第24話 『太さ』の聖女の奇跡
リリアの協力を得ながら、私は魔法を完成させる。
「……神の護りよ、来たれ! サークル!」
私の手元に光のボールができあがり――
「弾けよ!! ……よっこらせいっ!」
それを、上に放り投げる!
光の玉が弾ける、と同時にリフレクト解除!
私を中心とした半径数メートルの円、つまりちょうど仲間たちの外側あたりから、半球状に結界が広がっていく!
「う、お、おおおお!?」
「偽物だって、言って、ひ、ひぃ!!?」
「ぐ、ぎゃあああああ!」
「これが、御使の……嘘だあああ!」
驚きや悲鳴の声が、石造りの神殿にこだまする。
結界は、椅子やら柱やら石像やら、そして……人やら。
あらゆるものをまとめて掃除していく。
……こうなるのがわかりきってたから、できることなら使いたくなかった。
ごめんね、襲ってきたのあなた達だからね。
「な……なんだ、これは……! カティナ殿……!?」
ウォーレンさんが驚愕の声をあげる。
まあ、そりゃ驚くよね。しかもやったのがユリ様ことリリアではなく従者の私だし。
やがて結界が神殿の天井や壁に到達する。
ゴ……ゴゴゴゴゴゴ……!
さすがに一瞬、結界の広がりが鈍くなる。
しかし。
バギャアアアア!!!
ものすごい音と共に、神殿が崩壊した!
そしてなおも広がる結界。
「もういいかな、よっ、と」
私は頭上の光の玉を引き寄せる。
「ライトアロー!」
久々のツチノコをそれにぶつけ、結界を解除する。
ビカッ!! とものすごい光があたりを満たす。
しばらくしてそれが消え去ると。
神殿があっただろう場所はただの広場と化し――
その外側には円形の瓦礫の山が出来上がっていた。
ただただ圧倒的に、等しく公平にもたらされる破壊。
それが、私の「サークル」だった。
動ける者、そうでない者。
様々だが、少なくとも、もはや私たちに立ち向かおうという者は一人もいなかった。
襲ってきた者たちだけではない。
私たちも……いや、使った私ですら、その光景を呆然と見る他になかった。
蘭さんに「信仰を壊して」と言われはしたけど、こういう意味ではなかっただろうなあ……。でも、「壊して」って言われた理由もよーくわかった気がする。
「ウォーレン侯爵、怪我人の収容などはそちらの部隊に任せる。我々は安全なところに避難したいが、あてはあるか?」
ユーリくんが冷静に状況を分析し、次の手を言う。
こういうとこ、頼りになるなあ。
「……色々と聞きたいことはあるが……ひとまずはわかった。街の外、本隊の駐屯地が最も安全だろう。これを持ってゆけ、私の許可の証明になる」
なにやら紋章の描かれた袋を渡される。
「話はあとでゆっくりとね、ウォーレン侯爵。さ、ランスくんのとこ行くわよ!」
私はそう言うと、まだ呆然としているクラウディアの背中を押した。
「み、皆さん! ご無事でしたか! 突然神殿が崩壊して……」
神殿の入口だった場所のあたりで、私達をみつけたランスくんが駆け寄ってきた。
「説明は後でします。全速力で帝国軍の駐屯地に行って。ここは危ないわ」
「わ、わかりました!」
ランスくんは馬車の御者台に飛び乗る。
私たちも次々と乗り込む。
「いきます! はっ!」
馬車のドアもろくに閉め切らないまま、私たちはその場を後にしたのだった。
*
「酷い目にあった」
馬車の中、ユーリくんが私をジト目で見てくる。
ほー、それはダブルミーニングかい?
「ユーリくんの尊い犠牲のお陰でリリアも助かったじゃない。しっかし、まさか一般市民まで襲いかかってくるとはねー」
「犠牲になどなってないわ! 縁起の悪い。まあ、あれが本当に市井の民かは疑わしいものがあるがな」
そうなの?
「そうですわね。号令から動き出しまで、統制が取れすぎています」
「なるほど。リリアの逃げ足でも逃げられなかったもんねえ」
「……ユウリお姉様、私を何だと」
「しかし軍の兵士と呼ぶには拙い。少し訓練された民兵、というところではないか?」
なるほど。一般市民と軍の真ん中。
「なんでそんなのが集まったんでしょうね? ユウリお姉様が民を集めるように言ったの、まあまあ直前でしたよね」
そう、ウォーレンさんに言って、私たちはすぐ神殿に入った。リリアがおじいさんとの会話を嫌ったから、そんなに人を集める時間はなかったはず。
「……ああ、なーるほど」
「ユウリ、何かわかったのか?」
「私がウォーレンさんに伝えてから、みんなで中に入り、おじいさんと話して、神殿の中央に行くまでには五分……まあ十分はなかったのよ」
「そうだな……それくらいだな」
「なのに、『満席で着席していた』のよ。一般市民が」
「確かに。ウォーレン侯爵はこの街の人ではない。それなら神殿の者に依頼するはず……ということは」
さすが、クラウディアは物分かりが良い。
「そう。神殿に繋がってる、何らかの『反ユリ様組織』があった、ってことでしょ、これ。私たちが神殿に出向くことを知っていて、最初から私たちを狙って潜んでいた。けれど私たちの方から市民同席の申し出があったから、より近くから大人数で襲えるように利用した。まあ仮説だけどね」
「僕らをリリアから遠ざけたのもそのためか?」
「たぶん、そうじゃない? まあこの辺りの宗教事情はわかんないけど」
「実を言えば、僕も帝国正教と我が国の教えの細かい違いは把握してない。クラウディアはどうだ?」
「私も、貴族としての通り一遍の教育で習う範囲しか……」
「ふっふーん」
お、胸張ってる人がいる。
「なに、リリア自信あるの?」
「ま、皆さんよりはね? ダテに一年間も宗教漬けじゃあなかったんですのよ? ほっほっほ」
たった一年でよくそこまでつけ上がれるなあ。
「それじゃあ、知ってること教えなさいよ」
「いいでしょう! まず、普通は宗派外の人を祈りの場には参加させない。なので、私と皆を分けたのは、思惑があったとしてもそんなに不自然ではなかった。むしろ、同じ場所に居させたのは御使の聖女一行として優遇していたとも言えるでしょう」
「そう言われてみると、そんな気もしてくるわね」
「案内してくれたお爺さんは一味ではなかった、ということかしら?」
クラウディアが疑問を呈す。
「うーん、わかりません。どちらの可能性もあるんじゃないでしょうか。帝国正教と王国の国教はもともと同じひとつの宗教で、御使の聖女信仰とともに分離していきました。初めは自然発生的な分離だったので、地域差も大きいそうなのです」
「あの民衆をロウが操っていた可能性はないのか?」
「それはないんじゃない? それならリリアじゃなくて私を狙うはずだもの。例えば襲ってきた連中を焚き付けたり、タネまきに関係してたとかはあったかもだけど、直接はないでしょ」
ロウは私が本物だと知っているから。
「厄介だな……ただ狂信的な無辜の市民が相手となるとな」
「リリア、なぜあの人たちは『長さ』の聖女様しか認めないと言うのですか? オラン様? と叫んでいましたが」
「それは私にもわかりません。そんな偏った教義があるとは聞いたことがないです。カルト的に先鋭化した、ってやつですかね? オラン様は、『長さ』の聖女様の数ある御名のひとつですね。他にもラント様とかランデ様とか呼ばれているそうです」
そうなの?
蘭さん、ではないの?
「オラン様、ねえ……ん、オラン!?」
もしかして、「お蘭」? 二百年前の人ならそういう言い方もしてそう。
ランデとかラントも「蘭でございます」とか「蘭と申します」とかから来てるんじゃないのこれ。
「オラン様呼びが一番多いみたいですけどね。ユウリお姉様、どうかしました?」
「い、いや。何でもないわ」
今度蘭さんに会ったら聞いてみよう。会えるのかわからないけど。
ん? でも昔の日本人だとしても自分のことをお蘭って言うかな? まあ「お蘭とお呼びください」とか言ってたりしたのかな?
「到着しまーす!」
外からのランスくんの声で、話は中断される。町外れの陣が見えている。
あー、ウォーレンさんに何て言うか、考えなきゃー。




