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第14話 作戦(2)

「名付けて、『リリア、あなたの犠牲は無駄にはしない! 私がカタキを取ってあげるから!』作戦〜!」


「コラァ! ナニぬかしとんじゃー!!」


 リリアが暴れ出す。

 ユーリくんが羽交締めにして止める。


「まあまあ。冗談よ、半分ね」


「半分だったら良いみてーに言うなー!」


「まじめな話、リリアには大役を担ってもらうわ。もちろんリリアに拒否する権利はある。それで恩赦がどうなるかは知らないけど」


「ぐっ……卑怯な……」


 大人しくなるリリア。

 ちなみに、王様との約束は「魔法を私に教えることで国への貢献とみなし、死罪は免除する」なので、実はもうクリアしている。更なる恩赦に繋がるかどうかの話だ。リリアがどう受け取ったかは知らないけど。


「まあ聞いて。帝国にはまだ私がいることはバレていない。でしょ?」


「ええ、王国内でもまだ一部の者しか知らないはずです」


 クラウディアが頷く。


「だから、私の存在をアピールするのよ」


「ふむ。御使の聖女様を信奉する帝国であれば、その名を無碍にはできないという部分を利用するのか」


 ユーリくん、そうなんだけど、それだけじゃないんだな〜。


「そうね、王国側に御使の聖女がいたという事実は、上から下まで相当な動揺を引き起こすでしょう。でも、それがわかってから相手がどう出るかわからないじゃない? クラウディアが帝国の人だったらどうする?」


「私だったら……まず祈りを捧げるわ」


 いやそうじゃなく。

 この子、頭いいんだけどたまーに絶妙にズレた発想をする。


「……まあ、信仰心厚い人はそうかもしれないけどさ。まず本物か疑うでしょ。そして本物だとわかったら「弱小王国にはもったいない、うちに引き入れよう」って思うんじゃない?」


「弱小だと!? 伝統ある王国になんと無礼な!?」


 ユーリくん、いまそこじゃないから。

 っていうか五分の一の兵力でよく言えるね。


「まあ、それでさ。だからあえて誘いに乗って帝国側の奥深くに入るのよ。そうね、形の上では和平の使者として、でいいわ」


「なんだと?」


「そのときは、御使の聖女には丁重に対応しつつも魔法が使えないようにガチガチに拘束すると思うのよね。帝国は当然、御使の聖女が強大な力を持つらしいってのは知っているわけだから」


 リリアが魔法拘束とやらをされていたのを思い出す。

 あれは鎖の手枷だったけれど、きっと身につける形のもので色々とあるんだろう。


「……そこで私が身代わりに拘束されろ、と」


 リリアが苦々しげに言う。


「そう。私は御使の聖女役であるリリアの従者としてついていく。それなら私は比較的甘い対応をされるでしょうから。それで和平に応じればよし、応じなければサークルで一網打尽。私を中に入れた時点で詰みってやつよ」


「リリアでは本物と証明できないのでは?」


「そのときは、私がこっそりリフレクトを使うわ。この魔法、ちょっと離れたところにも出せるみたいだから。リフレクト!」


 そう言って、リリアを囲むようにコンニャクを出す私。

 味方を守るためにも使える魔法だから、そういう仕様なのだろう。


「うーん、そんなに上手くいくだろうか? もう少し慎重に考えた方が良いのではないか? ユウリも魔力を拘束されないとも限らないだろう」


「私も拘束されそうになったらその時点で暴れるわ。っと、その前に私がどれくらい拘束されたら何もできなくなるのか、調べとかないとね」


「私のいた牢の鎖に繋げられてみたらどうです? 一応私も聖女だから魔力は飛び抜けている方。なのにそれを無効化するほどの魔力拘束だったから。普通、あれ以上のものをただの従者に使わないと思うわ」


 経験者は語る。


「あれは我が王国の誇る魔術師封じの牢だ。御使の聖女とはいえ簡単には破れないだろう」


「じゃあ、そうしましょ。手っ取り早く調べられるならそれに越したことないから。まあでも、この国の人たちですら御使の聖女ってだけであんなにひれ伏すんですもの。信仰の本家本元の国なら余裕で言うこと聞きそうな気もするけど」


 楽観的な私を見て、複雑そうな顔をするクラウディア。

 あれ、なんか問題あった?


「帝国は、確かに御使の聖女様を信奉しています。ただ、それは『長さ』の聖女様に向けられたもの。その後新たに御使の聖女様が顕現されたことなどないので、どのような反応になるか分かりかねるというのが正直なところです」


 あー、逆に信仰のライバル的な捉え方をされるかもしれない、と。

 宗教組織なんて既得権益の塊だろうしねえ。イレギュラーが許されない可能性はあるなあ。


「ま、その辺りは相手を見て、ね。他の御使の聖女を引き込もうとしないなら、ただの交渉決裂になるわけだし」


「それと、気がかりなのは、リリアが話をしていた男、ロウの存在です。あの者がもし帝国の手のものであれば、リリアの顔もよく知っているはず。偽物と一瞬でバレてしまいます」


 なるほど、それはあり得る。


「では、リリアは顔まで隠すような服装にして、話すときは従者の私に耳打ちして私が代弁するキャラにしましょ。なんか神秘的でいいでしょ。リリアも演じるの楽だろうし」


「まあ……ユウリお姉様がそれで良いなら、良いですけれど。でもそれなら私じゃなくてもいいんじゃ?」


 リリアが怪訝な顔をする。


「そんなことはないわ! あなたの聖女の経験にはとても期待しているのよ。さ、準備に入りましょ」


 主に、あんな素の性格のくせに聖女を演じられる演技力と、何かあった時の逃げ足の速さに期待している。

 言うとめんどくさくなりそうだから言わないでおくけど。


「そうね……リリアは御使の聖女ユリ、私は何かこちらで一般的な名前を名乗りましょう。何かいい案ある? クラウディアとユーリくんはそのままの名前と立場で交渉の席についてきてほしいわ」


 一応、御使の聖女は私をもじったような日本人ぽい名前にしておく。

 過去の転生者が日本人という証拠はないけれど、もしそうだったら信ぴょう性が増すだろう。

 それに、万が一ユウリという名前がすでに相手に知られていた時に、これなら言い訳が効く。


「そうだな……カティナとかはどうだ? ……ただ、ユウリ、おまえも顔を隠すような格好をした方が良い。我が王家の一族に似すぎている」


 なるほど、その視点はなかった。

 いきなり王妃様を若くしたみたいな私が出てきたら怪しいってレベルじゃない。

 王家の人物はさすがに帝国も押さえてるだろうから、詐称するわけにもいかないだろうし。


「わかった、カティナと名乗って、目深にフードを被るようにするわ。来週に開戦ということなら、その二、三日前には交渉のテーブルにつきたいわね。先触れとかがいるのかな?」


「ああ、父にこの策の了解を得たら、すぐに早馬を出そう。明日遅くか明後日には帝国に一報が届くようにする」


 ユーリくんにその辺りはお任せしよう。

 少し言いにくそうに、ユーリくんが続ける。


「交渉場所だが、国境の街あたりになるだろう。我々が準備して明日出立したとして、着くのは二日後になる。おそらくは帝国領内の国境近くに布陣された帝国軍の陣にて交渉となる。……危険な任務になるが、本当に良いのだな」


 この期に及んで何言ってんだか。


「私は、無論です。ユーリ殿下の向かうところであれば、どこであっても私もお供いたします」


 クラウディアが頷く。


「私ももちろん。言い出したの私だしね。最悪、その国境の街ごと相手の軍やっつけることになるから、住民の避難だけはさせておいてね」


 私も頷く。


「私は全然良くない」


 リリアが憮然とした表情をする。

 まあ、気持ちはわかる。


「まあまあ、これ成功させたら金銀財宝たくさんもらえるからさ」


「そうなの!?」


 リリアの目の色が金貨の色に染まる。


「おい、ユウリ。誰もそんな約束……」


「いいでしょそれくらい。国なくなるのとどっちがいいの」


「……わかった。ユーリ・グランバークの名において金銭の報酬を約束しよう。ただし、成功したらだ。和平ないし勝利、そして我々が全員無事に生き残ること。これが条件だ」


「もちろん! 死ぬ気なんてないわ! あ、でもリリア、道中で回復魔法は教えてね。死なないために大事そうだから」


 謁見の間でリリアがヒールと言いながら回復していたのを思い出す。


「あれは聖女専用の……ってユウリお姉様ならできて当然か。私が一番ヤバそうな立場だから周りにヒールが使える人がいると安心できるので、是非覚えてください」


 よしよし、聖女っぽい魔法どんどん集めて破壊力? 増していこう!


 開戦予定まで、あと五日! 頑張ってこー!

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