第10話 新たな魔法と、決意
「これが『全てを跳ね返す盾』リフレクトです。戦の場で神官兵が恐れられる最大の理由ですな」
奥の部屋でケラーさんが見せてくれたのは、大人の全身を守れるくらいの半円形の薄緑の光の膜、という感じの魔法だった。
「ほうほう?」
ペチペチと叩いてみる。ガラスみたいに硬質な感じ。
「クラウディアが思いっきり魔法叩き込んでも無事?」
「それは……どうかしら。この魔術は、攻撃を受けて壊れそうになると魔力を消費して維持していくの。延々と攻撃を受ければ限界がくるし、全身を包むような広範囲の魔法は防ぎようがないし」
「そうですな。ただ叩かれる、切りつけられるといったものには強いですが、実のところ全てを跳ね返すという二つ名を過信してはなりません」
なるほど。使いようって感じか。
私は、こういうのが『太く』なったら……つまり、厚みを持ったら強いのでは、と思って防御魔法を学ぼうと思ったのだった。今の理屈だと、太さよりも範囲や持続性の方が重要かもしれない。
過去の『長さ』の聖女さんはこういうので無双できたのかも。もしかしたら。
「よーし、教えてください!」
新しい魔法、頑張るぞ!
「全知全能なる神よ、我を守りたまえ! リフレクト!」
私の手の先の魔力が変質し、でっかい緑のコンニャクみたいなものが形づくられる!
「や〜っと、できたー」
夜まで練習して、いま初めて成功した。
魔力を集められれば魔法って簡単にできると思っていたけれど、大間違いだった。
形を捉えてイメージを固める意識の流れと、詠唱や手の動きがきちんとスムーズに一体化しないと途中で魔力が霧散するみたい。
ライトアローがいきなりできたのは、本当に初歩の魔法だったからだろう。
……一番の原因は、あの神様を全知全能とか言わなきゃならなかったことかも。だって嘘だし。そりゃイメージ固まらないわ。
「おお……これが御使の聖女様の御技……」
ケラーさんが涙を流して感動している。
……そんな? ただのでかコンニャクだが?
思ったとおり、ケラーさんのリフレクトは一センチみたいな薄さだったけれど、私のは二十センチくらいの厚みがある。おかげで半透明なはずなのに向こうが見づらい。
サイズも二回りくらい大きく、真後ろ以外ほぼ覆われている。
ライトアローもそうだったけど、重さ? があって周りにでろーんって広がってる感じ?
「ユーリくん、これに攻撃、なんかやってみて?」
「あ、ああ」
腰の剣を抜き、軽く斬りつけるユーリくん。
ぼよん、と弾かれる。
「なんだこれ、柔らかいのに切れないぞ」
強めに切っても同じみたい。ゴムみたいな感じ?
「ていっ! やあ! とおっ!」
何度も斬りかかるユーリくんだが、私のリフレクトはぼよんぼよんと跳ね返す。いい感じ。
「クラウディアもよろしく」
「じゃあ……ライトアロー!」
虚空に光の矢が三本現れ飛んでくる。複数出せるんだ?
万が一貫通しても私に当たらないところを狙ってくれるクラウディアの優しさ。
ぼよーん
なんと、壁に包まれた矢が逆に跳ね返って飛んでいく。
「ひっ!」
その先にいて、咄嗟に身をかがめてかわすケラーさん。いい反射神経だ。
「リフレクトって名前だけあるわね?」
「いえ……普通、そんな効果ないのだけれど。まったく、想像を超えるわね」
呆れながら壁を指でつっつくクラウディア。ぷるんぷるん揺れるコンニャク。
「いや〜、でもおかげさまでやっと役に立ちそうな魔法使えるようになったよ。ありがとうケラーさん」
素直に嬉しい。
「たった一日で使えるようになるとは、さすがでございます。御使の聖女様のお役に立てて幸甚にございます」
魔力操作といい、飲み込みは早い方らしい。
でも、これじゃ守れるの私だけなんだよなあ……。
帝国との戦争、当面の課題はこれだ。対個人じゃない。
「本当はもっと何十人何百人って守れるような広範囲なのがよかったんですけどね」
「広範囲ですか、それは……今は難しいですな」
ケラーさんは渋い顔をする。
「今は?」
「広くを守るは「結界」と呼ばれる類いの魔術。神殿の聖女の奇跡なのです」
「あー」
牢屋にいるだろうあの子のことを思い出す。そりゃ「今は」だね。
「クラウディア、リリアみたいな聖女って私の劣化版みたいなもんなんだよね?」
「劣化……そういう言い方は良くない気がしますけど、先ほど言ったとおり、神殿の聖女は「御使の聖女の一片ほどの奇跡を使う」とされているので、そうかもしれません」
「ということは私にも使える可能性は十分あると。うーん。他に聖女っていないの?」
「遠方にはおりますが、この王都近辺ではおりませんな。聖女は希少な存在。なにせ努力のみでなれるものではありません故」
しばし考える私。
諦めて他、という方向もアリだけど、でもやっぱりいるよなー、こういう戦略兵器。
よし。
「じゃあ、リリアに教えてもらいましょう!」
『なっ!』
三人綺麗にハモる。
「いいじゃない。なんかやったらクラウディアが焼き払えば。あの子恨みとかじゃなくて欲望で動いてたんでしょ? ならたぶん買収できるわよ。恩赦とかで」
「……なんという常人離れした発想。これが御使の聖女というものか。しかし、恩赦をちらつかせるならば父に確認が必要だ」
ユーリくんが怖いモノを見る目で見てくる。
あー、王様かあ。きっと会ったらまたハイって言うまで「国を救ってくれ」って言われるんだろうなあ。
「じゃ、そこはユーリくんに任せるわ。ヨロシク」
「……わかった」
あら、素直。やっぱり心の中では「御使の聖女様」って思ってんのかなあ。それはそれで寂しいなあ。
今日はそれで解散して、部屋に戻った。
ベッドに横になって思い返す。
なんだかいろんなことがあった一日だった。
魔法が使えるようになって嬉しかった。
でも出てきたのがツチノコでガッカリした。
と思ったら御使の聖女とか言われて、持ち上げられた。
これは喜んでいいのか、まだわからない。
だって中身はほとんどニートのままなのに。
それから、御使の聖女と、この国について聞いた。
思ったよりピンチな国だって知った。
来たくて来た国ではないけれど、腐れ縁というか、一宿一飯の恩というか。
ユーリくんもクラウディアもいい子だし。
見捨てられないし、見捨てたとしても行くあてもないし。
「よし!」
私ができることをやろう。
本当に私がそんな伝説の存在なら、なんかあるでしょ、きっと!
「ツチノコとコンニャク千回練習!」
私は部屋の中でひたすらライトアローとリフレクトの練習をしたのだった。
「お?」
何百回目だろうか、もはや詠唱いらずで出せるようになったツチノコが、たまにぴょーんと二、三メートルくらい前に飛んで落ちるようになってきた。
「もしかして、慣れたら強くなってく系? スキルレベル的な?」
異世界なんだからそうだったとしてもおかしくはない。
これは、もしかして……。
「ステータス、オープン!」
両手を挙げて意気揚々と叫ぶ私。
しかし、何も起こらなかった。
……。
「そういうやつではないのね……」
とても熱心とまでは言わないまでも、マンガやゲームでファンタジー世界はよく知っているし、異世界転生系の話も読んできた。
レベルとか、スキルとか、ステータスとか。そういう明確なものを期待したけれど、なかなかそう思った通りにはいかない世界らしい。
「まあ、魔法も覚えられたし、努力すれば強くなれるっぽいし! 決戦まで一年くらいあればなんか役には立てるでしょ!」
私はポジティブなのである!




