花縁高校演劇部 地区大会公演 「宮川探偵事務所!」
キャスト
宮川一奈 津田香奈恵
朝日大輔 木戸雄馬
藍川洋 松尾水月
鶴澤千佳 空海月乃
佐原廻 足利花音
滝沢玲央 豊臣燐音
羽咲美雨 織田紗香
上妻来賀 徳川夏希
ステージの上。
緞帳は花柄模様を客席に見せて、劇が始まるその時を黙して待つ。
上手の方には不安そうな顔つきの香奈恵がインバネスコートをギュッと握って、客席の方が見れるテレビを見る。
「…これから始まるんだね。あー緊張する…。初めてなのに主役級だなんて…」
「まあ俺も初めてにして主役やったし、そこんとこは星羅がジェラっちゃうくらいにサポートしてやんよ。というより、そこまで不安がることないよ。結構楽しいから。こういうの。」
そう言って雄馬が自分のネクタイを手直ししながら香奈恵を励ます。
星羅と愛は照明の関係でここからは見えない場所。
立ち並ぶ機械やその回路の数々は、劇とは到底一人の力で作られるものでないことを雄弁に語っているように思えた。
あと数分。
時間が刻一刻と進むだけで、私の胸は張り裂けそうになる。
期待されているという感覚。
期待して欲しいと思う感覚。
静かに、だがゆっくりと練られるその感覚に、どうしても気持ち悪くなってしまう。
そう思っていると、暗がりの舞台を歩いて、彼が近づいてくる。
「どう?調子は。」
「さあ。とりあえずやれることはやったし、それをこなす以外にやれることもない。」
「淡白だね。もうちょっと自分を出してもいいのに。」
「それはあなたの役目でしょ。あなたが不甲斐ない演技をすれば、私のとっておきも消えてなくなる。」
「…へえ。期待してくれてんだ。」
「そう思う?こういう雰囲気だから、無理にでもロマンチックにして麻痺させようとするのは分かるけど。」
いつものように、私は素直には言わない。
だって、あなたが私を選んだのなら、私は私を貫けばいい。
私があなたを出し抜いて、そうすれば私はもっと私らしくなれる。
…馬鹿みたい。本番なのに、私はこんなにも、あなたに必死。
ブザーが鳴る。どこかの演劇部の人がしっかりとした声で私達の高校と劇の名前を読み上げる。
「ただいまより、花縁高校演劇部。宮川探偵事務所!を開演致します。」
拍手が雨音のように間隔を空けずに鳴り響く。
「期待してるよ。月乃。」
「…頼むから、シャキッとしてね。私があなたを好きになれるように。」
ピース1
緞帳が上がる。
暗がりの中、香奈恵のナレーションから劇が始まり、その声は震えておらず、もうすでに宮川一奈としての声だった。
宮川「皆さんは、人のためと自分のためを分けることができるでしょうか?
あの人の役に立ちたい…!そんな思いはその人のためなのか…はたまた自分が好かれたいためなのか…。
内なる心境。それはいつだって人を悩ませ苦労を増幅させてしまう。
そういう線引きは、しっかりと人を見て、自分を知らねばかないません。」
パッとスポットライト。センターにいる宮川と朝日がそこに照らされ決めポーズをする。
宮川「そんなお悩みも、私達が解決いたします!
今日も今日とて明快推理!宮川探偵事務所です!」
明点。舞台にはパソコンが置かれたデスクに、紙コップが三つほど置いてあるテーブルがある。
二人はそこに歩いていき、両者が椅子に座って進行する。
宮川「あー…ガチで人来ないんだけど…。なんかもっとこう…血を血で洗うような事件とかないの?いや、もちろん不倫調査とかでもいいんだけどさ…」
朝日「この前来たじゃん。謎の陰謀論者が日曜に。折角依頼がきたと思ったから休日出勤したのにマジでガッカリだったわ…」
宮川「いやそれな!何が世界の終末だよボケ!私達の週末を返せやホンマにヨォ!」
宮川がデスクを叩き、バタンと机に倒れ込む。
大きなため息をついて、明らかにダルそうな表情で朝日を見る。
宮川「やっぱし…実績がないとダメなんかねぇ…。でもその実績作りもどうやればいいのやら…」
朝日「コナン君でも捕まえて米花町の犯罪率でも減らす?排気ガスを出さない自動車じゃなくて自動車そのものを破壊するビッグモーター戦法。」
宮川「ははっ、ありかもねー。犯罪起きない方がいいに決まってるからなー、でもなー、やっぱりなー。」
その時、ピンポーンとチャイムが鳴る。
二人が顔を見合わせると同時にBGM。
宮川「おいおいもしかしてよー…。」
朝日「もしかするかもねぇ…!今開けまーす!」
朝日が上手までいきドアを開ける仕草。
それに合わせてドアの開閉音のSEが鳴り、タイミングよく鶴澤が入ってくる。
服装は夏服の制服姿で、リボンがきちんと結ばれて、その姿勢の良さも合わさり、どの角度から見ても、品行方正といった印象を携えている。
鶴澤「こんにちは。こちら、宮川探偵事務所の方で合っていますか?」
ぺこりと小さく会釈して、台本があるかのように詰まらずスラスラと言葉を並べる。そんな落ち着きをよそに朝日は興奮冷めやらぬ様子で鶴澤に話しかける。
朝日「はいはいもちろんですとも!今宮川さんが対応なさるのでどうぞテーブルへ!」
鶴澤が朝日の手招きでテーブルに連れて行かれる。
その間に宮川が紙コップを手に持ち飲み物を入れる動きを入れて、そのコップを鶴澤が届く場所に置く。
宮川「こんにちは。私達はこの探偵事務所の所長の宮川と申します。今日はどのような件で来られましたか?
相談料は無料なのでごゆっくりお話し下さい。」
鶴澤「こんにちは。私は鶴澤千佳って言います。今日はこの探偵事務所にしか頼めないお願いがあってきました。」
そう言った瞬間、宮川が隣に座った朝日と目配せをする。
顔からは綻びを隠さず、テーブルの下でガッツポーズをする。
宮川「キタキタキタ!いよいよ私達の時代が来たんよー!」
朝日「よし…こっからガチで慎重にいこ?なるべく全肯定マンになって気持ちよく会話させよう。」
宮川「おけおけ!口八丁で老人に株を買わせて生きてきた実力舐めんなよ?」
鶴澤「あのー?」
宮川「ああ、話を折ってしまい申し訳ございません。さあ!なんなりと!いくらでも!なんだってお申し付けください!」
勢いよくマシンガンのように言葉を発射して、テーブルから身を乗り出すように喋る。
鶴澤はそんな様子に全く動じず、むしろ胸に手を当て、キラキラとした眼差しを向ける。
鶴澤「それなら…私をこの事務所に入れてください!」
宮川・朝日「…へっ?」
舞台に沈黙が落ちる。
宮川と朝日が先程のように顔を見合わせる。
朝日は少し面食らった顔。宮川は心底めんどくさそうな顔をしている。
宮川「ああ…すみません。少しお待ち下さい…。
ちょい朝日、こっち集合。」
宮川と朝日が上手側による。少し屈んでヒソヒソ話の陣形。
宮川「いやー…想像の斜め左上なんだけど…どうやって追い返そう…」
朝日「別にいいじゃん。入れさせてあげれば。二人しかいないのは寂しいものがあるし。」
宮川「はぁー!?今のご時世舐めんなよ!?人件費一人雇うだけでいくらかかると思っとるねん!それがたとえ高校生だとしても!」
朝日「俺一銭も貰ってないんだけど。」
宮川「そこは…まあ…心が満たされてるっしょ?」
朝日「怒りでな?というか、なるほど。あの子雇えばお前は払わざる負えないわけかぁ…」
宮川「やめろー!そんなことしちゃいけない!経営者はいかにして出費を抑えるかのバトルなんだよー!」
朝日「うっさいわ!探偵事務所とか普通に考えて儲かる訳ないだろ!」
宮川「そんなとこにきたアンタもアンタでしょ!」
宮川と朝日が言い争う。そこに少し困った顔をしながら鶴澤が割り込んでくる。
鶴澤「あのー…私、お金が欲しい訳じゃないんです。ただ…その…社会経験?ていうのをしたくて。」
宮川「…それなら普通にバイトすればいいじゃん。社会経験積んでお金も貰えるし。」
朝日「もしかして、何か別の理由があったり?」
鶴澤「えーと、それは…」
十秒程度の少し長めの沈黙。
鶴澤はジロジロと見られているその視線を避けるように後ろに下がり、宮川がその様子を見て顎に手をあてうなだれる。そして、ふう、とため息を吐いて、それをキッカケにセリフを言う。
宮川「……答えられないなら、まあそれでもいいよ。ただし、しっかりと働いてね。よろしく、鶴澤さん。」
パッと鶴澤が顔を上げる。照明と相まってその顔はキラキラと輝きを放ち、快い声が会場を貫く。
鶴澤「はい!よろしくお願いします!」
暗転。
ピース2。
再び同じように宮川がデスクに、朝日がテーブルに座っている。テーブルには勉強道具とテキストが載っており、朝日がノートなどをペラペラとめくりながら照明が付く。
宮川「何見てんの?」
朝日「鶴澤さんの教科書とかノート。多分受験対策かな。結構こと細かに書かれてるし、あの子想像以上に真面目なんじゃない?」
宮川「うへぇー、受験勉強って単語聞くとほんと嫌になるわー。あんなの成功すればいくらでも美談だけど、しくったらただの拷問の日々としか感じないからなー。」
朝日「…失敗したの?」
宮川「聞いちゃう?私の受験生の日常。毎日勉強して、それでも結果が振るわずに自分がゴミのように思えた日々…そんなとき、ふとYouTubeを開くとそこにはヒトラーの演説が…」
朝日「おっと、危なくなってきたね。大人しくファイトソングとか聞けばよかったのに。」
宮川「んー。私が卑屈なだけかも知んないけどさ、液晶画面の奥から頑張れって言ってくるのは、まだ頑張りが足りないって安全圏から言われてる気がしてならないんだよねー。だから、やっぱり私は、無責任に応援はせずに…」
鶴澤「みなさーん!聞いてくださいよー!」
ドアをバンと音を立てながら開けて、鶴澤が入ってくる。ニコニコとした彼女の手には一つの紙が握られており、パタパタと下手側からテーブルに向かって走り、それを広げる。
朝日「これ、どうしたの?」
鶴澤「契約書ですよ!早速依頼を取ってきちゃったんです!」
宮川「おいおい…ちゃんと働けとは言ったけど、私の知らんとこで知らん契約結ぶなよ。」
鶴澤「でももう結んじゃいましたし、報酬も確定しちゃってますよ?」
鶴澤が宮川の方を見てニコッと笑う。その笑みには底しれない圧が込められており、宮川は小さくため息を吐いて、その紙をデスクに持っていく。
宮川「…これは受理しとくから。で?どんなことを我々に頼んできたの?てか依頼主はどこに?」
鶴澤「あーえっと…依頼主はならべく自分のことを秘匿したいって…。で、依頼内容なんですけど、最近ある学校の男子生徒達が、陰湿なイジメにあっていて、そいつらをちゃんと特定してやって、お灸を据えて欲しいってのです!」
朝日「………どうする?宮川?」
宮川「…ったく。受けなきゃでしょ。そうと決まればすぐさま行動!学校の人たちに聞き込みいくよ!」
鶴澤「はい!」
宮川が上手側から退場。その後を着いていくように鶴澤も上手から退場。
朝日はチラリと先程の書類を見て、その後を追う。
ピース3。
3人が上手から登場。舞台には先程のようなデスクなどは撤去され、代わりに色々なチラシが壁に貼られている。
宮川「にしたって懐いなー学校。最後に来たのなんて何年ぶりだ?」
朝日「自分もそんなぐらいだわ。しょーじきあんまりいい思い出ないし、さっさと終わらせよ。鶴澤さん。被害者の男子生徒は?」
鶴澤「被害者の生徒はこの学校の2年男子がほとんど対象で、あっ!あそこの子とかもそうです!」
鶴澤が指差しをして、下手側の一人の男子を指し示す。
その男子は声に振り向き、軽くネクタイを触った後、宮川達の方に進んでいく。
藍川「おはよ。鶴澤さん。そちらの方達は?」
宮川「あなたが藍川君ですね。私は宮川探偵事務所の宮川一奈と申します。この学校の人から依頼を受けて、今イジメ問題の調査を行っているところなんです。何か気になるような出来事があれば、是非教えていただきたいのですが。」
宮川が素早く名刺を出して、朗らかな表情を作り質問をする。
藍川は軽く会釈をして名刺を受け取り、何回か見てからポケットに入れる。
藍川「ああ、そういえばイジメ…?というかなんというかなんですけど、最近物忘れをすることが多くて、自分だけならまだしも、2年の男子全員なんですよね。」
朝日「その荷物は見つかりましたか?」
藍川「はい。数日すれば戻ってきて、何が狙いとか、そもそも人の仕業なのかとか、色々分かんないんですよ。」
宮川「なるほど…ご協力、ありがとうございます。行くよ二人とも。」
鶴澤「あっ、はい!」
宮川と朝日が再び上手側に戻ろうとする。鶴澤もそれに寄せられて上手に行こうとするが、くるりと藍川の方を向いて立ち止まる。
鶴澤「あのさ、藍川君。その、近々夏祭りがあって…その…」
藍川「あ…その日、廻に誘われててさ、もし一緒でよければ…」
鶴澤「…!ううん、大丈夫。ごめんね、呼び止めて、私行かなきゃだから、それじゃ!」
鶴澤も上手側に行き、それと同時に藍川が下手からはける。
宮川が背伸びをしながら、鶴澤を待ち、追いついてきたところで話し始める。
宮川「さてと、じゃ、ここからは地道に探してく作業だね。朝日は証言を他の人から聞いて。犯人と直接結びつくものがあったら儲けもんだし。んで、私と鶴澤さんは特定の特徴を持つ人物達をマークする。」
鶴澤「特定の特徴って…?」
宮川「2年の男子全員を狙った事件…持ち物を返してることから窃盗が目的ではないだろうから、なんでこんなことしてんのか正直分かんないけど、こんなに広範囲に被害を出してるのは、本命を誰に絞ってるかを分からなくするためだろうね。
そんで、こんなに大変な作業は絶対に一人じゃできないし、ちょっとやそっとの信頼関係では成り立たない。つまり、私達がマークするのは、いつも同じ人を集めたグループを形成してて、よく放課後とかも接点がある人達。特にあまり目立たない日陰者とかかな。
おっけー?」
鶴澤「は、はい!分かりました!」
宮川「んじゃ、それぞれの持ち場につくように。解散!」
暗転。
ピース4
照明がつくと、段ボール作りの街路樹が二つほど奥に並び、宮川と鶴澤がそこに身を隠している。
鶴澤「あの…随分今更ですけど、その…探偵服?みたいなの目立ちません?到底尾行には向かないと思うんですけど…」
宮川「何か後ろめたいことがある人間には、あえて姿を見せてやるのが実は効果的なの。そういう奴らは私に異常なほど気を引くから、そこから鶴澤さんが二重尾行すると、これが面白いほど簡単に決まるんだよね。そいつらは私に気を取られて、本命のあなたのことに気づかないって訳。さ、早く離れて。私と仲間だってとこ見られたら何も意味ないから。」
鶴澤を街路樹から追い出し、そのまま下手にはける。
鶴澤が退場してから四秒ほど後、足音のSEが鳴り、ギリギリ見える位置くらいに宮川が隠れると同時に、羽咲、滝沢、上妻が下手から登場。
羽咲は着崩した制服に、ミニスカートを履いて、真ん中を堂々と歩く。
滝沢はしきりにメガネを触り、何故だか自慢げな表情で羽咲の右を歩く。
左には、左目に眼帯をかけ、ダメージファッションのように傷ついた制服をきた上妻がいる。
羽咲「でさー、そんときアタシが…ん?」
滝沢「どうかした?羽咲。はっ!もしかして気づいちゃった!?世界はすでにAIに支配されてるってことに!」
羽咲「ちげーよボケ。あれ見ろ。」
羽咲が滝沢の腕をちょんと突く。滝沢の視線が街路樹に向くと同時に宮川が隠れて、しばらく見た後、上手側に進み始める。その後を下手側からきた鶴澤が聞き耳を立て着いていく。
滝沢「何?今の?まさか、秘密結社フリーメイスン!?」
上妻「分かんないけど…探偵服だったね。今の。いよいよ私達の活動がバレたってことかな。」
羽咲「ただ、あんなバレバレな姿格好で助かったよ。とりあえず今日はもう帰ろう。アタシらがヘマこいて、めぐ姐に迷惑かけたら最悪だ。」
羽咲達が上手へはける。宮川は街路樹から姿を現し、鶴澤と舞台中央で合流する。
宮川「どう?なんか進展はありそう?」
鶴澤「直接的な表現っていうものは無かったですが、私達の活動がバレたとか、ヘマをこいたらめぐ姐に迷惑かけるとか言ってました。」
宮川「ふーん。めぐ姐…。そいつらのボスか何かかな。そっちは朝日に調べてもらおうか。そんじゃ、私達は尾行を続行。私的にあいつらグレーだから、このままいけば確信に迫れるかも。
とりあえず先行ってて。私は朝日と話すことあるから。」
宮川がスマホを取り出しながら、下手にはける。それを確認し終えた鶴澤は、胸に手を当て、大きく、そして震えた深呼吸を何度かして、前を向く。
鶴澤「やるんだ。絶対に私が。」
暗転。
ピース5。
照明は薄暗い青色を放ち、コオロギの鳴く音が響く。
羽咲達が上手から出てくる。楽しそうに話をしながら、舞台を歩いていく。それに合わせ鶴澤も登場して、コソコソと街路樹に隠れながら後を追う。
羽咲「…にしたって、大丈夫かな。めぐ姐。最近あんま元気ねぇし。」
上妻「そりゃあれでしょ。運命の赤い糸で繋がれた人…その人との果てなきシェイクスピア…今彼女はその佳境の場面にいるの…。」
羽咲「んなこと言われなくても分かってるっての。てか、そうじゃなきゃこんなことしてねーし。」
滝沢「でもどこまで上手くいくかなぁ、このマッチポンプ戦法。そもそも、めぐ姐が協力するかどうかも…」
上妻「そこは私らの力の見せ所だよ。いざとなれば、この眼帯を解き…封印されし魔王の力を…」
羽咲「あたしゃめぐ姐みたいに乗らねえからな。」
上妻「うう…大勢で馬鹿やる程楽しいものはないのに…」
羽咲「とにかく、こっからドンドンライバル蹴落としていかねぇとめぐ姐の勝率あがらんから、そろそろ女子にもアクションを…」
鶴澤「…そこの三人!そこで止まって!」
空気が凍りつく。
羽咲達は街路樹から出てきた鶴澤に目を奪われ、口を開かずに、体は微細にたじろぎを見せる。
鶴澤は次のセリフを言うために息を吸う。その行為だけでも、息を震わせることで、緊迫感のあるように演出ひ、その目はどこか血走っているように見える。
鶴澤「…今確信した。やっぱりあなた達が犯人でしょ?男子生徒の私物の窃盗。」
滝沢「ま…まずいよ…このままじゃ警察に捕まって、果ては不老不死の実験体に…」
羽咲「冗談言えんじゃねぇか。…お前ら、やること分かってんだろうな…」
上妻「ええ…正義に断罪は必須…。ここで神の審判を下してしまいましょう。」
ジリジリと鶴澤が追い詰められる。鶴澤は一歩、また一歩と上手側に追いやられる。
か細いような声で抵抗の言葉を口にしようとするも、それは叶わず、完全に詰められ、羽咲が鶴澤の肩に手をポンと置く。
羽咲「悪く思うなよ。そもそも出てこなきゃ良かったそっちが悪いんだから。」
羽咲が鶴澤の顔を覗き込む。俯いている鶴澤の表情は客席からは見えず、ただただ静寂が強調され、鶴澤がそれを破る。
鶴澤「いや…ダメだ。こんなんじゃ、ここまでやった意味がない!私だって、ちゃんとやれるってとこを見せてやる!」
パッと羽咲の手を振り払い、舞台中央に羽咲達がのけぞり、鶴澤が戦闘体制をとる。
羽咲「…チッ、しゃーねー、ボコボコにして…」
宮川「いやー事件性はあるけど、やっぱり犯罪は起こらないほうがいいよねー。」
朝日「鶴澤さんの勇気を讃えて、善意の無賃活動といきますかー。」
下手側から、宮川と朝日が登場する。指をポキポキと鳴らしながら、自信満々の笑みで羽咲達を見定める。
鶴澤「宮川さん!朝日さんも!」
羽咲「…クソがぁ…お前ら!ぜってぇ負けんじゃねぇぞ!」
上妻・滝沢「イエッサー!」
羽咲の掛け声と共に、上妻と滝沢が下手側に行き、宮川と朝日と対峙する。
羽咲は舞台中央からやや上手側で戦い始める。
宮川達は殴りかかってくる上妻達をいなしながらなるべく傷つけないよう立ち回り、腕を掴んで一気に畳み掛ける。
上妻「うぐ…」
滝沢「離せよー!」
宮川「うっさいなー!黙っとき!今は恋する女の子の、頑張る姿を見てあげなきゃ。」
宮川達が上妻達を無力化して、上手の端による。
それに合わせて羽咲達が中央にでて、舞台の奥行きを存分に使ったアクションをする。
羽咲「テメェ…いい加減にしやがれよ…」
鶴澤「私は…アンタみたいなやつに負けやしない!絶対に…私が勝つんだー!」
声を張り上げ、それに合わせるように回し蹴りをしては羽咲を吹き飛ばす。
羽咲が「ぐはっ…」と声をあげて、地面にノックアウトされると、そこに宮川達が上妻達をそこに投げ飛ばして囲み込む。
鶴澤「はぁ…はぁ…良かったぁ…勝てたぁ…」
宮川「いやー、流石に恋する乙女は強いねー。」
鶴澤「へっ!?いや、いきなりそんなどうして…」
朝日「流石にバレバレ。この案件を依頼したのは鶴澤さんでしょ?依頼者を聞いたとき目が泳ぎまくってたし。」
宮川「んでもってなんでわざわざ普通に依頼せず、探偵事務所の仲間になってから依頼したかっていうと、あなたの手で解決したかったんでしょ?好きな子が…多分会ってからずっとニコニコしてた藍川君かな?が大変な目にあってるこの事件を。」
鶴澤「えっと…その…すみません。利用するみたいな形で…」
宮川「いいのいいの!お金は払ってもらってるし、何より…面白い子がいるじゃん。ねえ、朝日。」
朝日「そうだなぁ…えーとなんだっけか?"世界が終末を迎える日は遠くない…実はもう選抜が行われてるんだよね…"」
滝沢「………」
宮川「オメーだよクソ陰謀論者ァ!よくも私達の週末を終末にしてくれたなぁおい!」
滝沢「ひっ…す、すみません。ほんとは依頼したかったんですけど…上手く言葉が…」
朝日「だからってアレはないだろうがァー!せめて文字に起こすとかしろやー!」
宮川と朝日が倒れ込んでいた朝日を無理やり立たせて胸ぐらを掴み込み罵声を浴びせる。
滝沢は半泣きの状態で嗚咽混じりに吐息を漏らし、息もつかぬ程の勢いの宮川達にとうとうダムが崩壊してしまう。
滝沢「ひっ…えぐ…そんなに言わなくても…うっ…うぇぇぇん!めぐ姐ー!助けてよー!」
宮川「おいおい…私達が悪いみたいじゃんかよ…」
朝日「そーいえば、めぐ姐って人のこと、色々調べたけど…」
廻「やえ〜どうしたの〜たきちゃ〜ん?」
滝沢の泣き声を包み込むかのような和やかな声色で、廻が上手から登場。
白をベースにした清楚なワンピースに銀色に輝くチェーンをつけた黒のバックを肩にかけ、花の形を模した髪飾りを手直ししながら、その姿が目立つように舞台を歩く。
宮川「そこの美人さん。この子達の友達?
悪いけど非があるのはこいつらだよ。先に仕掛けてきたのはこいつらだし、しかもこいつらは男子生徒の私物窃盗の犯人なの。
すぐ言われても飲み込めないと思うけど…」
廻「んん〜、分かるよ〜だってー、千佳がいるし〜」
朝日「知り合い?鶴澤さん。」
鶴澤「…はい。ちょっと話す程度ですけど。」
羽咲「めぐ姐…その…」
廻が舞台中央に来ると、羽咲が声を上げる。だがその声はすぐ気体となって空気に溶け込み、二度と形になることは無かった。
少しの沈黙と、羽咲達の吐息のようなうめき声を挟み、廻が羽咲の頭に手を置く。
廻「いあ〜分かってるよ〜羽咲ちゃん達、あたしのためにやったってこと〜ありがとうね〜」
羽咲「めぐ姐…」
廻「えお〜私は頼んでないし〜望んでもないよ〜。あたしの気持ちは〜あたしにしか分からないから〜。
だから〜どうすればいいんだろ〜」
羽咲「…ごめんなさい。全部、私達のエゴでやったことだから…みんなに謝らないと。」
廻「にぃ〜よく出来ました〜!着いてくから〜早めにいこ〜」
滝沢「めぐ姐まで巻き込むのは…」
廻「これはあたしがしたいこと〜、友達が苦労するのは〜私の幸せじゃないから〜。ごめんね〜千佳と〜愉快な探偵さん!」
廻が羽咲達を立たせて上手へはける。羽咲の肩を持ちながら、ひらひらと鶴澤達に手を振り退場する。
取り残された宮川達は、嵐のように去っていく廻達を見送り終えた後、頭をぽりぽりとかいて話し始める。
朝日「なんか色々と一瞬だったけど、終わったって認識でいいのかな?」
宮川「いんじゃねー?みんなに謝りに行くらしいし、私らはもういらないでしょ。さっ、さっさと帰るよ。」
宮川と朝日が並んで下手側にはけ、退場。
舞台中央に鶴澤だけが残り、間を挟んでから下手に退場する。
暗転。
ピース6。
青白く照明が照らされて、場面は再び事務所に戻り、テーブルに勉強道具を広げて、鶴澤が勉強をしているとこから始まる。
舞台からは小刻みにノートに擦れるシャー芯の音が鳴り、鶴澤の集中力が静かに演出される。
明点から少し後、ドアのSEが鳴り、下手から宮川と朝日が入ってくる。
宮川「いやー、まじありえねー。なんでこの私が射的で一発も当てれねーんだよー。」
朝日「下手だから以外ないだろ。」
宮川「はいでたマジレス。お前がモテない理由の全てな。」
朝日「その乱暴な口調もモテない理由だろ?鶴澤さんもそう思うよね?」
鶴澤「へっ!?あ…いや、まあ、好きな人がいるなら、それ相応の態度はあった方がいいと思いますけど…」
宮川「へ!ならそんな人いない私は無敵じゃー!オラオラかかってこーい!」
宮川がシャドーボクシングを決め込み舞台に動きをつける。
朝日はそれを遠巻きに見ながら鶴澤の方にいき、話しかける。
朝日「ったく…にしても鶴澤さん。祭り行かないの?
今結構賑わってるけど。
えっと、藍川さん?で合ってるっけ?とかと一緒に行けばいいじゃん。わざわざ探偵事務所に仲間入りして、あの契約書まで自演して解決したのに、勿体なくない?」
鶴澤「えっ!?気づいてたんですか?」
朝日「気づかない訳ないでしょ。怪しさしか無かったし、君の反応見てたら、大方あの子が好きなんだろなーって分かるよ。」
鶴澤「そ、そうですかね…私としては、お二方の観察眼がすごいんじゃないかと。」
宮川「えっ!?今私のこと褒めた!?ねえねえ!もっかい言って!」
鶴澤「えと…お二人とも、今回は手伝ってくださりありがとうございました!皆さんがいてこそ、あの事件を解決することができたので!」
宮川「うびゃー!この時のためにやってきたんだよねー…いやー感謝の味は美味やのー!」
朝日「…まあ、こいつじゃないけど、やっぱ感謝されるのは嬉しいし、行けばいいじゃん、あの子の元に。」
鶴澤「色々と、考えがよぎってしまうんです。助けた気になってるのは自分で、本当は別に必要ないんじゃないかとか、そう言うのを自分から言い出すのは気持ち悪いんじゃないかとか。
どうやったって、自分に自信が持てない。藍川君にどう映っているか、分からなくて…」
舞台に沈黙が落ちる。照明が鶴澤の顔をちらちらと照らして、光に満ちるはずの顔は暗がりと同化する。
それを見た宮川が朝日に顎で合図をする。朝日は頬をゆるまして合図をし、鶴澤に再び話しかける。
朝日「鶴澤は、ちょっと真面目すぎるんじゃない?もちろんそれは君の美点だけど、そんなんじゃ、欲しいものがいつの日か消えてしまう。
君は多分、人からよく思われたくて謙虚な性格になったんだと思う。最近は出る杭が叩かれるような時代だし、下手に目立とうとして失敗するなんてザラだから、リスクを取らずに好意的に思われるためにそうしたんだろう?
でもね、人は君がどれだけ慎ましく生きようが、君が行動しなければ欲しいものは取っていく。そういうものなの。」
鶴澤「分かってます。分かってるんですけど…」
宮川「別にいいよ。妥協したいなら。でも、私だったら、自分の努力を誰かに、自分に褒めてもらえる結果にしたい。
結局自分の人生は、自分のためにあるんだから。」
鶴澤「…私、私は…会いたい!藍川君に!それで、その…ああもう!好き!好きだから!藍川君には、私だけを見て欲しいの!」
キッパリとした声が会場を駆け抜ける。
宮川達は顔を朱色に染めながらもニヤニヤと口元に手を当て笑い、それを見た鶴澤の顔が一気に赤くなり、今にも蒸気が出そうなほどだった。
宮川「よっしゃー!そんじゃ行くぞーお祭りへー!」
朝日「全部お前の奢りな!俺めっちゃ頑張ったから!」
宮川「考えとくわー。」
朝日「待てやおい給料払えー!」
宮川と朝日が走って下手に退場。鶴澤はその背を見届けて、遅れて上手からはける。
ピース7。
藍川と廻、下手から登場。
舞台の両端に提灯のようなものが置かれて、照明は夜を感じさせるような少し暗めの明かりを灯す。
奥側にはダンボール造りの屋台があり、輪投げや焼きそば屋の名前が刻まれている。
廻「んふ〜いい匂い〜いいよね〜こんな雰囲気〜」
藍川「な。いつも祭りだったらいいのに。」
廻「ね〜。アタシもこんな日がずっと続いて欲しいよ〜」
藍川「あっ、そういえばさ、少し前の男子の荷物盗んでた事件。あれ、廻さんが解決したの?あの三人と一緒に謝りに行ってたからさ。」
廻「…?聞いてないの?誰が解決したか。」
藍川「うん。結構大事だったけど、友達みんな知らないらしくて。」
廻「…そっか、言ってないんだ…」
藍川「それで、やっぱり廻さんなの?」
廻「…事件を解決したのはね…」
鶴澤「藍川君!」
鶴澤が走って下手から登場。その後を追うように宮川達が入ってくる。
藍川「あっ!鶴澤さん!来てたんだ!」
鶴澤「うん。廻さんも一緒って聞いてたけど、やっぱり、一緒に回りたいなって。」
藍川「俺は全然いいよ!あっ、廻さんはどう?」
廻「…後ろの探偵さんは〜どうするの〜?」
宮川「私らはさっき攻略できなかった射的をやるついでに着いてきただけ。特に何も干渉する予定はないよ。」
廻「…そっか〜、じゃ、いいよ。一緒にいこ。千佳。」
鶴澤「うん!あの、私、たこ焼き食べたくてさ、どう?みんなで一緒に。」
藍川「…珍しいね。鶴澤さんが自分の意見言うの。
…うん。俺もなんか、たこ焼き食べたくなってきた。」
鶴澤「じゃ!一緒に並ぼ?」
藍川「おう!」
鶴澤、藍川上手から退場。
廻「なんか、明るくなったね。千佳。何かした〜探偵さん。」
宮川「別に?ただ彼女がちゃんと自信を持てるようになっただけ。彼女が自分を認めれるようになったのも、彼が彼女を認めているのも、それまでの彼女の努力の賜物だよ。」
廻「…やっぱ〜そう映る〜?藍川君が〜千佳のこと好きそうだって〜」
朝日「まあね。鶴澤さんが自分の意見あった時、すげー嬉しそうだったし。あの人からすれば、ずっと努力してきた人がようやく報われた気がして舞い上がってるんでしょ。この祭りの雰囲気も相まって。」
廻「だよね〜、あ〜あ〜、失恋か〜。でもいいもんね〜廻には羽咲達がいるし〜。みんなに連絡しよ〜と。」
廻がスマホを取り出し、画面を何度かタップする。
彼女の顔は笑顔で満ちていて、時々んふ〜だったり変な声をあげている。
祭りの提灯に照らされて、その顔は陽気に輝いている。
決して影を見せないように。
宮川「なんで笑ってられるの?失恋したのに。」
廻「まあ、しょうがないってやつだよね〜。手遅れのこと考えても仕方ないし〜。アタシはそんなこと考えても幸せになれないから〜」
朝日「幸せねぇ。妥協で成立するんなら、いい感性持ってんね。」
廻「…でた〜そうやって言うのアタシ嫌い〜。もう終わったんだし、なんでぐちぐち言うの〜?」
宮川「まだ終わってないからだよ。あなたの人生は。」
廻「アタシの人生〜?あはっ、じゃあ教えて〜?探偵さんはアタシじゃないのに〜どうして幸せが分かるの〜?」
宮川「あなたみたいな人って、大体、欲しいものが手に入らなくても、生きてけるからって諦め癖がついてる人。
いつも失敗して、その後にどう幸せになれるか考える。
逆に聞くけど、あなたは努力した後の自分の幸せについて、考えたことはある?」
廻「ん〜アタシは別に〜努力がアタシの幸せに繋がるって思ってないし〜。みんな勉強しろとかもっと頑張れば〜とか言うけど〜、アタシはいい大学に行くとか、いい職場に恵まれたいとか〜考えてないし〜。
普通、普通に生きれれば〜それでいいの〜。
だから凄いよね〜千佳は。あんなに勉強頑張れるの。」
朝日「別に鶴澤さんは、お前が言うようにいい大学とか考えてねぇよ。
もちろんそういう考えがあったりもするだろうけど、あの人はただ、好きな人に認められたい。その一心で頑張ってただけ。
おかしいなぁ、どっちも藍川さんって人が好きで認められたいはずなのに。まあ、お前がそこまで好きじゃないってだけの話か。」
廻「…!ふざけないで!アタシは…!」
朝日「…アタシは?」
沈黙。
廻からは先程の笑顔の仮面が崩れ落ち、提灯の光からは顔を背けるようにして、顔が暗く閉ざされる。
スマホをかたく握りしめて、何もいえず沈黙する。
宮川「…別にさ、好きでもないことを、本気でやれとか強制するつもりはないよ。んなことしたって、私にとっちゃどうでもいい。私の人生には何も影響しないしね。
ただ私は、自分のための人生を、自分のために生きようとしてる人が好きってだけ。
だから、自分のために生きてるように見せかけてるあなたが、どうにも気色悪く映る。」
廻「…だから!余計なお世話だって!アタシはこれからも、きっと笑って過ごせる!羽咲達がいれば、きっと楽しく今日を越せる!それじゃ…ダメって言うの?」
朝日「…人の幸せは、全部が可能性の糸で繋がってる。頑張ってそれを掴めることがあれば、どうにも出来ないことだってある。できるだけそれを多く掴んで、掴めなかったとき、今ある幸せを受けて、また前に進む。
…ただ、人はいつか、その幸せを失う。そして手の中は、虚に満たされてしまう。だから常に、欲しいものをみつけ、求め続けなきゃいけない。手に入らなくたってめげずにね。」
宮川「…あの子はまだ、告白してない。」
廻「…羽咲達にあったら、呼んでごめんって言っといて。
用事ができたから。」
廻、走って上手に退場。その後暗転。
ピース8。
舞台中央に、藍川と鶴澤。
照明は少し暗めに輝き、二人はサスで目立つように照らされる。
舞台の装いは先程とあまり変わらず、屋台が輪投げは射的に、焼きそばがたこ焼きに名前が変わっている程度である。
鶴澤「たこ焼き、美味しかったね。やっぱり祭りの雰囲気があると、色々といつもと違って感じる。」
藍川「分かる。俺も行くのめんどくさがって祭りは結構久々だけど、来てみれば楽しいもんだね。
ありがと、鶴澤さん。」
鶴澤「…なんで私にお礼言うの?」
藍川「今、俺凄く楽しいからさ、お礼言わなくちゃって。」
鶴澤「…そっか。なら私も。ありがとう、藍川君。」
藍川「…おう。」
二人「……………」
鶴澤「こっ、来ないね。廻や宮川さん達。」
藍川「だ、だな。ちょっと呼ん…」
二人が照れくさそうに顔を背けながら話し、藍川が言葉の尾を出さずに言葉を切る。
その疑問に、ついつい鶴澤がくるりと振り向き質問して、それに答えるため、藍川を振り向き向かい合う形になる。
鶴澤「…藍川君?」
藍川「…あのさ、鶴澤さん。あと少しだけ、2人きりで居たいんだけど、いい?」
鶴澤「…えっ、あっ、あの、その…うん。」
藍川「…俺、鶴澤さんが頑張ってるとこ、ずっと見ててさ、すげーかっこいいと思ってた。それと同時に、ちゃんと休めてるかなって思ってた。だから、こうして祭りに来てくれて、ほんと嬉しいんだ。」
鶴澤「祭りに誘ってくれたのも、私を労うため?」
藍川「うん。俺だけじゃ嫌かなって思って廻さんも誘ったんだけど、断られちゃったから。もし、俺のせいだったらって思って、正直気が気じゃなかった。
だから、今こうして二人で居られるのが、俺は…なんというかその、ほんと楽しくて…ようやく、憧れに届いた気がして嬉しいんだ。」
鶴澤「…私、今日勇気を出した。藍川君が必死に誘ってくれてたのも、ずっと怖がって、勝手に自滅して、好きな人に認められたくて頑張ってるのに、それを失敗の美談にしようとしてた。
私、藍川君のことが好き。
…聞かせて、藍川君は、私のこと、どう思ってる?」
藍川「…俺は、鶴澤さんのこと…」
バンッ!
弾けるようなSEと共に、サスが消えて、変わりに暗めの照明がピカリと力の限りの明るさを放つ。
その色は何度か弾ける音に合わせて、赤、青、緑と色を変えていく。
藍川「あー…"綺麗"…だよね、その、花火。」
鶴澤「…ふふっ、あはは!」
藍川「な、なんだよ。」
鶴澤「いや…ごめんごめん!私もその…なんていうの?気づいて欲しいのに言い切れない…みたいなことよくしてたから。こんなバレバレなんだなーって。」
藍川「くっ!あーもういい!はっきり言ってやりますよ!綺麗!綺麗って思いました!」
鶴澤「花火よりも?」
藍川「イエス!」
鶴澤「…そっか、じゃあ…」
鶴澤が何かを言いかける瞬間、下手から廻登場。
夜空に輝く光のブーケは、その瞬間だけ動きを止める。
そして、廻に光を見せる。届くはずのない、花火のような。
廻「藍川く…」
鶴澤「もっと…近くで見て?」
再びバンッという花火のSEがなり、舞台を青く照らす光は、二人を世界の主役にする。
一瞬と言うにはあまりに鮮明に、その情景は観客達に刻み込まれた。
恍惚とした顔は、熱を帯びながら口に伝わり、息が擦れ合い蕩け合う。
たった一つの行動。それはやろうと思えばできること。
いとも簡単に、愛を証明出来る演技。
二人の間には、それを阻む恥じらいも常識も、介在するスペースはなかった。
鶴澤「…思ったより、柔らかい…ね。」
藍川「…だな。…花火、終わっちゃったけどさ。」
鶴澤「うん。まだまだ、一緒に回ろうね!」
藍川、鶴澤、手を繋いで上手に退場。
廻がふらつくように舞台中央に行き、それに合わせて宮川達と羽咲達が下手から登場する。
羽咲「めぐ…姐。」
廻「…馬鹿だな。私って。なんで…こんなにも…泣けるくせに…」
廻が膝から崩れ落ち、羽咲達が囲うように寄り添い合う。
廻の嗚咽は夜に溶け、再び照明が少し暗がりを見せる。
花火は消えて、三日月が照らすものに、全ては含まれない。
朝日「…まだ、残ってんね。ほら、射的のクマさんぬいぐるみ。」
宮川「…誰にも譲るもんですか。欲しいもんがあるんなら、挑戦するのみってね。」
やっと書き終えました…
こんなに長くなるとは…
少し言い訳なんですが、最近ちいかわとかデルタルーンとかトイストーリーとか多方面から種類の違うインスピレーションを受けまくってストーリーがまとまんなかったんですよね
でもここまで遅くなったのはひとえに自分の怠慢です。
非力な私を許してくれ。
本当にすいませんでした。




