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遊園地デート

時刻は午前7時30分。8時開園の遊園地には人の波ができていて、その人口密度のせいか、この気温からは冬ばかりでなく、春すらも過ぎてしまったのかと感じさせる。ギラギラとした朝日の下、集合した二人はあるカップル(?)を観察する。

「なあ伊藤、なんで俺らあいつらのデート尾行することになってるんだっけ?」

「それはふゆのお願いだからよ。デートを良いものにしたい。それには私たちの協力が必要って言ってきたのなら、その手を振り払うことはできないわ!」

「もしかして乗せられやすい?」

「面倒見がいいって言ってくれないかしら?私は4人姉弟の長女なのよ?それに流されやすいあなたに言われたくないわね。てか何よその格好。」

伊藤が指を指した先、そこにはインバネスコートを羽織り、ディアストーカーハットを被った雄馬が立っていた。

「そんな格好をしてたら余計に怪しいじゃない。いつも通りの服装がいいってわからないの?」

「ふっ、甘いね。俺にとって学生は世を欺く仮の姿。これこそが真の勇者としての姿なのだ。」

「えっと...勇者なのに格好が探偵ってとこに突っ込めばいいのか、このときこそ世を欺いた姿でいた方がいいってことを突っ込めばいいのか...」

「勇者と探偵は両立できるし、この姿の方が闇に紛れやすい。」

「思いっきり快晴だけどね...」

ふと、袖を捲り腕時計を確認する。時計は針の音と共に7時50分を刻み込んでいる。そうして時計から目を離し、ターゲットの二人ともう一人のメンバーの姿を探す。

「いないね、星羅。呼んだし来るとも言ってたんだけど。」

「まさか電車乗り違えたとかいうんじゃないでしょうね。」

「流石にそれだったら連絡くらいくるだろ。もしそうだったとしたらわざわざ俺達と一緒に来なかった癖にミスりましたってことになるけど。」

もう一度辺りを見渡すがそれらしい人影は見当たらない。このままでは埒があかないのでスマホを取り出し、星羅と書かれているところをタップして電話をかける。それとほぼ同時にどこかの人のスマホが鳴り、それに気づいた二人は人混みの中なんとかその人にコンタクトを取ろうとする。その人物もまたこちらを目指し声をかけてくる。

「悪い、遅れた。変装に先輩が張り切り過ぎて。」

はっきりとはまだ姿が見えないがこの声ならば間違いはない、とりあえず相槌を返すべく口を開けると同時にその人物を視認する。

「おーだいじょぶだいじょ...」

「ん?えっと...あれ?」

「その、変装コーデが燐音先輩監修で、張り切り過ぎたってのも、その。」

女の子。どこからどう見ても女子である。しかも元々アイドルをやっているだけあってビジュアルがとても高い。そしてあの人にこんな服のセンスと女装趣味があったことに寒気を覚える。

「ちょっと待ちなさいよ!なんで私と一緒に行く人が探偵かぶれと女装趣味者なのよ!」

「それは...まぁごもっともで...」

「いや女装は俺の趣味じゃねーての!」

そうこう言い争っていると前の人が進み始める。とうとう8時になり遊園地が開園したのである。岩倉はさりげなくアイコンタクトを送り、桜と一緒に入園する。

「...正直入園する前から疲れちゃったけど、ここからが本番よ!愛お姉ちゃんの恋愛サポート技術、精々足を引っ張らないことね!二人とも!」

そう言いながらサングラスを着用し、新聞紙を広げる。雄馬の手には強引に牛乳とあんぱんが渡され、雰囲気は恋愛サポートというより張り込み調査である。「俺がいうのもなんだけど...ふざけてるだろ...お前。」

二人が歩いて行くのを後ろからゆっくりと着いて行く。ギリギリ声が聞こえるところまで近づき3人は様子を伺う。

「ねえねえ、桜。読んでみて、恋人なら、したいこと、私の。」

「関係値は幼馴染以上はないと思うけど...とりあえずベンチに座ろーぜ。立ちっぱなしで体力きついだろ。」

「ふふ、よくわかってる、私のこと。好き。そういうとこ。」

"好き"という言葉。それは桜の平常心をかき乱すものであったが、結果としてはその少し後ろ、特に女装趣味のアイドルに深く刺さってしまった。

「えっ!?ちょっ、あいつ、い、今なんて...?」

「好き、だったよねぇ...」

「かなりの先制パンチね。ここまでできるなら私達いらないんじゃ...って山口、目が血走ってるわよ!?大丈夫!?」

「ッ!!ああ...大丈夫。アイドルは恋愛禁止だから、そういう気分にならないよう恋愛モノのドラマとか漫画は見ないようにしてたんだけど...結構つええな、刺激。」

「正直俺たちいらなそうな雰囲気だし、やばそうならさっさと離脱してアトラクション楽しんでも...」

その瞬間、星羅の目がカッと開き、拳を握りしめ力強いオーラを醸し出す。

「いや、これはダチの大事なお願いだ。無下にするのは俺のプライドが許さない。何よりこのまま引き下がりゃ女装し損だ。」

「それが本音だろ。」

ベンチのとこで休憩を挟んだ後立ち上がって二人は歩き出す。手は決して触れない。だがどちらかが腕を少し動かせば確実に当たる。そんな絶妙な距離感は恋愛弱者にとっては当てつけであり、劇薬でもあった。

「くそっ!じれってぇなぁ!そのまま手とか繋げ!」

「発言訂正。こいつイチャイチャ見たいだけだ。」

二人の足取りはあまり確固たる意思はなく、どのアトラクションに乗るかを決めかねてる感じである。そんなとき、一つの大きな館が目に入る。館の中には看板があってそこには"地獄人形の館"と書かれていて、異様な雰囲気を放っていた。

「これは、お化け屋敷みたいなもんか。桜は結構こういうの得意よりだけど、岩倉はどうかわかる?」

「別に苦手って印象はしないわね。でもとってもベタじゃない?男女二人でお化け屋敷なんて。なんだかこっちまで胸がドキドキしてきたわ...」

二人がお化け屋敷に入るところを少し遠くで見つめる。自分達も後を追うかここで待つかを考えているそのとき。岩倉の目線がこちらに向く。青い瞳に3人を捉えると微かに頬をほころばせながら桜に指をツンツンとつつく。そしてなぜか桜をこちらにむかせ完全に姿を確認させる。

「はぁ!?あいつなにして...」

刹那。桜が戸惑う暇はなく、その行動はあまりにも早く、たがしかし目で追うことができてしまい、それにより岩倉が桜に指を絡ませた事実が脳に焼き付いてしまった。

「!?!?!?!?!?」

「ッ!!〜〜ーーーーーーーピー」

「ああッ!星羅のバイタルサインが!」

「いくよ、桜。」

「はっ!?いやちょ...」

「離さないでね?私のこと」

顔を赤らめた桜と共に岩倉はお化け屋敷に入っていき、雄馬達3人は取り残されてしまう。

「ーーーーーーー」

星羅は女装のまま息を止めてしまい動かない。

そう、これは見せつけるため、最初から仕組まれた...

「くっ!!くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

雄馬達。完、全、敗、北。



時間は経ち夕暮れどき、雄馬達は桜達の尾行をやめ、普通にアトラクションを楽しんでいた。

「時間的にそろそろお土産屋さんに行っていいかしら?あの子達に、せっかくならお土産をあげたいの。」

「お土産の前にジェットコースターだろ。こんだけ待たされていかないなんて手はねえからな。」

「あなたすっかり元気になったわね...それはそうと私はあんなものになりたくないわ!なんで遊園地まで来て三途の川を渡らないといけないのよ!」

「さしずめ"たの死んできてねー"ってとこか?」

「っ!多野さんが何したっていうの!?」

「あっ、そこ!?」

やっぱり二人との会話は楽しい。ここには一人で来ていないのだということを自覚できる。そう、一人で...

「パパー待ってー」

.....

「ん?どした、雄馬」

「...いや、ちょっとトイレ。ジェットコースターには先に向かっといて、後から合流する。」

「ちょっと!私は乗る気ないわよ!」

なぜだろう。伊藤の声がとても遠くから聞こえるような気がする。そればかりか、家族連れや恋人の客の声すらもはっきり聞こえない。耳に砂嵐が吹いて聞き入れないようにしている感覚がする。尿意のせいだろか。風を通して悪寒が全身を支配する。はっきり聞こえたのはライトアップとパレードの旨を伝えたアナウンスだけだった。

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