表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/40

第25話 『長さ』の聖女の始まり

   《帝国Side》


 遠い遠い昔――




「ここは……?」


 川の土手にいたはずが。

 どこ……?


 冷たく、硬い石の床の感触。

 神社の参道にある石畳のようなそれが、一面敷き詰められた部屋。


 蘭の常識では、そのようなものを部屋の中に敷くことは俄かには考えられず、突然目の前の場所が変わったことの薄気味悪さを増幅させる。


 そこは、バルードと呼ばれる小国だった。国というよりも、豪族の治めるいち地域という方が正しいような場所である。後に帝国と呼ばれるようになる国の、始まりの地であった。


 しかし、蘭のような一介の江戸の町娘が中世西欧のような建築文化を知る由もなく、ましてそれが異世界への転移であるなど、理解できるはずがなかった。

 ただただ心細く、奇妙としか思えない場所に立ち竦んでいた。


「お蘭、か?」


 声の方を向くと、先ほどまで一緒にいた、見知った顔。

 蘭は、ほっと胸を撫で下ろす。


「喜介様、ここは……どこでしょう」


「わからぬ。隅田の土手でないのは確かだろうが」


 喜介と呼ばれた若い武士は、少し離れた窓を見やる。

 ただの格子と思いきや、びーどろの板が嵌め込まれているようだ。

 そこから見える景色も、八百八町の江戸の街とはとても似つかぬものだった。


「奇ッ怪な……」


 その時、二人は遠くから足音が近づいてくることに気がついた。

 それも、複数。


「お蘭、下がっていろ」


 喜介は脇差を抜き、警戒する。


「〜〜〜〜〜〜〜」


 現れたのは、三人の異人。男が二人、女が一人。

 見たこともない着物を身につけている。

 何かを喋っているが、二人には何を言っているのか全くわからなかった。


 喜介が切先を向ける。


「〜〜〜〜〜〜〜」


 相変わらず話している内容はわからないが、身振り手振りで敵意がないことを示そうとしているのは分かった。


「……拙者は喜介と申す。こちらはお蘭」


 納刀はせず、しかし切先を下げる。


「蘭で、ございます」


 蘭も慌てて頭を下げる。



 それは、数奇な運命に巻き込まれた二人の、長い長い旅路の始まりであった。




   《ユウリSide》


「ウォーレンさんには、もう洗いざらい言うしかないと思うのよねー」


 ウォーレンさんを待つための控え室がわりのテントの中、私は覚悟を決めてみんなに提案した。

 ちなみに外に兵士はいるものの、中には私たちしかいない。だから小声で相談することはできる状況だ。


「……それ、私、帝国でも牢屋に入れられたりしないですよね」


 リリアの心配はもっともだ。

 なにせ、国対国の交渉の場で正体を偽っていたのだから。


「まあ、なるようになるんじゃない?」


「ユウリお姉様、相変わらずひどい……」


 とはいえ、本物が横にいて「実際、全部本物である私の意見でした」って理屈は成り立つし、正体を隠さざるを得なかった理由も今回の襲撃でわかりやすすぎるほど裏付けできた。だから実はそんなに心配はしていない。

 ……帝国軍に魔力拘束されるんじゃないかって心配してた件は、言わぬが花。信用してなかったってあえて言う必要もない。


「一番の問題は、ウォーレンさん以外に対して今後どうするか、って部分。まあ、ウォーレンさんが何ていうかもあるんだけどさ」


「私はもう全てを明かして公明正大に行くべきだと思います。これ以上の嘘は良くないと思います」


 まじめクラウディアが出た。

 うーん、理由が弱い。


「うーん、僕は伏せられるなら伏せた方が良いと思うな。今後も襲撃があるかもしれないし」


「ユーリ殿下がそうおっしゃるなら、絶対それが一番。そうしましょう!」


 ポンコツクラウディアが出た。

 ユーリくん関係になるとすぐこれ。

 うーん、理由が弱すぎる。


「実際、まだごく一部の人以外には私とリリアの正体はバレていない。そして何より、兵士たちがリリアをもうユリ様と崇拝しつつある。私はここが重要だと思うのよね」


「帝国軍に保護してもらう上で、ってことか」


「そう。帝都まで行って、皇帝に御使の聖女とロウのことを認めさせて戦争うやむやにしないといけないのは変わらないでしょ? ってことはそこまで出来る限り安全に進まないといけないわけよ」


「……まだ続けるんですか、これ」


 リリアは嫌そう。まああんな目にあったらね。


「腹話術はもうしなくてもいいわ。ただ、あなたの『ユリ様』、ちょっとミステリアス感出すためにぶっきらぼうすぎるから、調整はしてね」


「ユウリお姉様、お言葉ですが未知の神聖キャラ特有のあの「味」がわからないのですか!?」


 そこ、こだわりあるんだ?


「ウォーレン侯爵閣下、ご到着!」


 キャラ設定論に話が脱線しそうだったその時、表で兵士が張り上げる。


「……まあ正直、ここからは出たとこ勝負ね。さあ、行くわよ」


   *


「……ってわけで、私が御使の聖女、ユウリです! 改めてよろしく、ウォーレンさん」


 私は席につくや否や、先手必勝とばかりに洗いざらい事情を話した。

 前にした話の続きもあるので「権威とかから離れた存在だぞ」ってアピールのため、ウォーレン侯爵呼びからウォーレンさん呼びに変えた。ユーリくんも殿下呼びをやめる。


「……ユリ様がリリア殿で、カティナ殿がユウリ様。事情は分かった。理由の道理もな。ただ、問題は複雑なのだ」


 やはり一筋縄ではいかないかー。


 間違いなく神殿の件は事故には見えないから、どういう処理になるかは気になっていた。瓦礫が綺麗な円形になる事故なんてないからね。御使の聖女の凱旋と神殿訪問は告知されていたわけで、その関係というのは誰だって読み取れる。


「人の領域を超えた御技であるということは誰もがわかる。ただ、神官や市民を多数巻き込んだことが問題を複雑にしている」


 つまり、私が正当防衛したのか、悪意をもって神殿を破壊し、市民を傷つけたかという意味だろう。傍目にどう映るか。真実だけで語れない部分。


 ウォーレンさんは表情を変えない。複雑な問題というものに場慣れしているのだろう。


「我々は襲われたのだぞ! 貴殿も知っているだろう!」


 ユーリくんが強く抗議の声を上げる。


「知っている。私はな。この街を治める領主、他の街の神殿組織は知らぬのだ。皇帝陛下もご存じない。最終的にこの件は皇帝陛下のご判断になるだろう。誰も結論を出せないだろうからな。御使の聖女様と王国の使者たちに何の落ち度もないのに、あの者たちが急に襲ってきたということを信じていただけるか、だ」


「正当防衛だと証明しろと? そんなものは生き残った関係者たちに聞けばすぐわかるのでは?」


 クラウディアも正論を言う。


「連中は連行はされたが、私の管理下にはいない。あくまで街の警備隊のもとへ送られる。それが決まりだからだ。そこで問題になるのが、あ奴らの組織がどこまで大きなものか、どこまで食い込んでいるかだ」


 あー、これは面倒そうな話。

 確かに神殿組織の奥深くまで入っていれば、信徒、すなわちこの国の国民の多くに「可能性」が生まれてしまう。警察機構にも、だ。そうなれば、真実なんて簡単に歪められてしまうだろう。


「あの人たちの組織に、心当たりはないの?」


 私の言葉に、ウォーレンさんは首を横に振る。


「我が国では、『長さ』の聖女様を信奉するのは自然なこと。他の御使の聖女より一段上に置くのもな。そもそも御使の聖女様は伝説の中の存在だ。本物も偽物も、貴殿らが現れるまで誰もそんな存在が現実に出現するものとして考えていなかったはずだ」


「えっ、でもそれじゃ……」


 リリアが驚きの声を上げる。

 そう、それじゃ話が合わない。


「あの街の人々が御使の聖女の出現を知ったのは、今日。御使の聖女が神殿に向かうとなったのも、今日。たとえ元からそういう先鋭化した集団が街にいたとしても、あれだけの人数を用意して具体的な襲撃をするために待ち構えていた、というのは不自然ですわね」


 クラウディアが皆の疑問を代弁する。


「あの街に関係する者で、事前に御使の聖女のことを知っていた者は私が相談した一人だけだ。それから、その者が伝えたもう一人」


「あの大司教……そして、ロウ、か」


 全部が繋がってきた気がする。


「ロウの足取りはつかめてないの?」


「ロウ枢機卿の行方はわかっておらぬ。少なくとも来訪先の隣街にはすでにいないようだ。戻られたならば帝都だが、もし本当に裏で糸を引いているというのなら、素直に戻ったとは思い難い。先般に聞いた内容は帝都へ報告の早馬を出している。そろそろ到着する頃だとは思うが、あれだけで皇帝陛下がどうご判断されるかはわからぬ」


「結局、皇帝陛下に全部知ってもらって味方についてもらうしかないってことね。了解、じゃあ全速力で帝都を目指しましょう。それしかないでしょ、もう」


「そうだな、それには同意する。枢機卿の動きが見えぬ以上、急ぐべきだろう。精鋭三十騎程を露払いの先行隊と本隊に分け、強行するとしよう。馬車であっても急げば三日ほどで着くはずだ。しかし、良いのか。皇帝陛下の御心次第では、市民を害した賊として捕まるかもしれんのだぞ」


「まあ、それはね。そんなことしたらどうなるかわかってるわよね、ってコトよ。こちらから変なことする気はないけどね。せいぜい、私の力を恐ろしく報告しといてちょうだい」


 ウォーレンさんはサークルを見たから、実感があるはず。


「……なるほど、わかった」


 話がまとまったので、私たちは帝都に向けて即刻出発することとした。

 ロウより先に皇帝に話つけないとね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ