視察
蝉がけたたましく鳴く夏の昼。俺達演劇部は、隣町の陽登高校にお邪魔している。その理由は、今日ここで陽登高校の文化祭が行われて、その演劇部に知り合いが居るため、その勇姿を見届けようと思ったからだ。
高校は夏祭りに負けないくらいの賑わいを見せていて、祭りに行けなかった三年の先輩方はとても楽しそうだった。
「全く…私達は今が大事な時期だというのに…本来ならこんなとこで呑気にせず、勉強すべきなんだがな。」
「さゆっちぃ〜勉強の話はやめよー?そろそろ勉強のし過ぎで狂いそう〜。ウッディ!鬱になっちゃうヨォ!"ウッ"ディだけに!ハハハハハ!!」
「ふゆ、抗うつ剤。」
「ほい。自作だよ。」
そんな茶番が隣で繰り出されているのを横目に、学校をどんどんと見物していく。自分達は劇を作るのに忙しくてあまり劇文化祭を楽しむ時間が無かったので、夏祭りとは違った雰囲気に胸が躍る。
そんな時、こちらに数人の生徒が向かってくるのが見えた。
「あっ!舞!杏奈!久しぶりー!」
「久しぶりだね!夏希!紗香と燐音も!あっ、水月達もおひさー!」
「久しぶりです。舞先輩。」
舞先輩は、この高校の三年生、その後ろに潜んでいる杏奈先輩は舞先輩の双子の妹で、どうやらこちらの新一年生に警戒を示しているようである。
「後ろの人…新入生…?」
「はい!心配しなくても大丈夫ですよ。みんないい子なので!」
君津が笑顔でそう語るとおどけた表情の杏奈先輩の顔が少し和らぐ。
「えと…私、杏奈…。こっちは姉の舞…。テレビ見てたよ、凄くかっこよかった…。」
「あっはい!ありがとうございます!」
「その…劇に出た子は覚えてるけど、それ以外わかんなくて…二人の名前、教えて欲しいな…」
精一杯の元気な顔を見せて、ふゆ達に話しかける。顔はガチガチに固まっていて、小刻みに震えている。それをなるべく和らげようと雄馬が元気の良い返事で挨拶する。
「自分!木戸雄馬です!よろしくお願いします!」
「私は、岩倉ふゆ。ふゆって呼んで。後…」
そう言ってふゆが桜にべたーとくっつく。それを見た杏奈先輩が目を回して顔を赤面させる。
「恋人。私と桜。」
「違う。」
「ま、マーちゃん!爛れてる…!」
「いやー、癖強な新入生だね〜」
「でしょ!面白い子達なんだ!」
先輩達が笑い合って話してるうちに、彼女らの後輩と思わしき男女2人が歩いてくる。一人はすでに衣装を身に纏っていて、随分と自信のある顔をしている。
「先輩!準備万端なのだ!先輩達にも確認して欲しいのだ!」
「ん?そちらの方は?」
二人の目線がこちらに向かう。それに答えるために舞先輩が二人に近づき説明する。
「この人達は、花縁高校ってとこの演劇部!前テレビで劇やってた凄い人達だよ!」
「そうなのだ!?凄いのだ!」
「へ〜!あっ、自分、藤原竜也って言います。こっちは同じ一年の菅原亜美。ずんだもんをイメージしてのキャラ作りをしてるらしい。」
「えー、絶対にハム太郎リスペクトだよ。そうだよね?亜美?」
「漫画版カービィなのだ…」
二人が丁寧に挨拶をして、こちらもそれに返す。
自己紹介をお互いに済ませると、星羅が質問する。
「先輩達は、どこでこの人らと知り合ったんですか?」
「演劇部の大会で戦って、私達はそんときこの学校に負けちゃったけど、その後ここが全国優勝したんだよ。」
「皆さんと〜っても演技がお上手で、舞台の上ではと〜ってもかっこいいのです!」
花音が身振り手振りを使い、その凄さを必死に表現する。実際、彼女らの凄さはそれでは伝えきれないほど凄い。自分も演技には自信がある方だが、確実に上回っているかと言われると、その答えを濁すくらいには拮抗する。
それに…
「それに、前の大会では誰かさんが体調を崩したせいでゴタゴタしたから。負けたのは悔しいけど、今度はそうも行かせない。」
月乃の視線が強く突き刺さる。その視線に萎縮するような表情で答えると、はぁ、といつも通りの冷たい態度で目を逸らす。事実、俺が体調を崩さなければ、色々準備もできていたはずだから、過失は完璧に俺にある。そしてこの叱責は、次勝つためのものであるとも理解している。そんな月乃の思いが、他の人達にも伝わったのか、全員の目が炎がゆらめく。
「そーゆーわけで、弱点おーしーえて!」
燐音先輩がど直球で話を展開する。それに舞先輩が不敵な笑みを浮かべて答える。
「ふっふっふっ、残念ながら私達の演技力は最高峰。穴なんて一つもないよ!」
「にへへ…一年達も凄く上手…。2年生の子なんかは私達の中でもずば抜けて上手…。死角無し…」
「でも、部員があり得ないほど少ないのだ!」
「ちょっ、それは…」
「こんなに結果を出してるのに新入部員2人で、三年2人の2年一人で正直やばいの…」
「うるっさい!少数精鋭なの!」
目の前で揉め事を起こされ、しかもその要因が部員の数という、数がそこそこいるこちら側が触れにくい話題に全員が沈黙を余儀なくされる。気まずそうにその乱闘を眺めていると、君津がそれを打ち消すように話題を変える。
「そっ、そうそう!そろそろ劇が始まるころなんじゃないかなーって。準備とかも忙しいだろうし、早めに行っといたら?」
「…亜美、後で説教。」
「酷いのだ…まだ苗字が平だから胸がたいらのネタ怒ってるのだ…?」
「もう喋んなよ…」
そう言いながら、竜也が亜美を引っ張り、体育館に連行していく。それの後を追うように全員が体育館に移動する。その時だった。舞先輩がそういえばと思い出した口調で話しかけてくる。
「なんか、劇が終わったら美咲から話があるんだってさ。もしかしてデートの約束?」
「…さぁ?最近会ってないので…」
「マーちゃん。出来るかも…!新カップル!」
「ふふっ、だねー。」
そう言って他の人達は全員体育館に行ってしまう。
一人石造りの道に佇み、その言葉を咀嚼する。
そういえば、彼女とは、喧嘩別れしたままだった。今更会って話したいことって…?
そんなことを考えていると"彼"が話しかけてくる。
"大丈夫か?水月。"
「…当たり前だろ。何しろ、お前が居るんだから。」
"…そうだな。では、私達も行くとしよう。"
「おう!」
俺は彼に気持ちの良い返事をして、体育館に足を進める。
"彼"の名前は"そぞろ"。生まれながらのパートナーにして、もう一人の俺だ。
次回、照明OK!ナイトメアペイン。
"第3演目、合同発表、松尾水月ナイトメアペイン"




