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配役発表

「えと...その...なにしてるんですか?」

桜は蔑んだ目で燐音先輩を見ながら言葉を吐く。誰だってそうなってしまうだろう。下級生に餌付けされないがら引っ張られる先輩の姿を見てしまっては。

「くそっ!見られた!ああ...消えていく...僕の...限定スイーツ...」

彼の名前は豊臣燐音。全ての座学がトップで岩倉と共に日夜怪しい研究品を作っては学校を混乱に陥れている。嫌な人では決してないのだが、あまりにはっちゃけすぎてるときは正直知り合いだと思われたくない。桜に見られてはもう口封じできないと観念したのか、小さくため息をつきながら堂々とした顔つきで部室に入っていく。

「待たせたね!真打登場だよ!」

「待たせすぎだ。業務はきちんとやってきたんだろうな?」

「ふっ、もちろん。何しろ僕は演劇部と生徒会の核となる人物だからね。」

「はい非核三原則。」

「持たず、作らず、持ち込ませずってね〜!」

「生まれながらにして罪な男か...あながち間違いじゃないかもね。何せ僕は超エリート...」

(無言の腹パン)「真面目にやれ。」

3年生達の漫才を横目に部室の扉に倒れ込む三人の内一人の男子生徒。木戸雄馬に声をかける。

「お疲れ様。なんというか、色々と。」

彼はくたびれながらこちらを見て、腰をあげる。彼と桜、星羅は仲良し3人組で、桜と雄馬は燐音先輩と共に星羅の大ファンである。そして彼は...

「全くだぜ、これはきっと秘密結社ダークリベリオンの仕業に違いない。」

結構な厨二病である。この妖怪の仕業的なフレーズで言っているのは桜と雄馬が考えた秘密結社の名前であり、この名前を聞くたびに恥ずかしくなってくる。

「全く...何言ってんだか...どうやら知らないようだな。新たな新勢力ダークレクイエムの存在を!」

「オレオとノアールくらい違いなさそう。」

結構違いあるんだけどな...と胸にモヤモヤを抱えてる間に隣の二人の女子2年生の足利花音と最澄君津が立ち上がり、そこに他の2年も駆け寄る。

「二人ともお疲れ様。水飲む?まだ封開けてないやつちょうど二つあるから。」

「ありがとう水月君。ごめんね、こんなに時間かかっちゃった。」最澄先輩は長い紙を靡かせながら頭を下げる。身長が高く、しっかり者なため、演劇部でお姉さんポジションであり、水月先輩、最澄先輩、空海先輩は中学からの仲であり、連合演劇発表会で優勝したことがある尊敬すべき先輩である。

「花音、業務大丈夫?いつでも私に頼っていいから。」

「月乃さん、いつもお気遣い感謝しておりますわ!ですがご安心くださいませ!私にも立派な役割がございますの!」

足利先輩はいつものような無邪気さを空海先輩にぶつける。いつもはポーカーフェイスなことが多い空海先輩だが、足利先輩の純粋さには頬が緩みきっている。足利先輩はどこかの大企業のお嬢様で、誰に対しても人当たりがよくて、その分世間知らずで守ってあげなくては!というこちらの母性を刺激するような人である。

ふと、時計の秒針の音が耳に入ってくる。カチッカチッと音を立てて時計が5時を刻んでいることに気づくと徳川先輩が「あちゃー」といいながら燐音先輩の肩を叩き催促する。

「ほらっ、りっち!もう時間が押してやばいんだから早く準備して!」

「まぁ待ってよ、まだ僕の優雅なコーヒーブレイクタイムが...」

「飲んでいいぞ。その間に何発も打ち込んでやる。」

「はいっ!ということでね!今から演劇部の、演劇部による、演劇部のためのキャスト発表といたしまーす!」

「いえーい!待ってましたー!!...ほんとに待ってました...」

先輩の空元気を含め部員達は色々な反応を見せる。

緊張して顔を強張らせる者、ニコニコと楽しみにして見せる顔、真剣な眼差しをしてる者。ここにいる全ての人が部室に期待と不安を充満させていた。

「では、発表前にひとつだけ。今回の劇は前にも何度か読んだ"バラの贈り方"ってやつをやるんだけど、この劇の登場人物は9人なので3人余ります。まあ裏方がいないと始まんないから全員キャストは困るんだけど、とにかく3人は完全に裏方。出番がないときには、キャストの人にも裏方を手伝ってもらうという形です。で、せっかくなら舞台に立って欲しいってのと、裏方仕事をしっかり教えられるようにするため3年生は今回劇には出ないことになってます。さあ、前置き失礼。まずは一年から発表していきます!」

燐音先輩がクリアファイルを取り出して、その一番上を見つめる。その後少しこちらに微笑みかけ、いよいよ口を開ける。

「まずは、この劇の主役"土方与一"役、木戸雄馬!

そしてその親友の"斉藤実弥"役、大久保桜!

そしてその子の恋人兼与一の友達の"相原歩美"役、岩倉ふゆ!

次に主人公のお父さん"土方佐一"役、山口星羅!

最後に、かなーりスピリチュアル、与一に取り憑く精霊の"イナ"役、伊藤愛!

さあ、次は2年の発表です!まずはイナの相方の精霊"テナ"役、松尾水月!

続いて、土方一家のお母さん"土方愛菜"役、最澄君津!

そして、可愛げのある"幼稚園生の頃の与一"役、足利花音!

ラストにその幼稚園の"園長先生"役、空海月乃!以上9名が今回のキャストとなりまーす!」

燐音先輩が喋り終える頃には先ほどまでの緊張感は無くなっている。だがその代わりに、自分の役に対する気持ちや劇に対する期待が、部室の中でさっきまでとはまた別の興奮を孕んでいた。

「お、俺が主役...?劇初心者の俺が...」

「見込まれたんじゃない?悪に立ち向かう勇者様なんでしょ?」

「ヤッベェ...胃がキリキリしてきた...」

いつもならよく分からないことをいってふざけるところだが、どうやら今日は違うらしい。いつもと違う彼の姿は面白く、燐音先輩のニヤニヤからもきっと予想していた反応なのだろう。

「でも、俺も結構いい役じゃない?主人公の親友ポジなんて、唯一無二っしょ。」

「今回は初めてってことで結構優遇されてるみたいね。けど、次は実力勝負!今度は私が主役を取ってみせるわ!」

「言うじゃねえか。伊藤には悪いけど次の主役は俺だ!」

星羅と伊藤の間に火花が散り、お互いの劇に対する思いが伝わってくる。無論、桜も負けるつもりはない。勝ち負けとかそういう話じゃないと言われればそれまでだが、気持ちで負けていてはしょうがないというのもまた事実である。

「ふふっ、燃えてるね、桜」

「まあね、岩倉はどんなかんじ?」

「燃えてる、私も。だから、提案、私から。」

澄んだ青色の瞳が桜を突き刺す。その目はいつも何を考えているかわからない友達の目ではなく、やる気と活力に満ち溢れた女子の目だった。こいつ...本気だ...!

「聞こうか、提案。」

その迫力に少し押されながらも、体を彼女の方に向ける。彼女からでる情報を全て得れる体勢に変え、耳を傾ける。

「作りたい、いい劇を、私は。だから、深める、キャラ理解。そのために...」

そのために...?

「しよ、私とデート」

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