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最後の準備

金曜日の放課後。花縁高校は土曜日が休みのタイプの学校なので、部活がない人の顔はどこか晴れやか。それに加え、早めの文化祭を終えれば後は夏休みなのだから、この猛暑の中、頑張ろうという気概は少しは出るかもしれない。そんなことを体育館の窓の外から人を眺めて思い馳せる。すると突如

「ふゆ!!ちょっとこっちに来い!!」

と怒号が体育館に響き渡る。スポットライトの仕事がひと段落したとはいえ、上の方で窓の外を見ているのが気に食わなかったのだろうか。なんて考えもよぎったが、紗香はそんなに沸点は低くない。実は理由は分かってる。足早に舞台裏の階段を降り、ずらっと並んだ観客席の前に立つ紗香の前に行く。その付近には、共犯者の花音と雄馬がいた。

「どうしたの?沙優。」

「ニヤニヤしおって…!お前、自分が何をしたか言ってみろ!」

ザワザワと慌ただしく動いていた部員達の動きが止まる。ここにいるのは演劇部のみならず、吹奏楽部の人たちにも来てもらっている。吹奏楽部の部長はこちらを満面の笑みで見ていて、副部長は楽譜を横目に呆れた眼差しを向けたいた。

「まず、誘った。一緒にやろって、練習。吹部に。」

「で?」

「やることになった。流れで。発表。吹部と。演劇部の劇。一緒に。」

「…そこまでは…そこまではいい。吹奏楽部の者も了承しているし、演奏に合わせて演技をするのは大変だが、まあまだ調整がきく。問題は…」

ぷるぷると震えた紗香は、一度声を小さくした後、まるで火山の爆発かの如く一気に大声で声を張り上げる。

「なんでウチの文化祭が!!テレビに出ることになってるんだ!!」

体育館全体に声が響き渡り、その声がやまびこのように跳ね返ってきてたりなかったり。予想通りの反応に隠す必要もない笑みを浮かべると、紗香は不機嫌そうな顔をして何故こんなことになったのかを説明しろと詰めてくる。

「よかろう。話さねばなるまい。我が計画。」

バッと横からスライドするように入りドヤ顔の雄馬が軽く一言。

「見せました熱意!」

続けて私も。

「作った。プレゼン資料。」

最後に花音が、

「出しましたわ!軍資金!」

パチパチパチと、誰かが拍手をする。それに乗じ、一人、また一人と私たちは歓声を受ける。そのことに戸惑い顔で紗香は質問する。

「ま、待て。お前達、いきなひテレビとか言われてなんにも思わないのか!?」

「あの〜先輩…」

申し訳なさそうに君津が話しかける。でもその顔にはやっぱりどこか楽しげな表情があり、それはさらに紗香の疑問を加速させる。

「えっと…人によってはいいニュースと、人によっては悪いニュースがあるんですけど…」

「…それ、実質一つ…」

「いいニュース!いいニュースからいきますよ!?」

捲し立てるように言葉を遮り、君津が話を展開する。

「今回のテレビ出演は、アイドル山口星羅のプロモーションの意味も兼ねてるらしいんです。なので、私たちに出来ることは、見てる人に演劇の素晴らしさを伝え、星羅君のアイドル活動を助けることだと思うんです。もしそれができたらとっても素敵なんじゃないかなって。」

「…まあ、わからん話ではない。」

「それと…ラストにはカーテンコールと同時に星羅君のライブがあるので、私たちもちょっと踊るらしいです。」

「インド映画かっ!ただまあ、そういう意味合いがあるなら私が口出しすることは無い。こいつのことだから、はちゃめちゃして周りを引っ掻き回したいだけかと勘繰ってしまった。」

「ふふ、辛辣。」

先程までの怒りはすっかり消え去り、赤くなっていた顔もいつもに戻り、そこには落ち着いた生徒会副会長兼、演劇部副部長の威厳ある姿があった。まあ、単に後輩に甘いのもあるのだろう。そういうことには協力的な人なのは分かりきっている。

…いつになったら気づくかな?そんな期待の眼差しを感じ取ったのか、紗香がこちらを見て怪訝そうな顔をした後、君津の方に喋りかける。

「そういえば、なぜそこまで知っているのだ?なぜだかやけに皆んな落ち着いているし…」

「…えっと、じゃあ悪いニュースの方なんですけど…」

君津がこちらをチラリと見る。私は笑顔を作り、伺うような視線に応答する。君津は恐る恐る、一息でその事実を言い切る。

「…先輩以外…みんな知ってました…」

「…は?」

「ふふっ。ある?罰。お願い、厳しめので。」

「…外でバケツ持ってろ!!」




灼熱の太陽は、容赦なく私の体から水分を奪っていく。体力のない私にはバケツを持ちながらこれに耐えるのは、滝に打たれる修行増と同じくらいの、まさに"試練"といった感じだった。ただの罰をかっこいい言葉で彩り、この愉快な状況を楽しんでいると、今日窓から必死に姿を探していた人がふらりと現れる。その姿にあっ…と小さく吐息のような声を出して、すぐさまその人に話しかける。

「はじめまして。ありがとう、来てくれて。」

「いえいえ、本番になって来れないなんてことにならないよう、一回慣らしに行こうと思ってたので。それで私はどうしてここに?」

ほんのり紫混じりな黒髪に、華やかな印象を受ける金色の目。星羅に写真を見せてもらった通りの姿に、ちゃんと来てくれた安心を感じる。天候が少し曇り空になってくると、気休め程度の風が吹き抜け、バケツの中の水が揺れ動く。多少の涼しさで回復した私の体は、与えられた罰を早々に放り投げ、本題に入るべく香奈恵の前に立つ。

「確認したい。意思。香奈恵の。」

「私の?」

「うん。調べた。個人的に。見つけた、それで。いじめグループの人。」

「………」

「つける?決着。その人達と。」

雲はみるみる空を覆い、湿った空気はジトっとしたねばっこい熱気を解き放つ。太陽にこれでもかというくらい照らされていた通学路もどこか寂しげな雰囲気に包まれて、沈黙が重いものに感じる。

「私は、」

俯いた顔をあげ、くっきりとした声が沈黙を貫く。芯のある言葉に風が着いていき、それがなんだか心地よい。

「私は、復讐…とまではいかなくとも、相手に罰を与えようという気にはなりません。」

「いいの?なんとも思ってない。相手は。」

「いいんです。それで。勧善懲悪って言葉は、私、あんまり好きじゃなくて。勿論、良いことをした人が幸福になって、悪いことをした人が罰せられた方が気持ちはいいですけど、それに固執して、無理やりそれを起こそうとすると、その因果の中では収まりきらないと思うんです。それに、この二つのことはセットじゃないと思ってて、必ずしも悪が罰せられなければ被害者は幸福になれない。被害者の幸福は必ずしも悪が罰せられることじゃない。いいことをしたらいいことが起きる。そのくらいの方がずっと気楽なんだって、思い至ったんです。」

「すごい。思わない。普通は。被害を受けて。」

「きっと、私にとって、想像以上にいいことなんだなって。新しい友達が出来て、好きなものを語れるのが。」

金色の目は曇った空を押しのけるくらいに眩しく見えて、等身大の少女さながらの、無邪気な笑みを浮かべていた。

「ね、香奈恵。」

「なんですか?」

「私、好き。桜のこと。」

「へっ!?えっ…えっと!違います!私は決して岩倉さんから奪おうとか…」

「いい、ふゆで。それと、違う。私が言いたいこと。」

赤面した香奈恵にめがけて、私もろまんちっくな言葉を考える。桜に負けないくらい、この子のことを笑顔に出来る。そんな言葉を。

「しよ。恋バナ。なって。友達。」

「…!!うん!一緒に…」

そのとき、パラパラと雨が降ってくる。その雨は一瞬にして勢いを強め、今まで奪ってきた水分を一気に返しにきたかのよう。雨宿りをしなきゃ風邪を引く。本番を控えたこのタイミングでそれは最も避けるべきことだった。最寄りの建物は、学校の校舎前に立っているのだから当然学校。でも、彼女が学校に向けた顔はちょっと暗めで、やっぱり本番までには会いたくないのだろう。

「いこ、香奈恵。風邪引いちゃう。」

「えっ…学校に戻らなくていいの?」

「ふふっ。サボ。遊びたい。友達と。」

「…ふふっ。うん!ふゆちゃん!飛ばして行くよー!」

手を繋いで、人は繋がる。

思ったより、世界は広い。

こんにちは!作者のあまりんごです。こうして後書を書かせていただくのは久しぶりな気がします。最近生活面が色々変化して、小説を書く時間とか、もっとこうしていればよかったなぁーということが多々あり、特に星羅は薬を唐突に飲ませるんでなく、もうひと段落入れるつもりだったのですが、ちょっと焦っちゃったみたいです。それでも最後は綺麗に締めたいので、ちゃんと星羅の物語は書き切りたいと思います!これが終わったら本格的に恋愛要素入れた日常会をやって、全員の関係性を進展させたいと思ってます。

では、これにて後書きを終えたいと思います。ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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