第1話 そっちかよ!
※短編の連載版です。5話までは短編とほぼ同じ話になります
「クラウディア・フォーディン公爵令嬢! この私、ユーリ・グランバークはおまえとの婚約を破棄する!」
私、大野悠里はそんな声で目を覚ました。
あ、あれ?
コンビニからの帰り道に、信号無視したトラックに轢かれるー! と思った。
そこまでは覚えている。
それで気を失って――
今、立っているのはホテル? 結婚式場? みたいな大広間。
目の前には深紅の豪奢なドレスを着た女の子。
傍には白いゆったりとした法衣に身を包む女の子。
離れたところには幾人もの中世西洋風の服を着た人々。
……どゆこと?
私は、目の前の女の子をびしっ、と指差したポーズで立っていた。
「えーと、ひっ!」
自分で喋って自分の声に驚く。明らかに自分のものではない低い声。
「な、なにこれ……」
喉を触ると、なんだかゴツゴツした感触。
ふと横を見ると窓ガラス。外は夜。
その暗い窓に映る私は――
金髪の青年だった。
「えええー!!!」
思わず大きな声が出る。
今さっきまで日本人の大学生の女だったんだから、こんなの驚くに決まってる。
そんな私を変なモノを見る目で眺める周りの人たち。
……いきなりキョロキョロして叫び出す人がいたらそりゃ見るか。
「ユーリ殿下。それで、婚約破棄ですか。……そんなに私がお嫌いだと」
そのざわついた状況を打ち破ったのは、目の前の深紅のドレスの美人さん。よく私の名前が悠里だってわかったね?
ん、なんかめっちゃ怒ってない?
「婚約破棄……?」
そもそも婚約なんてしたことがない。怪訝な顔をしてしまう。
「ご自分から言い出しておいて、とぼけないでくださいますか!? 王太子殿下ともあろうものが……。今さっき高らかに宣言していたではありませんか!」
言われて思い返してみると、確かに目が覚める時に誰かがそんなことを言っていたような?
……。
あれ言ってたの私かー!!
なにこれ、まさかの異世界転生ってやつ!?
私がこの子の人生めちゃくちゃにしたところだったのね!?
いやいやいや。
何もそんなタイミングで転生しなくてもいいじゃない!
そりゃ怒ってて当然よね……。
っていうか転生先、婚約破棄した側なの!? そっちかよ!?
普通は言われる側でしょこういうのって!!
「あー、ちょーっと待ってねー? いま頭の中整理するから」
目の前にはプンプン怒っている子。
横にはこわ〜いとか言いながら私の腕にしがみついてくる子。
そして婚約破棄。
……ということは!
「わかったわ! アナタ、悪役令嬢ね!?」
「誰が悪役ですか!!!」
イキイキと言った私の三倍くらいの声量で怒られた。
ゴメンナサイ。
「と、とにかく! ユーリ様は私と婚約されるのです! クラウディア様が私を酷くいじめてきたせいでこうなったのですから、自業自得ですわ」
埒が明かないと思ったのか、私の腕にしがみついている子が話を進める。
「何を馬鹿なことを! 私はそんなことはしておりません。聖女リリア、全てはあなたの自作自演でしょう! ユーリ殿下に何をしたの!」
目の前の赤い子がクラウディアで、隣の白い子がリリアね。把握。
「はいはい、ストーップ。ケンカはそこまで。何があったのかお姉さんに話してごらん?」
私は二人の間に割って入る。
「お、おね……?」
「ユーリ様、気色悪いですわ」
二人して一歩後ずさる。
あっ、いま男の人なんだった。
「いやー、信じてもらえないと思うけど、突然さっきから中身が私になっちゃったんだよね〜。あ、私は大野悠里。二十一歳の女よ」
一応、自己紹介しておく。
「王の、ユーリ? ゆくゆくは王となる方とはいえ、殿下は王太子。さすがに王を名乗るのはいかがなものかと」
……あー。
大野悠里が王のユーリってやかましいわ。
奇跡的な誤解だなおい。
……っていうか日本語のダジャレ通用するんだ。異世界、不思議。
「クラウディア、紛らわしくて悪いんだけど、王子様のユーリじゃなくて悠里って別の人に中身が入れ替わったのよ。まあ簡単には信じられないわよね、そりゃ」
綺麗な顔を怪訝と不審に染めるクラウディアちゃん。
一方、なんか愕然とした顔をしているリリアちゃん。
と思ったら。
「ユーリ様をたぶらかす悪魔め! 消え去れ!」
突然そう叫んだリリアの手がいきなり黒く光ったと思ったら、私がその黒い光に包まれる!
なにこれ!? 魔法ってやつ!?
痛くも熱くもないその光が収まった時――
「なっ……!?」
クラウディアが目を見開く。
「あら?」
急に服がゆるゆるに。
余った袖で手が隠れる。
声も高くなった。
「なんか私縮んだ?」
子供……いや、これはどうやら女性の身体になったらしい。
どう考えても今の魔法? のせいよね。
さすが異世界、なんでもアリね。
……王子様成分ゼロになっちゃったけど、いいんだろうか。
いやでも、やっぱり女性の方がなじむわー。
元の体とはちょっと違うみたいだけど。
「……!」
そんな私をひと睨みすると、リリアは急に走って逃げ出した。
「え? どしたん?」
ボケーっと見てると、大勢の衛兵がその後を追う。
「ユーリ、殿下……?」
クラウディアが恐る恐るという感じで話しかけてくる。
うーん、この子にしてみると、婚約破棄される、王子様がおかしくなる、王子様が女になる、って異常事態の三連コンボか。かわいそうに。
こんな時は、務めて明るくポジティブに!
「どーも! 異世界人でっす! よろしくっ!」
顔の横にピースを作ってそう言った私を見て、クラウディアが気を失って倒れた。
「ちょーっと! おーい!」
どうも、異世界人アピールは逆効果だったみたい。




