第30話 爆誕! ユウリ教!
「う……御使の聖女様……」
あっ、さっき斬られた人! 普通にまだ生きてた。
「リリア、ヒールしてあげて」
「はい、ユウリお姉様」
私のヒールだと色々問題あるので、リリアに任せる。
「さて。あなたね、皇太子だかなんだか知らないけどさ。味方や見知らぬ私に矢を射かけたり、部下を斬りつけたり、随分なことやってくれるじゃないの。何を根拠に私を偽物だって言ってんのさ?」
私はテオドールに詰め寄る。
皇帝と友好的に話をするためにやってきたのに、その息子がいきなり襲ってくるなんて、許せることではない。
「うるさいぞ! 俺を誰だと思っている!」
「相手の強さもわからずに攻撃してきて、反撃を手加減されてなきゃもう死んでたアホ、でしょ」
この世界に来て一番冷たい目をしている自信がある。
「なんだと……!」
怒りで顔を真っ赤にするテオドール。
かといってろくな反論は思いつかないようだ。
「ウォーレンさん、この人いつもこんななの?」
「……私に聞かないでくれ」
中間管理職、大変ねえ。
「ハァ。そりゃあ、蘭さんもこの国ぶっ壊してくれって言うはずだわ」
「蘭さん?」
ヒールを終えたリリアも戻ってきて会話に加わる。
「『長さ』の御使の聖女様よ。直接言われたの、この国と信仰ぶっ壊して、って」
『えええええ〜!!!』
周りのみんな大合唱。ユーリくんとかも。
「そんな話、聞いてないぞ! ユウリ!」
「そりゃ言ってなかったからね。交渉に向かっているとき、神様にまた会ったって言ったでしょ? その時、神様と一緒にいたのよ。蘭さん」
「ユウリ様、そのためにここまで参られたのか? それであれば話が随分と変わるが……?」
あっ、ウォーレンさんが殺気立ってる。
帝国潰すために来たのか、なんて思ったらそうなっちゃうか。
「違う違う。前も言ったけど、それならもう帝都なくなってるから。私は戦いとか争い嫌いなの! 平和な国から来たから! お願いはされたけどやるとは言ってないわ。見定めに来た、に近いわね」
そういう意味では、見定めの最初がこの歓迎でだいぶ第一印象は悪いけど。
「もう一度聞くわ。テオドール、あなた、なんでこんなことしたのよ。ロウ枢機卿絡みじゃないの?」
「ロウ? なぜ俺が格下の言うことを聞かなければならんのだ。大体、お前の話を信じる道理がない! オラン様はランなどという名前ではない! 我らがオラン様こそが至高! 他の聖女などすべて偽物に決まっているのだ!」
ああ……オラン様原理主義みたいな? いや、蘭さんがそんなこと言いそうにないから、歪んだ教えの教条主義か。
「お蘭の『お』ってのはね、私の国で昔使ってた敬称みたいなものなの。あの人のお名前は蘭。そんなことも伝わってないのね。そりゃジロウなんて苗字につけるはずだわ。ウエスギジロウなら普通はウエスギが苗字のはずよ。我々の国では苗字が前に来るの。私だって大野悠里であってユウリ・オオノではないから」
「な……!」
テオドールだけでなく、周りの兵士たちも相当驚いてるみたい。
長いこと守ってきた伝統が間違ってたって言われたらそうもなるか。
「どうやらこの国、歪んだ教えに染まりきってるみたいね」
「いや……ユウリ様。そこは訂正させていただきたい」
ウォーレンさんが気まずそうに言う。
「私からご説明しましょう、御使の聖女様」
斬られた副官っぽい人が出てきて、跪く。
リリアに治してもらってすっかり良くなったようだ。
「こら! 貴様、何を勝手に!」
「あんたは黙ってなさい。リフレクト」
うるさいし暴れるからテオドールをリフレクトで包んで隔離。
まあ後ろから出られるからそのうち出てくるだろうけど。
「テオドール殿下は、オラン様至上主義を唱える教派を立ち上げ、その教祖となっております。その……ご本人はやる気満々ですが、心底信奉しているものがどれだけいるかといえば、正直なところ……」
なるほど。
このお兄ちゃん、「教祖になりたかった」系か。
皇太子なのに権力欲強すぎない? っていうかあれか。最初から立場が上すぎて自分で新たに権力を手に入れたいって思うとこんな手しかなかったって感じ?
「皇太子の権力で無理やり従えてるけど、ってことか。お山の大将ここに極まれりって感じね。ふむ」
少しだけ考える。
あ、いいこと思いついた。
「テオドール・フォン・ジロウよ!」
リフレクトを解除して、私はテオドールに向き合う。
「……なんだよ」
内情は聞かれたくなかったのか、少し顔が赤い。
「御使の聖女、ユウリとして命ずる! 今の教派は矛盾が多いので廃止! 代わりに、私、『太さ』の御使の聖女ユウリを讃える教派を始めることを許そう!」
「はぁ!? お前を!? 俺が!?」
混乱してる。
まあそうよね、目の前の人に私を崇めろって言われたらそうなるわね。
「ただし!」
「……ただし?」
テオドールが息を飲む。
雰囲気に飲まれてるな、こうなればこっちのもんよ。
「私を崇めるのは、最長で百年までとする!」
「は?」
テオドールの目が点になっている。予想外すぎたのだろう。
「期間限定の宗教!? 何それ!?」
リリアがびっくりしてる。
まあそんなもん例はないだろうなあ。私も知らないし。
「まあ聞いて。百年後ならまず私も死んでるでしょ。その後もごちゃごちゃやってるから腐ってくのよ。だから初めから終わりを決めておくの。そっから先はただ前からの神様崇めればいいじゃない」
崇められるのが私なら、私が生きているうちはいくらでも教義をコントロールできる。テオドールも百年後なら満足して死んでるだろうから、そこで白紙に戻してしまえば後腐れもないだろう、って話。
……まあ、万が一それなりに広まったりしたら後世色々ありそうだけど。そんな広まんないでしょ、こんな胡散臭いの。
「いや、信仰ってのは、そういうもんじゃないだろ……」
「あんたが言うんじゃない! テオドールも教祖役できるし、蘭さんと同じ御使の聖女だし、いいでしょ」
「良いわけあるか! お前はこの国に、皇族に、縁もゆかりもないじゃないか! 何の功績を讃えるというのだ!」
「へぇ? まだわかんないの?」
私はテオドールの両肩を掴んで、耳元に口を寄せる。
「……いい? こんな提案してあげてるだけで寛大で慈愛に満ちた聖女様だって思ってね? あんたも教祖やれてハッピー、蘭さんも曲がった教派なくなってハッピー、私が一番面倒なのに言ってやってんの。わかる? それとも、今すぐ帝都を更地にしてほしいの?」
なるべく低く、ドスの効いた声を出す。
「……わ、わかった」
よしよし。
平和に解決。それが一番。
我ながらほとんど脅しみたいなこと言ってはいるけどさ。
実際サークルあるとできちゃうんだよね。まさにチート技。
「よし、わかったなら早速仕事よ。我がしもべテオドールよ、皇帝の元へ案内しなさい!」
「し、しもべ……」
色々あったけど、やっと皇帝に会えそうだ!




