第27話 皇太子テオドール
「ユウリ様。皇帝陛下に会われる際は、その……魔力を抑える指輪をつけ」
「嫌です」
フレア砲の威力を見てウォーレンさんがそんなことを言い出したので、言い終える前に即否定。
「しかし、今のは余りにも強力すぎてですな……」
「あれくらいの魔法、クラウディアだって使えるわよねー? 大したものじゃないわ」
「え? ええと、何てお答えしたら良いのかしらね?」
まじめか、クラウディア。
そこは話を合わせてよ。
まあ確かに、硬そうな岩に直径三メートルくらいの大穴が開いてたけどさ。
「……ウォーレンさん、私が本気で帝国に害をなそうって思ってるなら、ここでサークル使ってほっとけばいいって、わかってます?」
なお、言ってる私にもサークルの範囲限界はわかってはいない。
「それは、そうかもしれぬが……いや、そうだな。申し訳なかった。つくづく御使の聖女様は畏怖に値するお方。我ら人の子などがそのお力を左右しようとはおこがましい話であった。忘れてくだされ」
ついに人間扱いされなくなってしまった。
「いや、同じ人間ですけどね。前にも言った通り、倒すべきはロウ、魔族。帝国でも王国でもないの。あれは本心よ。だから帝国や皇帝に害をなそうなんて思ってないわ。そちらからやってきたら別ですけどね」
「……心得た」
まあ、気持ちはわかる。サークルは三分かかるけど、フレア砲は数秒でできるもんね。まあ、用意は決して一瞬ではないのだけど。
「さあ、じゃあさっさと帝都に行きましょ! とっととカタつけて私は悠々自適な異世界ライフを楽しむんだから!」
*
翌日の夕方に差し掛かった頃。
帝都の城壁が見えてきた。
いかにも軍事国家という感じの、高い城壁にいかつい門。
この世界では初めて見る、堀と跳ね橋まである。
……それと、一万人くらいいそうな兵士。
「ちょっと、ウォーレンさん。あれ、ナニ」
いやー、冗談やめて欲しいんだけど。
あの兵士たち、明らかに私たちに弓向けてるよね?
「……ロウ枢機卿に先を越されたのやもしれんな。私が先に行き話をしよう。貴殿らは弓の射程外で待たれよ」
そう言って、ウォーレンさんは単騎で城門へ向かっていく。
射程がどのあたりまでかわからないけど、まあ今言うってことはこのあたりなんだろう、きっと。
「我は帝国軍大将、侯爵、テッド・ウォーレンなり! 御使の聖女様をお連れした! 即刻弓を納められよ!」
ウォーレンさんが私たちにもはっきり聞こえるくらいの大声で叫んだ。
すると、城門の上から誰かが顔を出し、答える。
「ウォーレンよ! 偽の聖女にたぶらかされ戦を放棄するなど、極刑に値する愚行! 今すぐ出頭しその罪を償え!」
銀髪の青年は、ウォーレンさんに対して上から目線でそう言い放った。
「テオドール様! それを申したのはロウ枢機卿ではありませんか? あやつこそが世界の敵であります! 御使の聖女様に弓を引いてはなりませぬぞ!」
ウォーレンさんも敬語。
テオドールというこの男、えらい人なんだろう。
「ふん。大人しく出頭する気がないのなら、死ね! やれい!」
全然話にならないやり取りの後、ウォーレンさんに弓矢が雨あられと降り注ぐ!
「ぬん!」
盾でそれを初弾をうまく防ぎつつ、馬でジグザグに走り避けながら戻ってくるウォーレンさん。すごい技術。
「怪我はないですか? それにしても随分な歓迎ね。あれは誰なの?」
「かすり傷だ。あの方はテオドール・フォン・ジロウ様。この国の皇太子殿下だ」
皇太子! ユーリくんと同格か。やはり偉い人だった。
ん、ジロウ? ってもしかして「次郎」ってこと? でも後ろにあるってことはここいらへんでは苗字か。
「あれがテオドール殿か。まみえるのは初めてだが、なぜ皇太子が同じ国の侯爵を襲う」
「偽の聖女にたぶらかされ、とおっしゃっていた。つまりは御使の聖女様が偽物と思われているということ」
「んー、リリアにユリ様役お願いしようと思ってたけど、これは私がいくかあ。あのお兄ちゃん、とっちめていい?」
「……私の口からは良いとは言えぬ。皇太子殿下だぞ」
ウォーレンさん、苦しい立場ね。
よーし、お姉さんがお説教しちゃうぞ。
「まあこのままだと逆賊扱いなんだし、見て見ぬ振りでもしといて。ああ、あとその傷、あとで「使える」かもしれないから、そんなに痛くないならそのままにしといて」
「……何をする気だ」
「ま、見てて」
私は一人で歩みを進め、叫ぶ。
「こらー! いきなり人に矢を射るなんて危ないでしょうが! 誰から私が偽物だなんて入れ知恵されたのよ!」
また、さっきの男、テオドール皇太子が顔を出す。
「なんだお前は! 三下は帰れ!」
「私は御使の聖女、大野悠里よ! なんか文句ある!?」
堂々と胸を張る。虚勢大事。
「オオノユウリ? 御使の聖女はユリという女だろう!」
なるほど、ウォーレンさんからの報告は届いているようだ。
それでいて偽物と言う。
まあ、素直に考えたらロウのせいだろうなあ。
「『敵を欺くにはまず味方から』って言うでしょうが! 安全のために代理立ててただけよ!」
まあこの世界の人、こんなことわざ知らないだろうけど。
「ほう、祖の教えを知っているとはそれなりの学があるようだな」
知ってるんかい! 祖ってあんた、孫子の兵法じゃなかったっけこれ?
「祖とは? これは私のいた国で古くから伝わる決まり文句よ?」
「そんなことも知らんのか。学があるのか無いのかわからんやつめ。我が国中興の祖にして我が皇族の祖先、ウエスギ・ジロウのことを知らんのか!」
知らん。何その百パーセント日本人名。蘭さん以外にも日本人いたってこと?
いや、蘭さんが実は上杉蘭で、その子孫とか? わからんだらけだ。
「それは蘭さん……オランさんの関係者?」
「当たり前だろう! 御使の聖女オラン様が息子、それがウエスギ様だ!」
おお……蘭さん子供いたのね。
次郎いるなら太郎か一郎もいるのかね。
「興味深い話ね。私の国の名前よ、それ。あなたたちがオランさんって呼んでるその人も同じ国の出身だしね」
「何を戯けたことを! 貴様らが偽の聖女一行だということはすでに調べがついておる! 皆のもの、やってしまえ!」
なんでこう短気なのこういうキャラは!
兵士が一斉に弓を構える。
目標は、もちろん私。
「射てー!」
放たれた無数の矢が、私に向かって降り注ぐ!
「リフレクト!」
私にそんなもん通用するわけないっちゅーの。
さあ、どうしてやろうかしらね、この兄ちゃん。




