第31話 帝都の晩餐
「ほー、これがバルード帝国の帝都ねえ」
グランバーク王国の王都に比べても、大きく、整理された街だ。
こういう敵の都は黒基調で、重々しい石の建物が並ぶ、みたいなイメージだけど、別にそんなことはなく。
明るくて活気のある街並みが続く。
「まっすぐで広い道ですねえ」
リリアが素直な感想を漏らすと、比べられたと思ったのか、ユーリくんが少し怒った顔をする。
「ここはたかだか百五十年前にできた街。『長さ』の聖女様のおかげで勢力を拡大した成り上がりが新たに作った街なのだ。だから道も整理されているだけ。五百年居を構える王都とは伝統が違うんだ」
うんうん、と頷くクラウディア。
「おーっと、それは違うぜ。旧帝都、バルードの街だってお前らの王都くらいの規模はあらあ。ま、うちの国は大きいからな。帝都もこれくらい無いと間に合わねえってことよ。いやー、大帝国は辛いわー!」
テオドールが若干うざい張り合い方をする。
「ふん、御使の聖女様が降臨されなかったら今も地方の小国だったろうに、運だけは良かったな」
うーん、戦争してる国同士の王子なんだから当たり前だけど、仲悪いわねこの二人。
「はいはい、まあもう日が暮れるし、お城の近くで一泊しましょう。皇帝への挨拶は明日でいいわね?」
橋を壊してしまったのでランスくんと馬車を帝都に入れるのに大回りしたりして、あれから結構時間が経ってしまったのだ。
「ああ、構わない」
「その方が帝国側も都合は良い。御使の聖女を迎えるとなればそれなりに準備の時間が要る」
……あんたさっきまで私を殺そうとしてたくせに。
「まあ、いいわ。じゃあ、ウォーレンさん、泊めて?」
「わ、我が家にか?」
「帝都で一番信頼できるのウォーレンさんだし? 侯爵ならいいお屋敷住んでそうだし?」
「しかし……一国の王太子や公爵家の者を泊めるというのは……」
「我らはどこでも良いぞ。旅で野宿もするくらいだしな」
ユーリくんとクラウディアも乗り気。
「迎賓館とか嫌よ。いつ寝込み襲われるかわからないじゃない」
「我が帝国はそんな姑息なマネはせん!」
「堂々と知らない人に矢を撃つって? おーこわ」
「あれは……そう、お前を試したのだ!」
そう、じゃないわよまったく。
「お前じゃないでしょ? しもべ一号?」
「ぐ……ユウリ……様……」
テオドールは他人の扱いがナチュラルに軽すぎるし、他責思考が強いし、本格的に教育が必要な性格してると思う。
子がこれなら親も大概そうね。
こう考えてみると、権力者の子なのにユーリくんとかクラウディアは良い子に育ってるんだなあ。
「じゃあここで今日はバイバイね。ああ……ところで、あんたのやってたヘンテコ教派、あれって帝都以外にも支部があったりする?」
「いや? 無いぜ。まだ立ち上げて半年だしな」
新興にも程があるだろ。
しかし、ってことは国境の街で襲ってきたあの集団は別の組織ってことなのね。
「そう。悪の芽を早めに摘めてよかったわ。じゃあまた明日」
「いちいち引っかかるやつだな……おうよ。いいか、俺が第一使徒だからな!」
「第一しもべね」
*
そんな感じでテオドールの一行と別れ、私たちはウォーレンさんの屋敷へと来た。
「あなた、お帰りなさいませ。まあ、お客様」
「お父様、お帰りなさい!」
綺麗な奥さんと、私の感覚では小学生の中学年? くらいの息子さんが出迎える。
「うむ、今戻った。こちらの方々は、詳しくは後で説明するが……グランバーク王国からの客人だ」
「まあ、グランバークですか」
露骨に嫌そうな顔をされる。
そうかあ。考えてみれば、敵国で、旦那の戦争の相手、つまりは命を狙ってくる対象だもんなあ。
「ちょっと、大丈夫そう? 無理そうなら別の宿探すけど」
「部屋は足りる。案ずるな」
ウォーレンさんは意に返さない。
家主がそういうなら、いいんだけど……。夫婦仲的に、大丈夫?
「グランバークなんてやっつけちゃえ!」
息子さんが棒切れを持って現れる。
「おっ、元気がいいな! 僕が相手になろう……あだっ!」
ユーリくんが付き合うつもりで申し出たら、息子さんは有無を言わさぬ速さで打ちかかり、良い一撃が入る。子供離れした速さ。
「こら、ブラン。手加減せねばいかんと常々言っておるだろう。すまぬな、息子は筋が良くてな」
真顔で息子自慢するウォーレンさん。
ブランくん、将来有望そう。
いや、ユーリくんも相当なんだから、すごい剣士になるんじゃないか?
「お邪魔しまーす」
つい玄関に入る時はそう言ってしまう。日本人ですから。
中は質実剛健という感じのお屋敷。華美ではなく、それでいて質が良い。
ウォーレンさんらしい。
「少し休んだら夕食にしよう」
そう言って、私たちは一人一部屋を与えられる。押しかけた立場で言うのも何だけど、侯爵ってすごいね。いきなり客が五名も来て普通に泊められるんだから。
しばらくして夕食に呼ばれる。
「いただきます」
これもついこう言ってしまう。日本人ですから!
「あら、古風なご挨拶ね。神殿の方みたい」
奥さんが反応する。知ってるんだ。
この国、テオドールの苗字といい、変なところで日本の文化が伝わっている気がする。
食事の開始に合わせ、ウォーレンさんが私たちの紹介を始める。
「では、改めて紹介しよう。まずは、リリア殿。王国の聖女だ」
「はじめまして、聖女様。エカチェリーナ・ウォーレンと申します」
礼をするリリアに、笑顔でお返事してくれる奥さん。
「こちらが、フォーディン公爵家のご令嬢、クラウディア殿」
「はじめまして、クラウディア・フォーディンと申します」
わざわざ立って淑女の礼を取るクラウディア。
「まあ、公爵家の方でしたの。これはご丁寧に」
「こちらは、ユーリ・グランバーク王太子殿下」
「まあまあ、王太子殿下!」
奥さんの驚く声が大きくなる。
「そしてこちらは、ユウリ様。御使の聖女様だ」
「まあまあまあ、御使の……聖女様!?」
奥さん、ひっくり返る。
無理もない。
「そして最後に……おい、大丈夫か」
ランスくんは紹介される機会を逃した。
そんなこんなで楽しくお食事会が始まった。
前菜のスープをいただく。とても美味しい。
正直、料理のレベル、王国より帝国の方が上なのかも?
「いや〜、こっち来てこんな美味しいもの食べたことなかったわー」
「まあ、お上手ですこと」
奥さんがおほほと笑う。
ユーリくんがちょっとニラんでくる。
いや、王宮の料理も美味しかったよ? ただこっちの方が美味しいってだけで。
しょうがないじゃん、だって心からの褒め言葉なんだもん。
さあ次はメインディッシュだ、となったその時。
「あれ……なんか、眠い……な」
周りを見ると、私たちだけでなくウォーレンさんたちも、机に突っ伏している。
――やば。
そう思ったところで、私の意識は途切れた。




