第22話 凱旋するニセモノ
「道を空けよ!! 新たな御使の聖女、ユリ様のお通りであーる!!!」
ウォーレンさんの朗々とした声が通る。
「うおおおおお!!!」
すごい歓声。
ここは、バルード帝国に入って最初の街。
街や人々の様子は、見た感じではグランバーク王国内と全然変わらない。
近年までこの地も王国の一部だったのだろうから、当たり前かもだけど。
帝国軍のいつもの凱旋だと思って迎えた街の人たちは、大将が「御使の聖女」を連れて帰ってきたことに、喜びの声を爆発させていた。
「御使の聖女様だって!?」
「あの馬車に乗っているらしいぞ!」
「御使の聖女様! ばんざーい!」
一行の真ん中で、さながらパレードの主役のようになってしまった私たち。
「リリア、顔出してあげたら?」
「……いやです」
まあ気持ちはわかる。
どうやら、ウォーレンさんは私たちのことを隠す気は全然ないらしい。
むしろ堂々と宣伝していくスタイル。
あの大司教の話やロウの件があるので、ちょっと大丈夫かなと思うフシもあるのだけど。
もしかしたら、帝国に「御使の聖女ユリ様」を「気に食わない」「認めるわけにはいかない」勢力がいるのを承知していて、先手を取って民衆の支持を得てしまおうとしているのかもしれない。
いま私たちは大軍の真ん中にいるので、そういった勢力がいたとしても、力でどうこうされる可能性は薄いしね。
あるとしたら、ウォーレンさんも無視できないような権力者がいる場所……って言ってもあの人、侯爵で大将なのよね? 帝都以外であんまりそんな場所ないか?
しかし、そう考えると。
「ユーリくんって王太子で、クラウディアって公爵令嬢なのよね」
「ん? なんだ今更。そうだぞ?」
平然と答えるユーリくん。まあ今更なのはその通り。
改めて考えるとすごいメンツなんだなあ。王国ではウォーレンさんより上の立場だもんなあ、二人とも。
「リリアは、平民なのよね?」
そう考えるとこの子も大した胆力である。このメンツと平然と旅しているわけだから。
「いえ? 一応、男爵ですけど?」
「えっ? リリア、貴族だったの!?」
これはびっくり。こんな貴族、いる?
「聖女になると、男爵位が授与されるのですわ」
クラウディアが解説してくれる。
ふふーん、と胸を張るリリア。
なるほど? 聖女って色々と公式の場所に出たりするもんね?
「ああ、それなら先日ちゃんと剥奪されているから安心してくれ」
安心……なのかはさておき、ユーリくんがフォローする。
「えっ!? 聞いてませんけど!?」
「まあ、今回の働きであれば恩赦のみならず、なんらかの爵位の授与くらいはされるだろう。自覚がなさそうだが、我々は救国の英雄だからな」
「ま、リリアの場合、ボロ出さずに生きて帰れれば、でしょうけどー」
「ユウリお姉様! やっぱりひどーい!」
うーん、それにしても、私も爵位とか与えられちゃうんだろうか? それとも御使の聖女ってのはなんか別枠なんだろうか。とにかく堅苦しいのだけは嫌だなあ。
「ユリ様」
ゆっくり動く馬車の窓の外に、ウォーレンさんが来た。馬上から話しかけてきているようだ。
「どうされましたか?」
リリアに代わって私が窓を開ける。
「この先に、神と御使の聖女を祀る神殿がある。帝都までの間、立ち寄る先の各地の神殿へ祝福を授けてはいただけないか」
なるほど、そういうやつか。
新たな御使の聖女の影響力を、各地の神殿に増やしていく。
枢機卿という中枢にまで魔族の手が及んでいると考えれば、ひっくり返すために端のコマから取っていくのは正しい手だと思う。態度でその影響度合いも測れるだろうし。
ウォーレンさん、政治家でも大成しそうだなあ。
リリアの方を見る。
わかっているのか、任せるという意味か、一つ縦に首を振る。
「わかりました、それではご案内お願いします」
「感謝する」
ウォーレンさんが馬車から離れていく。
窓を閉めて、みんなに向き直る。
「いい、よく聞いて。ロウ本人が何かやってくるかはわからないけど、この前の大司教があんなだったんだから、何があるかわからないわ。神殿の中が一番危ないと思うの。くれぐれも気は抜かないでね」
「わかった。僕とクラウディアはあくまで御使の聖女ユリ様の供として参加しよう」
「私は……ただ祈りを捧げれば良いんですよね?」
「私はこちらの宗教の作法に詳しくないけど、いいんじゃない? 御使の聖女だからって実際に何か起こるってわけでもないでしょ。それよりも神官たちに本物だと認めさせることが大事だから、そういう必要性がでたらリフレクトをしましょう」
「『長さ』の聖女様は実際にどういう奇跡を起こされたのだろうな」
そういえば、本場のこちらの国なら、『長さ』の聖女こと、蘭さんについてもっと詳しいことがわかるかもしれない。
この前夢で会った時、全然詳しいこと聞けなかったからなあ。
「わからないけれど、こちらの御使の聖女の伝説に並ぶか超えるような「奇跡」を用意しておいた方が良いのかもね。納得させるなら」
いつまでもリフレクト頼みじゃいられないかもねえ。
ライトアローはしょぼしょぼだし、サークルは強すぎるし。ヒールは怪我してもらわないといけない。
ちょうどよくて見栄えがいい、何か。そういうのが欲しい。
「ああ、じゃあ今度ユウリお姉様にホーリーフレア、教えましょうか?」
なにそれ。すごそう。
「なんかいい感じの知ってるのね! ぜひ教えて!」
「ホーリーフレア! あなた、一年程度の修行期間でそんなものまで覚えたのですか。ユウリ、それは以前私が謁見の間で使った魔術です。上級魔術の一つですわ」
クラウディアが解説してくれる。あれかー。
悪い人だけ焼くという超便利な炎を出す魔法。クラウディアが使っていたということは、これは聖女専用魔法ってわけではないのね。
リリア、底知れない子。
「リリア、自分でも使える聖なる炎の魔法で焼かれたのね……」
「……それは言わないでください」
「それにしても、あれが『太く』なると……どうなるんだろうね」
「ライトアロー以外の攻撃魔術、使ったことありませんものね。ちょっと想像しきれませんわ」
スタイリッシュな光の楔は、光るツチノコと化した。
白い炎の奔流は……何だろう。我がことながら、わからん。
「まあやってみないことにはね! 使えるかどうかもまだわからないしね!」
そんなことを話していると、馬車が止まった。
ランスくんの声が聞こえる。
「神殿に到着しました!」
さあ、お仕事お仕事。




