迷子のお知らせ②
声を掛けられ後ろを振り返る。そこには伊藤が立っており、その後ろの遊園地の雰囲気は最高潮にまで達していて、ここで帰る人など俺を除いて誰一人いなかった。だからこそ、遊園地の出口で佇んでいる俺に向かって伊藤は怪訝そうな顔をする。
「まさかトイレに行くなんて言いながら帰ろうとするとは思わなかったわ。もしかしてあなたもジェットコースター苦手なの?」
伊藤は仲間を見つけたかのような反応をして嬉しそうに微笑む。その顔に対して自分がねばっこい嫉妬心と果てしない憤りを感じてることに気づく。まるで違う。俺には家族にお土産を買ってあげることはできないし、この遊園地を楽しむことなどできやしない。
「俺、この後大事な用事があること思い出して...そろそろ帰んなきゃいけないから。」
声が震える。嘘をついてるからということもあってたじたじになってるのだろうが、本当は感情を堪えるのに必死になっているだけだった。だが、こんな嘘っぽい話に素直に引き下がる人間はどこにもおらず、伊藤は自分の手を握り遊園地側に連れ戻そうとする。
「そんなに怖がらなくていいわ!なぜならこの私が付いているのだから!」
彼女はきっと「さっきまで怖がってた癖に」と茶化して欲しかったのだろう。だが、自分が怯えていること、そして手を握られているこの状況をさっきの洋輔君と重ねてしまい、そんな自分に対する思いで手一杯だった。
「触んな!」
パッと手を振り払う。その行動はさながら反抗期の息子のようで、ひどく醜い、ただの八つ当たりである。
伊藤は「えっ...」と素っ頓狂な声を上げて目を丸くする。みぞうちに風が吹き抜けて気持ちが悪い。
「いいよな、お前は。ここで存分に楽しんだ後、家族が温かく迎えてくれるんだろ...?俺は違う。アトラクションがいくら楽しかろうとどこかの席にはいつだって家族連れが居て、それを見るたびに不愉快の気持ちになる。今だってそうだ。ワーワーキャーキャー騒いでるあいつらを見てるとイライラする。」
視線をパレードに移してみる。誰も不機嫌そうな人はいなくて、きっとここまで不機嫌なのは俺くらいだ。そして、今俺がやっていることは他の人さえも楽しめなくする最低なこと。もう自分がわからない。仲間欲しさに楽しんでいる人を不幸にすれば気が済むのか、自分だってあんなふうに楽しみたいのか。ふと、パレードの中に洋輔君と父さんの姿が見えた気がする。笑えてくる。あんなに笑顔な子と自分を重ねてるなんて。
「とにかく俺はもうここに居たくない。余計なお節介をかけずにほっといて。」
出口の方に向き直すと、当然だがパレードのところより光は少ない。闇に心が溶け込んで安心しているのか、蝕まれているのか...どちらにしろ光が当たる場所にはもう居られない。
「木戸!」
足を止める。後ろは振り向かなかったからどんな顔をしていたかはわからない。耳だけを傾けて次の言葉を待った。
「悩みがあるなら私を頼って...あなたには私が付いているから...」
目が滲んできて、光が世界を支配する。さっきまで少ないと感じていた光は今や自分の視界の全てであり、今向き直れば、きっとさらに多くの光が迎えてくれるかもしれない。でも...
「"ごめん"伊藤...」
出口から遊園地の外に出ると父さんの声が頭に響く。
"雄馬は自分がしてもらったことに感謝できる子だからな。"
...手放した癖に結局俺はまた光を探している。




