第15話 初陣!?
王様に許可を得て、私たちは翌朝には馬上の人となった。
馬上というか、馬車だけど。
初めて乗ったけど、まー現代の車って乗り心地良かったんだなって改めて思った。
旅路は、私たち四名と、護衛の騎士が六名。
ユーリくんの近衛騎士団らしい。さすが王太子、そういうのがあるのね。
今日で二日目。明日には着くらしい。移動だけで何日もかかる旅というのは経験がなく新鮮……と思ったのも最初の数時間だけ。風景も飽きたし、昼寝したり、雑談したり、リリアにヒールを教えてもらったり、という感じで過ごしていた。
「急ぐから、ここからは整備の進んだ街道でない道をゆく。魔物に遭遇する可能性もあるからそのつもりで。もっとも、そのための護衛だし、我々だけでも早々そこいらの魔物に負けたりはしないだろうけどな。なあ、カティナ」
敵を騙すにはまず味方から。
もう「御使の聖女ユリ」一行ということになっている。近衛騎士たちはリリアと私の正体は知らない。
「魔物だろうが悪魔だろうがユリ様にお任せすれば何の問題もありますまい。何せ御使の聖女様ですから。ウッヒッヒ」
悪い顔をする私。
引くユリことリリア。
「……馬車の中なら別に普段通りでいいでしょう? 私、モンスター退治なんてやったことありませんよ?」
小声で言うリリア。
まあ、そうなんだけどね。居室部分は私たち四人だけだから。
「今から慣れておくことが大事なのよ。っていうか魔物って何よ、何が出るの」
同じく小声の私。
「なんだ、知らないのか。ゴブリンやオークはそこいらじゅうにいるからな。街道沿いは騎士団が掃討しているが、他は旅人を狙って出てくる場合もある」
ユーリくんの解説に合わせたように、馬車が止まる。
「敵襲ー! ゴブリン五体!」
「……こんな具合にな」
やけに落ち着き払っているユーリくん。
これくらい慣れっこって感じ。やっぱりそういう世界なんだろうなあ。
「私たちも降りて加勢しましょう!」
「ゴブリンくらいなら騎士たちに任せて問題はないよ」
んー、どんな世界でも雑魚扱いで可哀想なゴブリンたち。
そんなことを言われても、気になるので窓から顔を出してみる。
馬車の前方で、馬から降りた騎士四名が剣や槍を構えている。
その先に緑色の子供くらいの大きさの生き物がいる。あれがゴブリンだろう。
首を逆に曲げれば、二名の騎士は馬に乗ったまま、後方の注意をしている。
「うえー、あれが魔物かあ」
「カティナ殿、危ないので中にいてくだされ」
騎士の一人から注意される。
普通にお仕事の邪魔をしてすみません。
と、首を引っ込めたその時、つまり馬車の横に顔が向いたわけだけれど、ふと見た道の脇、森の奥に何か……違和感。
何かと目が合った!
「クラウディア、あれ……!」
「えっ?」
クラウディアが覗き込んだが早いか否か、森の中からキシャーッという獣のような声が響く。
薄暗い森から覗く赤い目がいくつも現れる。
「新手か!」
ユーリくんが剣を持って立ち上がる。
「殿下! 私が出ます!」
「クラウディア、相手の数がわからない。僕も出る。無理をしてはならぬぞ!」
いつになくシリアスなユーリくん。
それくらい少し危うい感じなのだろう。
リリアは――
後ろを見ると、モゴモゴと詠唱に入っているリリア。
なるほど、サークルを使う気だろう。
邪悪なものを払うという「普通のサークル」、まさにうってつけの場面。
その効果の程が見られそう。
「二人とも、聖女様のために、三分もたせるわよ!」
「ああ!」
「わかりました!」
それだけで察したらしい二人が頷きながら飛び出していく。
私も外に出て、馬車の陰から新手の集団を覗く。
……びびってるんじゃないぞ? 私が魔法使うところ見られるとまずいからコソコソやるつもりなだけである。
「ゴブリン……だけじゃないわね」
緑色の小柄なの、大きいの、そして茶色いの。
なんとなく想像がつく。ホブゴブリンとかオークとかそういうやつだろう、きっと。
「ユ……カティナ! 極力おまえは何もするな!」
ユーリくんが叫ぶ。
身バレを気にしてのことだろう。
私が今とれる手は二つ。
リフレクトで援護するか、リフレクトをキックして攻撃するか。
いずれにせよ特異すぎて目立ってしまう。
私のサークルは味方が散らばっている今は使えないし、ライトアローは相変わらず役立たず。ヒールは……一応覚えはしたけれど怪我人がこれまでいなかったから使ったことがない。
「わかった! 極力ね!」
つまり、逆に言えば誰かがピンチになったら使う。そういうことである。
「はああああっ!!」
ユーリくんが切り込んでいく。一体を切った返す刀でもう一体。バッタバッタと薙ぎ倒されていくゴブリンたち。
思ったより強いねきみ!?
騎士たちとは一段違う速さで剣を振るっていく。
「アイスストーム!」
クラウディアは初めて見る魔法を使っている。
小さな氷の刃が十メートルくらいの幅に渡り、吹雪のように吹き荒れる。
あれは森みたいな狭いところでは避けようがない。エグい。
前方の騎士たちは前方の五体とまだ渡り合っていて手を離せそうにない。
後ろの騎士二名はユーリくんたちと合流した。
あとは、森の中に何体くらいいるか、だけど……。
そうだ。
「……リフレクト、リフレクト、リフレクト……」
辺りに聞こえないように、小声でリフレクトを何度か唱える。
「な、なんだ!?」
ユーリくんの横に立つ騎士が驚きの声を上げる。
私がみんなとモンスターの間にリフレクト六つの壁を作ったのだ!
三分もてばいいんだから、倒す必要ないもんね!
「みなさん! ユリ様の奇跡です! 壁の隙間や上に集中して!」
「そうか! おう!」
モンスターたちはよじ登ったり隙間から這い出ようとする。
しかし、それは各個撃破の格好の的。
「頑張れー頑張れー」
私にはもうできることがない。なので馬車の陰から応援。
さて、そろそろリリアはサークルの準備が終わるだろうか。
「ユリ様、どうー?」
様子を見ようと馬車を覗く。
そこには――
白い法衣を真っ赤に染めて倒れているリリアと、血まみれのナイフを持つ男がいた。
「リリア!!!」
私の叫び声が、響いた。




