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第16話 そっちかよ!!!

「どうした! くっ、こちらも手が離せない! クラウディア!」


 私の叫び声を聞いて、ユーリくんの声が聞こえてくる。

 しかし、クラウディアも魔法を使い続けている状態のはず。こちらに来るのは難しいだろう。


 そんな中で、男が口を開く。


「あぁ? リリア?」


 私が思わず叫んでしまったその名前を呟き、いぶかしげにリリアを眺める男。


「だ……誰よあんた!」


 黒い布で顔の半分を隠したその見た目は、まず間違いなく盗賊か暗殺者。

 タイミングといい、偶然居合わせたとは思えない。


 帝国の刺客――そう考えるのが自然だろう。


 御使の聖女の存在が邪魔になるから、公になる前に消す。そういう動きを取られる可能性は考えていた。考えてはいたが、こんなに速やかに、かつまっすぐに実行してくるとは!


 男は私の声には耳を貸さず、無言でリリアを足で無造作に転がし、仰向けにする。そして、転がる際にフードがめくれたリリアの顔を眺める。


「ちっ、御使の聖女って話は苦し紛れのでたらめか。全く、無駄足を――」


「リフレクト!」


 男が言い終えるより早く、私はリフレクトで男を包む。オーバーサイズなのでバキバキと馬車を壊しながら現れるコンニャクボール。


「あ? なんだこりゃ!?」


「その子から、離れろー!」


 私は思いっきりリフレクトを蹴り飛ばした!


「んおっ!」


 男ごとリフレクトは空高く舞い上がる!

 私はそこでリフレクトを解除!

 男は数メートル上空から落っこちて大ダメージ――と思いきや。


「そっちが本命ってか! ははっ、次はねえぞ!」


 男の背中に一対の黒い羽が生え、そのまま落ちずに飛び去ってしまった。


 なんだ、ありゃ……はっ、それどころじゃなくて!


「大丈夫!?」


 リリアはうずくまって苦悶の表情を浮かべている。意識はあるみたいだけど、一切動けない様子。

 傷の程度は服の下だからわからないけれど、軽くはないのは一目でわかる。


 まだ一度も実際に試せていないヒール。まさかこんな場面で使うことになるとは。


「神とその慈愛を受けし天使たちよ、ひとひらの安寧をここにもたらしたまえ! ヒール!!」


 魔法の発動自体は成功。ここまでは実験済み。

 ここから、ちゃんと効くかが問題だ。


 白い光がリリアの全身を包み――


「おんどりゃあ!! ロウ!! テメェいきなり何すんじゃあ!!!」


 アホほど元気に飛び上がるリリア。


 成功……よね?


「ユリ様! どうされましたか! ……ひっ!」


 前の方の戦いが終わったのか、騎士たちが馬車の方に来た。そしてリリアの鬼気迫る表情を見て怯える。


「あれがロウなの? あの男なら逃げたわ! それより横のみんなを!」


 私の声に、リリア、騎士たちがユーリくんたちの方を見る。

 乱戦状態で、各人が複数を相手に立ち回っている状態だ。


 あっ、さっきリフレクト解除した時に、壁にしてたリフレクトも消えちゃってた。ごめん。


「うおおおお!! この怒り!! 思い知れやああああ!!」


「えっ!?」


 壊れた馬車の上から、リリアが突然獣のような勢いの跳躍を見せ、戦場の真ん中に降り立つ!


 なんだそのジャンプ力。おまえ聖女だろ。


「喰らえええええ!」


 そのまま素手でモンスターを殴りつけるリリア……おかしい、なんだこの強さ。


 ユーリくんも相当素早いと思ったけど、次元の違う速さで次々とモンスターを叩き潰すリリア。

 一、二分ほどで十体以上の魔物が動かなくなっていた。


「がるるるるる!」


「どう、どう。終わったから」


 物足りなそうなリリアを宥める。


「ユリ様は格闘もお強いとは……さすがは御使の聖女様」


 騎士の一人がそんな感想を漏らす。


 いや……リリアの気性の荒さと逃げ足の速さは知っているけど、衛兵に捕まったらもう何もできていなかった。力が強いとかそういうのはないはず。


 これは、まさか……。


「ユーリく……殿下、ここ、切れてますよ」


「ん? ああ、かすり傷だ」


 ユーリくんがちょっと怪我をしているのを発見。ちょうどいいから実験台になってもらおう。


「ユリ様、ユーリ殿下にヒールを……かけるふりして」


 後半は小声でリリアにだけ聞こえるように伝える。


 周りの騎士さん対策としてリリアがさもヒールをしていると見せかけながら、私は小声で呪文を唱える。

 白い光がユーリくんを包み、その一センチくらいの切り傷を容易く治していく。


「ありがとう」


 あれ。なんともない?


「ユーリ殿下、なんか変わったことはないです?」


「変わったこと? うーん、お陰様で快調だぞ。ほっ……おお?」


 軽くジャンプしたユーリくんだけど、私の胸の高さくらいまでジャンプしている。


「なんだこれ、体が軽いぞ!?」


 走り回って剣を素振りするユーリくん。もとからすごかったけど、今は明らかに常人離れしている。


「……ちょっと、殿下に何したの?」


 クラウディアが耳打ちしてくる。


「ヒールかけただけなんだけどね」


「また、『太さ』の影響ですか……」


 もはや呆れたような顔のクラウディア。

 私のヒール、回復兼バフってことかな?

 絶対に普通の魔法使えないのね、私……。


 あー、太くなる、つまり筋繊維とか神経とか血管とかそういうアレが太くなってなんやかんや強くなる、みたいな?

 ……あり得る。


 いつ効果が切れるのかがわからないけど……ずっとではないよね、さすがに。


「ところでユリ様、落ち着いた?」


 私がリリアと叫んでしまったの、騎士たちにはどこまで聞かれていただろうか。ロウとの会話は聞かれてないだろうと思うけど。


「……ええ。ったくあんにゃろー。次会ったらぶっコロす……!」


「ちゃんと聖女して。そのあんにゃろーなんだけど、あれがロウって男で間違いない?」


 これも小声でやり取りする。


「……そうですわね。間違いありませんわ。私をそそのかした張本人」


「クラウディア、ロウという男、見た目は人間にしか見えなかったけど、空に放り出したら黒い羽を生やして飛んでいったわ。そんな魔法とかあるの?」


「……いえ、魔術には空を飛ぶようなものはありませんわ。研究している者は多くおりますが。ただ……いや、それこそおとぎ話みたいなものですが」


「ああ。羽が生えて空を飛ぶ者。伝説上の存在だ。ただ、同じく伝説であった御使の聖女がここにおわすということは、伝説だからっていないとは限らない、か」


 ユーリくんが続ける。


「カティナ、その者の羽は白でしたか? 黒でしたか?」


「え、黒」


「そうですか……羽のある、人のような者。思い当たるものは二つ。白ならば、『天使』。黒ならば……『魔族』」


「まぞく!?」


 思わず大きめの声が出てしまった。

 帝国の暗殺者とか、そんなんだと思ってたのに!


 そっちかよ!!!

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