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部活の時間

キーンコーンカーンコーン

時刻は午後4時10分。長い先生の話を終えた生徒達は廊下や教室で賑わいをみせる。ある者は恋人や友達と帰路を歩き、ある者は自身の部活場に向かう。

大久保桜にとってもそれは同じであり、同じ演劇部の部員である山口星羅に声をかける。

「よっ。今日はアイドルのレッスンないだろ?一緒に部活いこーぜ。」

「おっけー。やっぱ俺にとっては部活が一番の息抜きだわ。一応アイドルも楽しく活動できてんだけど。」

バックを持ちながら軽い愚痴を共有しながら、階段を降りる。廊下は二手に分かれていて、そこを左に曲がり、すぐそばの特活ルーム(特別活動ルームの略)に手を伸ばす。今日もまた愉快な日常が始まる!

「こんにち...」

「水月!これで何度目だと思っている!!」

部活の扉開けて早々に帰りたくなる程の怒号が部室と廊下に響きわたる。ホワイトボードの前には3年の先輩で副部長の織田紗香が立っており、その前に2年の先輩松尾水月と同級生の岩倉ふゆが座っている。

「あっ、おはよ、桜、星羅、見て。怒られてる。私。」

俯いている水月先輩とは対照的におっとりとした口調で挨拶をされる。その飄々とした態度に織田先輩は顔を歪めながら話し始める。

「お前も反省してるんだろうな?それとも反省してないから再犯しましたと心の中で開き直っているのか?」

「ううん、してる、反省。でも、楽しい、喋るの、紗香と。」

「はぁ、やはりお前相手に説教しても全く手応えがない。やはり矯正するとすればこっちか。」

織田先輩の鋭い目に睨まれ水月先輩は小さく肩を震わせる。

「ち...違うですよ先輩。決して悪意があった訳では...俺だって今回こそはと思って...」

「ライトセーバーもどきで壁を真っ二つに切り伏せたと、確か前にもそこのマッドサイエンティストに頼まれて七色にひかる怪しい液体を飲んで、副作用でぶっ倒れたよな。」

水月先輩が身を縮こませると同時に岩倉は胸を張ってドヤ顔を作る。

「いいか水月。後輩に好かれたいと思うのは当然だし、お前が頼まれたら断れない性格なのは知っている。だが、そんなんだといつか...というか現在進行形で酷い目にあっているんだ。とんでもないお願いは通らない、そう教えてやるのも先輩の勤めだ。特にこういう非常識なモンスターにはな。」

「ふふっ、ねえねえ、愛、褒められた、私。」

「今のを褒められたって解釈するって...天才って頭がおかしいのがセットなの?」

この場を少し遠くから見ていた同級生の伊藤愛は軽蔑混じりの言い方で批判する。

「だいたいあなたはね、そんな虚弱体質一歩手前みたいな体だからこっちが遠慮してるだけで、変わんないんなら私が力ずくで止めるわよ。」

「ダメ、そんなことしちゃ、だって、"骨が折れる"から、ふふん。」

「あなたっていちいち癪にさわることいいわよね...」

「説教をされているのに楽しくおしゃべりとはな。いいだろう、お前のその度胸を受け入れて私も本気でお前を...」

「あの...もう部活が始まる時間だいぶすぎてるんですけど、説教も程々にして、早く始めませんか?」

少し苛立ち混じりの声で2人の間に女子生徒が入り込む。彼女は空海月乃。2年の先輩で演劇においてとても頼りになる先輩である。

「月乃。助けてくれるの?、私を。」

「私が加害者を助けるとでも?いつまでもふざけた態度をとってるからこんなことになるってわからない?」

「ふふっ、辛辣。」

「それに先輩も、いつまでも怒ってる演技しないでください。時間の無駄です。」

「怒ってる演技とはなんだ!私はちゃんと...」

「はいはい、先輩は優しいですね。」

張り詰めていた空気が和らぎ織田先輩は少し頬を赤らめる。時刻は午後4時50分。いつも部活が始まる時間は25分くらいなことを考えれば、先輩がこんな行動に出るのは当たり前だ。カバンが制服と擦れる音が目立つくらいの静寂が部室を包み、方向転換するにはもってこいの空気感を確認した織田先輩は口を開く。

「まぁ、今回は月乃の言う通り私にも非がある。だから今日の説教はこのくらいにしておいてやる。長くなってすまない部長。早速始めよう。」

ホワイトボードの斜め後ろ、校庭がよく見える窓の縁に腰をかけた女子に声をかける。その声に応答するためスマートフォンから目を離し、茶色い瞳をこちらに向ける。

「あーごめん!さゆっち!生徒会業務で4人、特に燐音が来ないと始まんないんだ!説教してる間に来ると思ったんだけど...」

髪をいじり、苦笑しながら謝罪し、頭を下げる。彼女の名前は徳川夏希。演劇部部長であり、生徒会会長である。ちゃらんぽらんなとこがあったり、後輩に甘すぎて織田先輩に怒られていることも多いが、やる時はしっかりしていて、後輩に甘いのは織田先輩も同じなので、後輩のみならず先生からも好かれている。

「ほら、今日って業務がメッッチャ溜まってたじゃん?みんなが先輩の手を煩わせる訳にはッッ!って張り切ってたからサボってることはないと思うんだけど、やっぱウチも戻った方がいいかなー。」

部室を見渡すと桜を入れて部員は8人。演劇部員は合計12人だから、あと4人足りない。生徒会は図らずも全員演劇部員で1年の男子1人、2年の女子が二人、そして部長、副部長がそれぞれ会長、副会長であり、それにプラスして3年の男子が一人の6人である。特に3年の燐音先輩は演出監督兼配役発表の役割があり、今日が1年生初めての劇、その配役発表なのである。

「えと...俺が呼んできますよ。今日配役発表ですよね?それなら早く始めないと。」

「じゃ、俺もついてくわ、2人の方が急かしてる感じがでやすいからな。」

星羅はいたずらっぽく笑っているが少し耳が赤い。桜と同じで内心はドキドキなのだろう。俺としても知りたいけど知りたくない、そんなにえきらない感情に見切りをつけるいい機会だと思っていた。

「おっ!優しい後輩に恵まれてるね〜ウチら。生徒会室は3階の階段から見て左から3つ目の教室だから!もうめちゃくちゃ焦らせちゃって!残った業務は私が全部やっちゃうから!」

先輩から背中を押され勢いよくドアを開ける。ドアを開けた途端、ある言葉が浮かんできた。「人の振り見て我が身振り直せ」きっとこの言葉が出てきたのは不安にだったからだろう。部室の前で駄々をこねてる3年生が、あまりにも見るに堪えなかったから。

「いーやーだー!うかうかしてると限定スイーツが売り切れるの!僕は部活をサボってでもいくぞ!待ってろマイハニーー!!」

「先輩!お願いですからから着いてきてくださいよ!織田先輩には一緒に怒られてあげますから!」

「は...花音ちゃん!お菓子もうちょっと持ってない?もう少しで動かしきれるの!」

「これが最後のお菓子ですわ!燐音お兄様!どうか動いてくださいませー!」

...どうやら部活が始まるのはもうすぐらしい

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