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第23話 帝国の神殿

「ウォーレン侯爵、ユリ様より言伝です。祈りに際しては民も中に入れて共に祈りたい、とのことです」


 馬車から降りると、私は真っ先にウォーレン侯爵のもとへお願いに行った。


 民衆を前にすれば、万が一この神殿に危険な思想の者がいても手を出しにくい。

 出されたとしても民衆がいれば、その人たちがそういう状況の目撃者になる。

 そう考えての依頼だった。


「左様か。承った」


 私の思惑を汲んでくれたのかはわからないけど、ウォーレンさんは即承諾してくれた。


 みんな揃って中に入る。

 なお、ランスくんは馬車でお留守番。


「ほう……」


 ユーリくんですら物珍しそうにキョロキョロしている。

 ここは帝国。

 これまでみたいに「私だけ慣れていない」というわけではないのだ。

 つまり不測の事態があったら、これまで以上に困るはず。

 ちゃんと意識しておかないとなあ。


 王都の神殿との一番の違いは、見た目が白くないところだろう。

 単に近場で採れる石の違いなのかはわからないけれど、黒っぽいグレー基調だ。


 そして、中に入って気がつくのが、神様の像の他に、とても立派な女神の彫像があること。


「あれが、帝国の……『長さ』の御使の聖女様……」


 クラウディアがため息を漏らす。

 黒基調の中で、白亜の大きな女神像が躍動感のあるポーズを取っている。


 美術品としてもとても美しい。神聖で、荘厳で。

 信仰の対象となっているという意味を、肌で実感する。


「似てない、な……」


 しかし、どうみてもこの国の人ベースの彫像で、蘭さんには全然似てなかった。

 まあ後世の人が作ったんだろうし、写真もない世の中じゃ仕方ないよね。


「何か申されたか?」


 ウォーレンさんの地獄耳。結構離れてるのに。


「いえ! 何でもないです!」


 慌ててごまかす私。

 実際に会ったことがあるなんて言ったら、変な目で見られるどころじゃ済まないよね。


「ここは、例の大司教の本拠であった神殿で、既にあの蛮行は伝わっております。罪滅ぼしの意味も含め、大変協力的です」


 誰向けとは言わないが、ウォーレンさんが敬語で話すということは御使の聖女ユリ様あてなのだろう。


 わかってかわからずか、リリアは無言でしゃらん、と錫杖を鳴らし、神殿に入っていく。


「おお! これはこれは御使の聖女様、お立ち寄りいただき幸甚でございます」


 白く長い髭を蓄えたおじいさんが出迎えてくれる。大司教と同じような法衣を着ている。たぶん、神殿の偉い人なのだろう。


「……」


 リリアは無言で私を見る。


 腹話術続けるのか打ち合わせしてなかった。これは「どうすんのよ」の目。


「私はユリ様の従者、カティナと申します。ユリ様のお言葉は私がお伝えいたします」


 私の言葉に、早速リリアが耳に口を寄せてくる。


(とっとと済ませましょう)


 あっ、神殿、静かすぎてどれだけボソボソ喋っても他の人に聞こえちゃいそう。

 これはまずい。


「本日は、ユリ様は御自らお言葉をかけられるとの事です」


 いきなりの私のアドリブ強要。

 こっちをニラむリリア。


 しゃーないじゃん。


「……祈りを捧げよう」


「ありがとうございます。ささやかながら歓待のご用意もございます。お祈り頂きました後、ぜひ奥で御使の聖女様の奇跡についてご教義いただきたく」


「そういった細かい話はカティナに一任しておる」


 そう言って、神像の方に向かってスタスタ歩き出すリリア。


「あ、あー、まずは祈りを先に済ませましょう。その後の予定は、皆さんもおりますのでまたご相談ということで」


 それだけ言って、私もリリアを追いかける。

 どうもリリアの「ユリ様」のイメージはミステリアスな威厳みたいなものが強すぎる気がする。それはそれで悪くはないけど、演出家としてはキャライメージについてすり合わせがいる気がするわね、うん。


 大きな神像が正面奥、右手に女神像。

 手前にずらっと並んだ長椅子には、信徒の一般市民の皆さんがすでに座っている。


 ちなみに神像は髪がフサフサな時点で似てる似てない以前の問題だ。


 リリアは堂々とそのギャラリーの前に進んでいく。


「恐れながら、他のお三方は上階の後方へお願いいたします。帝国正教の信徒ではありませんでしょうから」


「うむ」


 頷くユーリくん。


 やっぱ宗派みたいなのあるんだ? まあ御使の聖女の扱いとか違いそうだもんね。

 リリアだけにするのはちょっと不安があるけれど、不審な動きをするわけにもいかない。おとなしく上に上がる。


 見ると、ウォーレン侯爵は長椅子とは別の場所に置かれている席に着いている。VIP席ってやつかな。


 リリアは神像に向き、両膝をつく。


「……祈りを」


 厳粛な雰囲気が場を支配する――と思ったそのときだった。


「今だ! 偽物を殺せ!! 我らが御使様はオラン様のみ!!」


 下の階に響く突然の怒号!

 それに反応する「ほぼ全員」!


「はぁ!?」


 まさかのセーフティ装置のつもりの民衆が立ち上がり、リリアに向かっていく!


「ちょっ!」


 しかし、誰よりも素早く動き出したのはリリアだった。

 さすが、逃げ足クイーン。


 しかし、しょせんは百人くらい対一人。

 じわじわとリリアが逃げられるコースがなくなっていく。


「僕らも下へ! ユウリ! リフレクトは!?」


「ここからじゃ届かないわ!」


 そう、神殿の大きな広間の端と端、ここからではリリアにリフレクトは届かない。あくまで自分と近くの味方を守る魔法だから。


 まてよ!?


「リフレクト!」


 私はユーリくんをリフレクトで包む。


「よろしくぅ!」


 そしてそのコンニャクボールを蹴っ飛ばす!


「ぬわあぁぁあ!?」

 二階から一階に飛んでって、ツーバウンドしてリリアの近くに止まる。

 我ながらナイスコントロール。


 ユーリくんはちゃんと這い出てきて剣を構える。偉いぞ、王子様。


「ユウリ! 殿下になんてことを!」


「いいから! クラウディア、いくわよ! リフレクト!」


 私は目の前の一階にリフレクトを設置。

 そこに向かって飛び降りる!


 ぼよーん、べちゃ。


「いった〜!」


 直接飛び降りるよりは遥かにマシとはいえ、バウンドして床に落ちたときはまあまあ痛かった。


「はっ!」


 クラウディアも意を決して飛び降りた。

 けどなんかバウンドしてからスタイリッシュに着地してる。なにその技術。


 先を見ると、人の群れの向こうでユーリくんとウォーレンさんが食い止めてる。


「クラウディア、あそこまで道を切り拓ける?」


「やってみます。ウィンドブロウ!」


 クラウディアが私の知らない魔法を唱えると、目の前に暴風の筒が現れる!


 その筒は人々を吹き飛ばしながら進んでいく。


「この後ろを!」


 走り出すクラウディアの後ろを、私も続く。


「おまたせ! リフレクト! リフレクト! リフレクト! リフレクトぉ!」


 なんとか合流すると、リフレクトを唱えまくって私達を囲むバリケードを作る。


「ついでにリフレクト!」


 ぼよん、と屋根も作って、リフレクトのミニピラミッドを作る。真ん中の空間に私たちがいるって感じ。

 この場にウォーレンさんもいるけど、私がリフレクトを使わざるを得なかった。


「これはどういうことだ!」


 ユーリくんがウォーレンさんを問い詰める。


「……私にもわからぬ。ただ、思っていたよりもはるかに根深く神殿は牛耳られている様だな」


 まあ、ウォーレンさん暴徒と戦ってたし、本当に知らなかったんだろう。


「これからどうする」


「この守りが破られないのなら、待っていればいずれ異変に気がついた部隊が入ってくるとは思うが……」


 というが早いか、シューという音と共に外に紫色した明らかにヤバげな気体が振りまかれはじめる。


「これは……まずい、毒だ!」


 うへえ、籠城に毒ガス攻撃、理にかないすぎだろ!


「まだ三分はもつ!?」


「ウィンドブロウ! ……それくらいは」


 空気を散らせながら、クラウディアが答える。


 ……仕方ない。やるか。

 ウォーレンさんにはもうバレたようなもんだし。


「私の『サークル』を使うわ。リリア!」


「っんだようるっせえな! こっちも忙しいんだっつーの!」


 隙間を普通のリフレクトで埋めながら応えるリリア。


「リ……? せ、聖女様……?」


 リリアの豹変に驚くウォーレンさん、はおいといて。


「サークルの呪文、教えて?」


「まだ暗記してないんかーい!」


 しかたないじゃん。長いんだもん。


「はい、森羅万象に宿る聖なるマナよ、から!」


「森羅万象に宿る聖なるマナよ……」


 リリア先生に続いて、私はサークルの詠唱を開始したのだった。

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