第13話 作戦
「やっぱり、聖女の魔法には適性があるのかな?」
自分の両手をまじまじと見る。
一回で新たな魔法を使えたのは初めてだった。
しかし、ちょっとだけ飛ぶライトアロー、コンニャクみたいなリフレクト、あたり判定つき結界のサークル。リフレクトはまだいいけど、ほか二つは使えたもんじゃないぞ。
「ユウリお姉様はあれほどの魔術を使って何ともないのですか?」
考え込んでいる私を見て、リリアが声をかけてくる。
……リリア、私の呼び方それで固定する気なの? まあいいけど……。
「うん、まあね。ちょい疲れたかもって感じ?」
「……信じらんない。これが御使の聖女……」
そういえば、リリアはサークルを一度使ったらへばってたっけ。
私の方が職業特性的なやつで最大MPみたいなのが多いのかな? 超レアジョブらしいんだからそれくらいはね。
「リフレクト! リフレクト! リフレクト! うん、まだまだ平気」
半円のコンニャクを三つ出してみたけれど、特に疲れてダメってことはなかった。
「ユウリ、あなたの『太さ』に影響された魔術にはいくつか似たような性質の変質が起こる傾向があるわね」
クラウディアがそのコンニャクを見て、言う。
確かにそうだ。
「まず、『太く』なる。それも広義的な意味で太くなる。だから厚くもなる」
「そうね。それから、厚みにふさわしいくらいに全体的に大きくなる。それと、なぜか柔らかくなる」
柔らかくなるのは、太っちょはブヨブヨしているみたいな意味なんだろうか? ちょっと偏見ありそうだけど。神様の趣味?
「それと何より——」
クラウディアが真剣な顔をして私の顔を覗き込んでくる。
「魔術にも関わらず、質量がある」
そう、クラウディアのライトアローや、ケラーさんのリフレクトは、全く重そうではなかった。浮いている感じ。
それなのに私の魔法はどれもぼてっ、どさっ、という感じで明らかに重力の影響を受けている。なんでなん。
「むしろ他の魔法には重さってないの? ……これ重たいのかしら」
コンニャクをひとつ叩く。ぷるるんと揺れる。
「どれどれ? よっ……動かないな」
ユーリくんが動かそうとするも、柔らかく形は変えるものの移動はしない。
「魔術は基本的には術者しか動かせないものです。しかしリフレクトは動くものではないはず」
「じゃあ……とおっ!」
思い切り蹴っ飛ばしてみる。
どごぉーん!
想像よりとても軽い感触で足が振り抜かれ、私のコンニャクボールはスピードに乗って飛んでいき、ド派手な音を立てて王宮の壁にめり込んだ。
「……あら?」
「あああっ! 王宮の壁が……」
「ごめんユーリくん、わざとじゃないのよ」
「そうだろうけどな、ああ……」
「リフレクト蹴っ飛ばすとか、足が折れるでしょ、普通」
リリアの常識にもなかったらしい。いや先に言ってよそれ。折れてたら洒落になってないから。まあ柔らかいから痛くなさそうと思ってやったのだけど。
「……これではっきりしましたわ、ユウリ」
「何が?」
「あなたは、超攻撃的守備魔法使いなのよ!!」
閉じた扇でビシっと私を指すクラウディア。
矛盾のかたまりみたいなこと言う。
「……否定したいところだけど、できないわね」
攻撃魔法のライトアローはへっぽこ。
守備魔法のリフレクトとサークルは破壊力抜群。
存在がイレギュラーよね、この世界の人から見たら。
「ってことは、守備的な魔法で攻撃していけば強いってこと、かなあ?」
なんか、『太さ』という語感から想像できるイメージとはだいぶズレてる気もする。
もっとこう、魔法に応用できるとしても、攻撃魔法の威力増大! みたいなのじゃないの? 普通。
「これで帝国に勝てる……と思う?」
「一般的に、手練れの魔術師は千の兵に値すると言います。しかし、どうでしょうか、あまりにも私の知る魔術と常識が違いすぎて……」
「ふっ、皆さん先程のユウリお姉様のサークルを見ていなかったのですか」
リリアが自信満々という感じで前に出てきた。
「というと?」
「あの何でも薙ぎ倒すサークル。あれを敵に当てればどれほどの量の敵も一網打尽でしょう」
あー、なるほど? そりゃまあ、確かに?
「あれに巻き込まれれば、致命傷までは至らずとも、戦力を削ぎ陣形を崩すことは充分に可能だろうな」
「リリア、サークルって方向を制御できたりするの?」
「いえ? 自分を中心に広がるのみです……あっ」
リリアも気がついたようだ。
この作戦の最大の難点を。
「ってことは、私が自陣から使ったら、自陣もめちゃめちゃになるってことよね? あのボールを上に投げる必要あるってことは、中心点はそこから動かせないんでしょうし」
「そこは、ほら。ユウリお姉様が敵陣の真ん中奥深くまで入り込んでから使えば……」
「無茶苦茶いうなー!」
私自身はただの生身の女である。二十万の兵士の真ん中を突っ切るなんて無理無理。
ただでさえ数分は詠唱にかかるのだから、相当な部隊で突っ切って、しばらく守ってもらわなければならない。あまり現実的ではないだろう。
「では、今から隠れていては?」
クラウディア。あなた頭いいけどめっちゃ酷いこと言ってる。
「右も左もわからない異世界の荒野で、一人で何日間も茂みに隠れてろっての? 大体そこに帝国軍がピッタリ来るって保証あるの?」
「御使の聖女様ならきっと上手くいくわ。そうに決まってますもの」
そこでいきなり脳内お花畑になるんじゃない。
確かにサークルは範囲攻撃できる感じはするし、そこに活路を見出したくなる気持ちはわかる。
だけど……うーん、攻め込まれた後で自領もろとも自爆覚悟みたいなのはできるけどねえ。
自爆覚悟……ん? もしかして?
「ねえ、前に帝国で御使の聖女が現れたって言ってたわよね」
「ああ。『長さ』の聖女様だろ? 我が国でも信仰の対象になっている」
「この国でも信仰されているくらいだから、帝国では御使の聖女ってもっと信奉されてる感じ?」
「そう……だろうな。国の守り神として祀られていると聞く」
「しかもあちらも絶対優位だって信じて攻めてくるのよね?」
「そうでしょうけれど……ユウリ、あなた何を考えているの?」
「ふっふっふ、それだったら何とかなるかも? いいこと思いついちゃった」
私はある作戦を思いついたのだった!




