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家族愛

時刻は3時15分。完全に過ぎ去ったと思っていた冬の冷気に襲われて、どこかに温もりがないかと体が訴える。そんなとき待ち合わせ場所である時計塔の下にパタパタと走ってくる人がいた。その待ち人、伊藤愛はいつも通りの明るい顔で、優しく微笑みかけてくる。

「寒い中待たせちゃったわね。ごめんなさい。」

「いや、大丈夫。とりあえず行こっか。」

二人は横並びになって目的地に向かう。二人の肩の距離は遠すぎず、近すぎず、逆に意識してるのかというくらいにちょうどいい距離である。そんな二人はたわいもない話をしながら住宅街を歩き、一つの一軒家の前で足を止める。家のポストの上には伊藤と書かれたプレートがあり、そこが伊藤家の家だと言うことは誰にでも明白である。なぜここに来たのか。それは全て足利...いや花音先輩のせいである。あの人が挨拶をいつするのかと言う話を皮切りに他の部員も煽りに煽り、流石に対応に疲れたので愛と結託して、さっさと挨拶してこようという話になったのである。それに実際、愛にはお世話になったし、菓子折りくらいは持っていった方がいい気がしていた。

「一応友達が来るって話してあるから、予定通りにお願いね。」

「おっけー任せて。」

冷たくなった鉄のドアに手をかけてドアノブをひねる。中からは外にいたときとは考えれないほどの暖かい空気が二人を迎え入れた。

「ただいまー。」

「お姉ちゃんおかえりー!...お姉ちゃん...その人って...」

「ええ!紹介するわ!この人は同じ部員の...」

「お姉ちゃんの彼氏だーーー!!!!」

とてつもない声と共に、えげつないガセが振りまかれる。人体を侵害するレベルにうるさいのはふゆ特製の拡声器以来である(大体110デジベルくらいだったかな)確かこの子は伊藤優。伊藤家の次女で今は中学2年らしい。

「静かにして優姉さん。お客様が怖がるよ。」

スタスタと落ち着いた足取りで現れて、その男の子は姉を制する。彼の名前は伊藤真。伊藤家の末っ子らしいがとても大人びていてかっこいい。

「木戸雄馬さん...でしたよね。姉さんからよく話は聞いています。今日はゆっくりしていってください。」

「あ...ありがとうございます!」

しっかりとした対応についつい敬語になってしまう。そのままリビングに招かれ、椅子に座るように促される。「失礼します。」とお礼を言いながら椅子を引き、自分の膝の上にバックを置く。そのとき、向かいのドアがガチャっと開き、その中から愛の両親が出てくる。その姿を見て慌てて立ち、相手より早く挨拶をする。

「こんにちは、木戸雄馬です。今日はお邪魔させてもらってます。これ、つまらないものですが。」

手早く駅前で買ったクッキーをバックから取り出して渡す。

「いえいえ、こちらこそ愛がお世話になってます。」

「雄馬君、折角ならこのクッキー、みんなでいただいてもいい?今お客様に用意してるものが無くて。」

「はい、もちろんです!」

愛想よくありがとねーと小さくお礼を言われた後、再び席に座ろうとするが少しつまずいてしまい、バックの中身が飛び出してしまう。

「あ、ごめんなさい。」

「拾うの手伝います。」

真君がバックから落ちたものを一緒に拾っていると、彼の手がピタッと止まる。

「木戸さん...これって...」

彼が手に持っているものを見た瞬間、先程まで感じていた暖かい空気が消し飛び、いきなりシベリア辺りに吹いてそうな凍りつく空気に変わる。

「あっ!ちょっ、それは...」

彼は手に持っていたそれ、もとい桜との厨二病ノートをパラパラとめくる。いつも部員達に誇らしげにかざしている自分の力作が、今は自分を粉々に粉砕する破壊兵器に見えてしまう。

「こ、これ...」

終わった...俺の印象...その一欠片までもが...

「めっちゃカッコいい!!」

「...ほえ?」

予想外すぎる反応に目を丸くして間抜けな声を出してしまう。そこには大人びた男の子の姿はなく、年相応に(自分でいうのもなんだが)気取ったものに目を輝かせる男の子がいた。

「木戸さん!演劇部なんですよね!!これ読み上げてください!!」

そう言って俺の力作及び黒歴史ノートを開いて渡してくる。今すぐにでもこのノートを焼却して死んでしまいたい気持ちだが、ここまで喜んでくれているとなんだかこのノートとそれに書いてあるものがまともに見えてくる。

「えっ、えっと、"漆黒の闇より、愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今降臨せよ!ダークリベリオンエクシーズドラゴン!"」

恥ずかしい思いを振り切り精一杯ドスがきいた声を出して読むと真君が「はわ〜!」と恍惚とした声を出してくれる。

やばい、なんか楽しいかも。

「次!次お願いします!」

「"閉ざされし世界を貫く我が新風!現れろ!ヴァレルロードドラゴン!"」

「うおー!」

何か熱いものが込み上げてきてよくわからない自信がふつふつと湧いてくる。完全に自分だけの世界に酔っていると冷ややかな目線に現実に引き戻される。それはこちらを憐れんでるようにも、頼むから人目のつかないとこでやれという訴えにも見えた。

「ご、ごめんなさい」

「はぁ、わかればいいのよ。まあでも...」

少し一息を置いてこちらに顔を見せず、小さく呟く。

「よかったわ、笑顔になってもらえて。」

「わあ〜!お姉ちゃんが照れてる〜!!」

「少しは声を小さくしなさい!」

優さんが「否定しないの〜?」と茶化していると、ご両親の二人がクッキーと飲み物を持ってきてくれた。

ありがとうございますと頭を下げて、テーブルに向き直る。クッキーの匂いが鼻腔をくすぐり、口の中のよだれがクッキーを食べるGOサインを出す。いただきますと6人は口を揃えて言い放ち、その姿はまるで一つの家族であった。まあ、俺以外はほんとに家族なのだから当たり前なのだが、その輪に自分も入ってる気がして、なんだか嬉しかった。皿に積もったクッキーを手に取って食べているとあることに気づく。愛が全然クッキーを食べず俯いている。

「お姉ちゃん、どうしたの?具合悪い?」

優さんが眉間に皺を寄せて心配する。その言葉に顔をあげて、でもどこかおぼつかない声で答える。

「ううん、大丈夫よ。ただ、その...」

また俯いてしまう。一体なんなのだろう?彼女には色々助けて貰った分、自分も何かしたい。そんな思いから、自分も声を出す。

「ほんとに?遠慮しなくてもいいよ?俺にできることならなんでもするから。」

ちょっとキザなセリフだったかな、と思っていると愛の隣の両親が小さく微笑んだ気がする。そしてその後、ご両親が愛に小さく耳打ちする。その言葉に顔を更に赤らめて、意を決したかのように水を一気飲みして、こちらに目を向ける。

「ゆ、雄馬!今日家に来て貰ったのは...家族に挨拶してもらうためで...」

「う、うん。というかそれ以外にあるの?」

また黙ってしまう。話が見えて来ずに俺の両隣にいる優さんと真君も首を傾げてしまう。どれくらい黙っていたか、とうとう口を開けて、止まった時間が動きだす。

「あ、あなたさえ良ければ、そ、その...」

俺さえ良ければ...?

「いっ、一緒に...」

一緒に...?

「一緒に...!暮らして欲しいの!」

....

「う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ー!!」

思考が止まる。あまりにも隣の優さんがうるさいから聴覚も止まった気がするが、鼓膜が破壊されようともさっきのセリフを聞いていないことにはできない。

左に座っている真君もわなわなとした困惑顔で、どうやら両親だけにしか話していないようである。

「えっ、えーと、それって...」

愛の顔を見ると真っ赤になりながらぷるぷると震えている。その目はこれ以上説明を求めないでと訴えかけていた。

「愛から色々聞いてるよ、君と、その両親のこと。初め愛が一緒に暮らしたいなんていったときには面食らったけど、一応両親としては、子供の提案を受け入れてるってことで。」

お父さんにニコッと笑顔で説明され、なんて言えばいいか分からなくなる。挨拶と同時にテストされていたのだ。伊藤姉弟と仲良くできるか。家族として相応しいかを。そしてそれを愛から提案して...

そのことで完全に脳がおかしくなり、思考と理性がジェンガのように音を立てて瓦解する。

「そ、それって僕に男兄弟ができるってこと...!ゆ、雄馬兄さん!僕!必ずあなたを幸せに...!」

「ちょ、ちょい待ち!少しだけ!」

なんだかよくわからない内にプロポーズ紛いなものを受けた気がするが、それは自分が言わないと示しがつかない。グチャグチャな思考をちゃんと整えて口を動かす。

「ねえ、愛」

愛の目線が心臓を突き刺す。「くどいわよ。」そう言われてるような気がした。もしここで断って、家に帰って、またあの冷たい部屋に戻って。そのことを考えると、今こうしていることが、どんなものより輝いてるものに感じて、胸が熱くなる。尽くしたい。こんな人達に家族として迎えてもらえたなら、楽しい日々を送れたなら...

息を整える。これが、この人達に認めてもらうための最初の一言。

「皆さん、精一杯働いて、精一杯力になります。なのでどうか、ふつつかものですが、よろしくお願いします。」



あの目まぐるしい日からまだたった1日しか立っていないことに違和感を覚えつつも体がどんどん慣れてくる。観客席には"あの人"と今の俺のかけがえのない家族がいる。点灯していない蛍光灯からもそれがはっきり見えて、ざわめく心臓を必死に止める。

「安心しなさい、私達がついてる。」

すぐ横に大切な人が、大切な仲間達が各々の衣装を纏って笑っている。それを見てると頬が緩み、ケツイが湧いてくる。

「うん、愛姉。みんな。行くよ。」

暗がりを照らすスポットライトは出演者に輝きを与えた。

どうもこんにちは。作者のあまりんごです。こういう後書きは何を書いたらいいか分からず今まで触れてこなかったのですが、今回はこの後の方針を色々と伝えたいと思い書かせていただきます。まず初めにここまで見てくださりありがとうございます!次回が劇をやって、その次の話くらいで雄馬のパートを終えて、ちょい日常回を挟んだ後、別の子のナイトメアペインをしたいと思っています。なので雄馬と愛のイチャイチャは日常回でたまにあるかもくらいで、一旦次次回くらいで終了にします。なので、とりあえず書きたいことが書けてよかったです。それともう一つ。劇の書き方なのですが、本当の劇の台本に近い形で書きたいので

与一「◯◯」

みたいな形で人の名前とセリフを書かせてもらいたいです。どうかご理解ご協力の程よろしくお願いします。

長くなってしまいましたが、次回は花縁高校、春の自主公演「バラの贈り方」です!彼らの劇をどうかお見届けください!

追記:結構誤字ってました...申し訳ございません...

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