第2話 事情
そこからは大騒ぎ。
王太子がいきなり女になって中身も変わっちゃったんだから、そりゃみんな驚くよね。
婚約破棄騒動なんてどっかにいってしまった。
目撃者多数、明らかに原因はリリアだ、ってことで、逃げたリリアをみんなで探し回っているらしい。
なんであの子いきなり私に魔法かけたんだろ?
あ、急に王子様の性格が変わったから、悪霊かなんかが乗り移ったと思ったのかな? そんなこと言ってたよね? 聖女だって話だし。
悪霊ではないけど、乗り移ったというのは間違いでもない。王子様のユーリくんには悪いけど。
……私、悪霊じゃないよね?
でもそれで除霊? されかけたとして、魔法がかかったら女になった理由がよくわからない。そんな魔法をあの子が使う意味がないし。
元々女の私にとっては都合いいけどさ。
まあそんなこんなで混乱している中、私はとりあえず気を失ったクラウディアの看病をしていた。
ちなみに私自身も怪しさしかない重要参考人なので、いろんな人に取り囲まれている。
「ん……私……」
「大丈夫? なんかごめんねー、突然のことだらけで」
努めて明るく話しかける。
「いえ……。ユーリ殿下……ではないのですね」
嘘をついても仕方がないので、正直に話す。
「そ、偶然私も悠里って名前なんだけどさあ、たぶん別の世界の住人なのよ。急にこの世界、ユーリくんの体の中にやってきたってわけ」
「そ、それではもしかしてユーリ殿下は入れ替わりでそちらの世界に!?」
頭を上げて私を見るクラウディア。
目は真剣そのもの。
「うーん、申し訳ないけどそれはわからない。私もなんでここにいるのかすらわからないのよね。彼はあなたの婚約者なの?」
「はい。あ……いえ、婚約者でした。先ほどまでは……」
さっきの婚約破棄を気にしている様子のクラウディア。
うやむやになったんだから気にしなくていいのにねえ。まあ気にするかあ。大人びているけど、たぶんまだ十五、六くらいだもんねこの子。
「あんなの無効だって。安心しなさい! ユーリくんである私……なのかはもうよくわからないけど、とりあえず私が保証するわ!」
どん、と胸を叩く私。
「ユウリは優しいのですね。ふふ、ありがとうございます」
クラウディアは初めて私の前で微笑んだのだった。
「で? リリアはイジメとかなんとか言ってたけど、どういうこと?」
クラウディアいい子っぽいし、話の流れからなんとなく察せるけど。一応聞いておく。
「そんなこと、一切、していませんわ! あの女……聖女リリアにまとわりつかれて、いつからかユーリ殿下はおかしくなられてしまって……!」
握った手が震えてる。
よほど腹に据えかねているらしい。
詳しく聞くと――なんでも、リリアは一年ほど前に聖女の才に目覚めたとして王都に連れてこられたらしい。
クラウディアとユーリくんは、国のために親元を離れ王都にまで来たリリアを妹のように可愛がっていたと。しかし、いつからかリリアがユーリくんに色目を使うようになり、ああなったそうで。
「恋は盲目って言うけど、なにも婚約者のいる王子様狙わなくったってねー。あ、お代わりお願いします」
話が長くなってきたので場所を移してお茶をいただきながら話をしている。さすが王宮のお茶、おいしい。
「そんな可愛いものではありません! 私は神殿でリリアが誰かと喋っているのを聞いてしまったのです。リリアは権力と財産欲しさにユーリ様を狙っているだけだと……!」
あー、そっちね、そっち。
正ヒロインじゃなくて悪徳聖女の方か。
「それは誰と話してたの」
「……わかりません。壁越しだったので。男性でした。二人とも下卑た笑い声をあげて、あれが聖女なのかと耳を疑いました。今思えば……あれは内乱を画策した帝国の手の者かもしれません」
帝国ねえ。なんか色々ありそうね、こっちも。
「リリア、演技派ね〜」
私が見たリリアはまさに聖女〜って感じだった。語彙力。
「私は、すぐにユーリ殿下にそれをお伝えしました。殿下は、僕にはクラウディアがいるのだからそんなことにはならない、リリアにもきちんと言っておくとおっしゃってくださいました」
だんっ、とテーブルを叩くクラウディア。
気配を察しカップを持ち上げたので私のお茶は無事。
「……それからです、ユーリ殿下がおかしくなってしまったのは! 憚らずにリリアとベタベタしはじめ、私がそれを注意するとイジメだなんだのと……」
「それで、しまいには今日の婚約破棄、ね」
「……はい」
うなだれるクラウディア。
うーん、重症だわー。この子ユーリくんのこと大好きなのね。そりゃ好きな子にあんなこと言われたらショックね。
「よし! じゃあお姉さんが一肌脱ぎましょうか! リリアとっちめて根掘り葉掘り聞いてやろうじゃない!」
ユーリくんを戻せるのか、戻したら私がどうなるかは知らないけど、このまま放っておくのもかわいそうだしね。
「いきましょう、クラウディア! リリアを探しに!」
立ち上がる私!
止める衛兵!
あれ?
「あなたはユーリ殿下の変化されたお姿と見なされております。つきましては非常事態ゆえにご勝手な行動は止めるよう仰せつかっております」
えー。
「ごめんクラウディア、なんかダメっぽい」
こういうのって転生者の私が主役で、バンバン探検してドンドン活躍して、じゃないの!?
「仕方がありませんわ。あんなことがあって、王宮としてもこれ以上なにか困ることがあってはなりませんもの」
お気持ちは嬉しいですわ、とカーテシーされる。
おお、これが本物の淑女の礼。いいもの見た。
*
「ご案内いたします」
衛兵が私を部屋に案内してくれた。
通された部屋は、ユーリくんの自室……ではなさそうだ。客間か何かかな。それでもそこいらのホテルの比じゃない、豪華なお部屋。
しばらく経ち。
ゆっくりドアを開ける。
衛兵。衛兵。衛兵。
窓を開けてみる。
四階。絶壁。下に衛兵多数。
うーん。脱出、無理。
警備、本気すぎるだろ。
「あーあ」
ベッドにダイブ。
ぼふっ、と柔らかい布団が体を包む。
さすが王宮、質が良い。
屋根裏みたいなルートもなさそう。あったとしても登れなそう。
床も壁も隠し通路なんてないふつーの部屋。
抜け出して活躍ルートでもないんかーい!?
……異世界、思ったより窮屈。
「寝よ寝よ」
何時かわからないけれど、もう結構な時間だと思われる。
やれることもないので、私はふて寝することにした。
「ん……夢?」
にしては意識がハッキリしている。
夢の中で目が覚めたって感じ。不思議な気分。
あたりを見る。
見たことのない、白い空間。
『おお、大野悠里よ、その彷徨える魂を……お主、誰じゃ?』
顔を上げると、立派な白ヒゲを生やした髪の薄いお爺さん。
「お? おお? もしかして? はいはーい、大野悠里でっす!」
これは、もしや!?
『む? まことか? いやしかし魂は本人じゃな……。ワシはこの辺りの転生を司る神じゃ』
やっぱりー!!




