが合ってなさすぎてみっともない。
「失礼いたします」
クラウディアの声に応えて入ってきたのはメイドさんたち。
おお、ホンモノ。
「お召し物をお取り替えします」
「え」
有無を言わさず三人がかりで服を引き剥がされる。
そしてあれよあれよと着付けをされていく。
「はい、できました」
「おおー……」
鏡に映るのは空色のドレスに身を包んだ金髪美女。いいのか、ドレスで。
「お似合いですよ、ユウリ。では参りましょう」
「うん、案内よろしくね!」
言いながら、私はクラウディアの手を取った。
そのとき。
『こらー! 勝手に僕のクラウディアに触れるなー!』
ユーリくんの声が頭の中に響いたのだった!




