表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/40

第19話 交渉

「御使の聖女であるユリ様は、これまでに帝国が奪ったすべての領土を王国に返還し、その上で恒久的な和平を結ぶことを望まれている」


 お互いに簡単な自己紹介を終え、私が交渉の口火を切った。


 私たちは、テントが並ぶ帝国の陣地のなかでも、一際大きなテントに通された。

 その中の大きなテーブルに、我々四名が並んで着席し、御者兼護衛のランスくんが後ろに立っている。

 帝国側はウォーレンさん他三名。全員おじさん。テーブルを挟んだ向かいに座っている。

 護衛というより威嚇のためか、壁際にはずらっと兵士? 騎士? が並んでいる。


 そんな中での私の初手で、テント内がざわついている。いくら御使の聖女がいるからといって、弱小王国側がそんなことを言ってくるとは思っていなかったのだろう。


「静まれ」


 ウォーレンさんが片手をあげて低い声を出す。

 一瞬で静かになるテント内。

 相当、統率されている感じ。手強そう。


「あー、我が王国の要求はあくまで現状での和平である。御使の聖女様のご要望は我々とはまた別のものであることを主張させていただく」


 ユーリくんが付け加える。台本通り。


 この建て付けで、弱小王国が生意気言ってるのではなく、あくまで御使の聖女という信仰の対象が無茶を言っているという話にするのだ。

 これで政治のパワーバランスだけでは拒否できなくなる。


「ほう。異なことを申されますな、グランバーク王太子。御使の聖女様はそちらの使者としていらしたのだろう。ならば貴様らがそそのかしたと受け取るのが当然」


 あちらは、王国と帝国間の理屈にしたがる。それはそうだろう。想定内。


 私はあえてリリアの口元に耳を近づける。


(任せたわよ)


 実際にはリリアは小声でこれしか言ってないけれど、私の口からは別の言葉が出てくる。


「ユリ様いわく、世界の調和のためであり、各国の利害のためではないとのことである」


 にわかには否定できない、それっぽいことを言う。御使の聖女はフツーでない人だからフツーじゃないことを言い出しても不自然ではないという逆転的発想!


「……国を超えて世界ときますか。大仰な話ですな。そもそも、あなたが本物の御使の聖女であるかも我々は疑わねばならぬ。失礼ながら、何か証拠を示していただけるのでしょうな?」


 まったくだ、と他の席からも声が上がる。


 まあそう来るわよね。本人確認。


(きたわね。リフレクトをするフリ、でいいのよね)


 リリアが耳打ちしてくる。軽く頷く私。


「えー、ユリ様いわく、この軍を壊滅させれば認めるか、とのことである」


「なっ!」


「なにを……!?」


 色めき立つテント内。

 またウォーレンさんが手をあげて制する。


「それには及ばない。御使の聖女様は信じがたいような奇跡を使えるという。その一端を見せてもらえれば結構」


 この人、落ち着いてるなあ。


 万が一にも壊滅できるんじゃ、って可能性を植え付けて浮き足立たせる作戦だったんだけど、この人には通じそうにない。


「ユリ様、お願いできますか」


 リリアは、こくんとうなずき、手を前に出す。


 帝国側の誰かの、息を呑む音が聞こえる。

 私も準備して――


「リフレクト」

(リフレクト)


 リリアの呟きに合わせて小声で唱える。


 ぼよんっ、とコンニャクボールが現れリリアを包み込む。


「おおっ!」


「これは……なんだ……?」


「いま、リフレクトと言ったか……?」


 さまざまな感想が聞こえてくる。

 ふっふっふ、驚いてる驚いてる。


「このリフレクトは見た目通り普通のものとは違います。ユリ様にしか使えない魔術ですわ」


 クラウディアが補足してくれる。


「見た目は確かに普通のものと違うが……おい、これはすごいのか?」


 ウォーレンさんは魔法には明るくないようだ。


「気になるなら切るなり突くなり試してみれば良い。僕も初めて見た時は驚いたのだ」


 ユーリくんの言葉に、ウォーレンさんが剣を抜く。


「遠慮はせんぞ……ぬん!!」


 気合一閃、すごい勢いで幅広の剣がコンニャクリフレクトにめり込む。


 ぬぽん。


「なんと!?」


 その勢いのまま、弾力で弾き返されよろめくウォーレンさん。


 そんな程度、何百回やられてもヨユーよ。


「おまえら! これを切り刻んでみせよ!」


 号令に、近くの数名の兵士が剣や槍を構え、得物を振るう。

 しかしコンニャクは何度切られようともぷるるんと揺れるだけで傷ひとつつかない。


「むう……なんたる強度」


「わかっていただけましたか?」


「そうだな……偽物でない可能性があることは理解した、と言っておこう」


 歯切れの悪いウォーレンさん。


「それは、どういう意味だ? 御使の聖女様を崇めるバルード帝国とも思えぬ態度だな」


 ユーリくんが立ち上がる。


(ちょっと、なんか雲行き怪しくない?)


 リリアが耳打ちしてくる。

 うーん、言い方があまりにも遠回しすぎる。何か事情があるんだろう。


「万が一にも本物であるなら、尚更慎重に事を運ばなければならぬという意味だ。そちらの要求が容易く飲めぬ話なのは承知で言っておるだろう。しかし私の一存で判断できぬこともある」


(ちょっと、しつこいわよこの男。がんばってよね)


「ユリ様いわく、国同士でつまらぬ諍いをしている場合ではない。我に従え、とのことである」


「どういうことだ?」


「えー、これは従者である私の解釈を含みますが、他の敵に備えるべきであり、国同士の強弱があるとそれに不都合だから、ということかと思われます。そうですよね、ユリ様?」


 リリアはこくんと頷く。


「なぜ従者のお前がそんなことを話せる」


「いつもユリ様と議論を交わしておりますので」


(ちょっと、変なアドリブやめてよね。びっくりするじゃない)


 リリアが小さく文句を言ったその時、テントの入り口の幕が開かれた。


「失礼致します!」


 兵士が入ってくる。


「どうした。外交の最中であるぞ」


「大将閣下へ緊急の報告があるとの来客がございます」


 それを聞いて、なぜかこちらを見るウォーレンさん。


「そうか……そうだな。申し訳ないが、今日は自己紹介と要求の開示ということで、続きは明日にしよう。宿所を用意してあるが、泊まられるか」


 なるほど?

 まあ、向こうの中でこちらの言ったことを咀嚼する時間はいるわよね。


(ちょっと、こんな敵の真ん中に泊まらないわよね)


「ユリ様いわく、街が近いので一度戻る。最後に伺いたい。今日の私の来訪を知る『ロウ』という名に聞き覚えはないか、とのことです」


 ユーリくん、クラウディア、リリアが横目で私を見る。ここからは台本外だ。

 向こうがこっちの言うことを検討するなら、そこにこの魔族かもしれない者の話を入れ込んでおきたい。


「ロウ? ……さてな」


 ん?


「ああ、聞き覚えがないというわけではない。この辺りではある程度見聞きする名前ゆえ、それだけではわからぬという意味だ」


(ちょっと、大丈夫なの? ロウなんて出して)


 リリアは気が付かなかったようだけど、私は見逃さなかった。

 ウォーレンさんの右の眉が不自然に上がったのを。


「ユリ様いわく、ここに来る前に私を襲撃してきた者の名だ。帝国の者であろう、とのことです」


 また少しざわつくテント内。


「それは災難でしたな。しかし我々バルード帝国の民が御使の聖女様を襲うなどあり得ない。我々は御使の聖女様を信仰しているのだからな」


(ちょっと、かわされそうじゃないの!)


 なーに、リリア。こっからよ。


「ユリ様曰く、今、あなたは特定の『ロウ』を思い浮かべただろう。それなのにそのようなことを言っておるな、とおっしゃっている」


 ざわざわざわっ


 全員の注目が、ウォーレンさんに集まる。


「……」


 表情を変えないように努めているものの、口を開きかけては閉じるウォーレンさん。


 ちょっと強めにかまをかけたんだけど、大当たりかな。

 こんなイレギュラーな存在に嘘を看破されたら、言い訳もできなくなるよね。心を読めるのか、って思うだろう。


(……どういうことよ?)


「わかりました。では、明日にまたお会いしましょう、とのことです」


 言って席を立つ私。

 リリアの手を取ると、リリアも慌てて席を立つ。

 ユーリくんとクラウディアも続く。


(答えは聞かないの?)


「ユリ様いわく、賢明な返答を期待しておる、とのことである」


 その言葉を残し、私たちはテントを後にして馬車に乗り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ