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第26話 ホーリーフレア

 それから二日。


 危険を避けるために大きな街には寄らずに進み、今夜は野宿。

 今のところ順調に進んでいる。明日には帝都に着くそうだ。


 道中、私はクラウディアとリリアから新たな魔法「ホーリーフレア」の手ほどきを受けていた。

 教えてもらうって約束してたやつ。


 白い炎が飛び出していくという、見た目が派手な魔法。なので初めは見本を見せてもらうたびに護衛の騎士たちが驚いていた。

 もう慣れたみたいだけど。


「うーん、なんか、しっくりこないんだよなあ」


 私はこの魔法の習得に苦しんでいた。

 やっぱり聖女専用魔法じゃないからだろうか?


 何も起こらないというわけではなく、相変わらず魔力が手の先でモゾモゾはするのだけれど、リフレクトみたいにそれが形になる前に霧散してしまう。


「それは、最終的な形のイメージが違うのかもしれません」


 クラウディアがわかるようなわからないようなアドバイスをしてくれる。


「イメージって言っても……二人から見せてもらった通りにイメージしてるんだけどねえ」


「何せユウリの魔術は普通ではありませんから。『太さ』に影響された形をイメージせねばならないのかと」


「太いホーリーフレア……私、思いつかないですけど、クラウディア様やユウリお姉様はイメージできます?」


 二人の言うことはもっともだ。だけどそうイメージできるかっていうとなかなか難しい。


「バカでかい炎? いや違うな……」


 ブツブツ言いながら何度かイメージを変えて試す。

 しかしうまくいかない。


「うーん……ん?」


 クラウディアの服装を見る。

 今日はウエストライン高めでまっすぐ裾が広がったスカート。


「フレアスカート……フレア!? いやさすがにまさかね……」


 一応、念の為、ラッパみたいに先が広がった聖なる漏斗みたいなものをイメージして、もう一度唱えてみる。


「ぬぬぬ……ホーリーフレア!」


 ぽんっ!


 軽くて景気の良い音と共に、魔法が具現化する!

 そこには白い炎の奔流……ではなくて、明らかに何らかの固形物が出てきた。


「……ドライヤー?」


 私にはちょっと大きな、白いドライヤーにしか見えなかった。

 取っ手があって、筒状の本体。先っぽはラッパ状に広がっている。コードはない。


「ドライヤー、とは?」


 クラウディアが怪訝な顔をする。

 そりゃそうなるよね。この世界にあるわけないし。


 まじまじと見てみると、ドライヤーと違うところがあった。


「あー……これ、銃だわ」


 取っ手の付け根にトリガーと思われるものがある。

 先の方から奥を覗くと空洞になっているし。


「ジュウ……?」


 銃も知らないか。でもまあそんなもんかも。

 この世界って魔法があるから、そんなもの作る必要あんまりないもんね。


 いやいや、それにしてもフレアってそっち?

 ホーリーフレアで、「聖なる先広がりの銃」?


 予想できるかそんなもん!

 さすがに神様遊びすぎじゃない?


「どうやって使うんです?」


 リリアは興味津々という様子で覗き込んでくる。


「うーん、とりあえずやってみるね」


 私は野原の先に向けてトリガーを引く。

 ……何も起こらない。


 カチッ、と引けた感触はあるものの、何かが飛び出すようなことはなく。


「おりゃっ!」


 気合を入れてカチッ、カチッと何度かやってみたけど、同じ。


「別に弾がいるのかなあ……」


 改めて構造を調べる。しかしシンプルに一体化している本体は、どこかが開いたり、分離できたりしそうにない。


「なんなんだこりゃ……?」


「ユウリが生み出したのに、ユウリに使い方がわからないのですか?」


 もっともといえばもっともな疑問。

 ぐうの音も出ない。


「うーん……」


 ラッパ、というか、あさがお? 蓄音機? みたいなフォルムを少し細身にしたみたいな銃身を眺める。

 銃口の内径は一番外側で十五センチくらいだろうか。


「なんかそこらへんの石、入れてみようか?」


 銃のさきっぽから弾を入れる銃ってあったよな、と思いついた。


 十センチくらいの手頃な石を拾って、入れる。


「せーのっ」


 引き金を引く。

 ばひゅっ、という何とも言えない音と共に、いい感じに放物線を描いて飛び出す石。


 狙いも何もなく適当にやったので、十メートル先くらいの地面にどかっと当たって転がってゆく。


「おお、飛んだ……」


「へえ、持ち運べる投石器なんです?」


 リリアがかしてかしてと言うので貸してあげる。しかし、私の手からリリアの手に渡った瞬間、スッと消失する。


「ええー……」


 残念そうな顔をするリリア。


「私専用なのかな?」


 またホーリーフレアを唱えると、全く同じものができあがる。


「リリア、そこらへんのいい感じの石、拾ってきてくれない?」


「ええー……」


 さっきと全く同じような反応をしつつも、ちゃんと仕事するリリア。えらいぞ。


「しかし、聖なる爆炎の太さ版が投石器ってのも……地味すぎない?」


「やあ、何かできたのかい?」


 ユーリくんがやってくる。


 白いラッパ銃を説明する。


「ふむふむ、興味深いな。魔力で物を飛ばすのか。効率が悪そうだが神のご意志ならなにか意味があるのだろうな」


「神のご意志ねえ……」


 そこまで深く考えてないと思う、神様。


「ほら、ユウリのライトアローだって、サークルを止めるのに役立つと気がつくまで、何に使うかわからなかったじゃない。神は御使の聖女様にそういう試練を与えているのではありませんか?」


 クラウディアが良いように解釈してくれる。ほんとユーリくんの意見には乗っかるねこの子。


「そうねえ……でも、実はライトアローも少しは進化してるのよ? ほら。ライトアロー!」


 私の手から三メートルくらい先まで飛んで地面に落ちる三角錐のツチノコ。


「飛んだ!」


「飛んだわね」


 三メートル飛ぶだけで驚かれる射撃魔法。

 泣ける。


「ん? ユウリお姉様。このライトアロー……なんですかね、これ? これ、ちょうどよくないです?」


 石を三つ抱えて戻ってきたリリアが言う。


「えっ?」


「なかなかちょうど良い石って無かったんですけど、これほら。ピッタリ」


 リリアが無造作に消える直前のライトアローを掴み取り、逆さにして銃口にハメ込む。


 あらピッタリ。


 とてもいい感じにハマり込むライトアロー。ついでにハマったら動かないし消えないみたい?


「魔力の塊だけど持てるんだ? それ?」


「こういう射出型の魔術は盾や剣で弾けますから、術者しか動かせない設置型のものとは異なります。加えて、ユウリの魔術は質量を持ちます。掴めてもおかしくはありませんわ」


 さすが、クラウディアは魔法に詳しい。


「じゃあ撃ってみるね」


 私は少し先にある、丘……というか大きな岩? に狙いを定める。


「そりゃ!」


 トリガーを引く。


 バヒュッ!


 さっきの石とは比べ物にならない速度で一直線に飛んでいくライトアロー!


 一瞬の後に岩山にぶつかった、そのとき。


 ズドゴォーーーン!!!


 すごい音と閃光を撒き散らして大爆発を起こした!


「うわわわわわ!?」

「うおおおおお!?」

「ひえええええ!?」

「んぎゃああああ!?」


 四人四様な悲鳴をあげる私たち。

 だってあのツチノコが大爆発するなんて思わないじゃない!


「な、何事か!」


 ウォーレンさんが野営のテントから飛び出してくる。


「あ、あははー。新しい魔法? の練習してただけでーす」


 笑って誤魔化す。


 煙が晴れてきて、大穴の開いた岩山が現れる。


 銃じゃないな、これ。砲。フレア砲。


 うーん、御使の聖女、ついに直接火力を手に入れる、の巻。

 ちょっと危なっかしいけど、ぱっと見すごい技が欲しいって目的は達成できた……かな?

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