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繋がり

午後の気持ちの良い夕日が部室を照らし、ポカポカとした雰囲気の中、燐音先輩が堂々と前に出る。それに眉をひそめながら、水月先輩が質問する。

「あの、目的とかの前に色々わかんないことが多いんですが…なんか急に星羅も謝り始めたし、そもそも吹部の天草さんとかが何でいるかも知らないしで、何が何やら…」

「それは私から説明する。」

きっぱりとした声が部室に響く。見ると、天草さんが真剣な顔持ちで立っていた。その目には曇りがなく、憑き物が落ちたような印象を受けた。

「まず、私がここにいる理由は、豊臣先輩に香奈恵っていう子を助けるために呼ばれたから。その子は、私と星羅の友達で、今は学校に来れないくらいの、不安定な精神状態にある。」

「そんで、俺が謝った理由は、その香奈恵がいじめられているのを見て見ぬふりをしたからだ。俺はそれをずっと引きずって逃げてた。でも、さっきふゆと香奈恵のお陰で救われた。」

「私?」

ふゆが首を傾げる。側から見ればやったことと言えば怪しい薬を投与しただけだが(しかも腹いせで)、星羅本人にとっては自分の心の病気を治した特効薬なのである。

「あの薬で夢を見たんだ。香奈恵と話してる夢。香奈恵は、繋がりがあれば人は生きていける。色んな縁で支え合っていくことが、人の生き方だって言ってた。たった今、ふゆと香奈恵がそれを思い出させてくれたみたいに。俺はそれに支えられて、また前を向いて生きようと思えた。ありがとな。」

「ふふん、計画通り。」

「私も、豊臣先輩がいなければ、こうしてまた星羅の前に立つことさえ嫌がってた。色んな巡り合い、繋がり合いがあってこその今。私もその話は賛成。だからこそ、まだ香奈恵は誰とも繋がれてない。」

「なので、その香奈恵さんに僕達の劇で何かしらの繋がりを持ってもらうってのが、今回の目標!いかがかな演劇部の皆々様?」

再び部室は騒がしさを取り戻す。ただ、そこに否定的な意見は見当たらず、相変わらずの暖かく、優しい雰囲気に包まれていた。

「…ふふっ、みんな良さげだね!んじゃりんっち!配役発表お願いしまーす!」

「おっけー!じゃサクサク行きましょう。

今回の台本は"カルピスソーダ"。恋愛要素ありの学園コメディーってとこだね。ちなみに今回は主人公ともう一人の主要人物が目立つ作品になりそうかな。

では、前置きはこれくらいにして、まずは主人公!

結構まとも!志島拓哉役、大久保桜!

演劇部部長の男!藤本幸樹役、山口星羅!

演劇部の大阪担当!宮島綾香役、織田紗香!

演劇部のおふざけ担当!佐々木慎吾役、豊臣燐音!

そして、生徒会長にして埼玉県民!飛部矢才珠役、

足利花音!

生徒会会計にして、圧倒的知性!愛旧奈々役、伊藤愛!

生徒会書記の座につくクールガイ、大泉後五郎役、松尾水月!

夏の暑さにやられたカルピスの回し者!島流し先生役、徳川夏希!

元演劇部員の女の子!宇喜多佳奈役、空海月乃!

ラストに…宇喜多佳奈の友達役の佐藤美波役を、天草早苗に任せます!以上がキャストの皆さんでーす!」

演劇部でないのに劇に出る。かなり特殊な話だが、天草さんがいないと始まらない。そういう話をずっとしてきたから、あまりここに違和感を感じることは無かった。ただ、俺の隣の雄馬とふゆが頬を膨らませ、明らかに出る気満々だったのには、ちょっと同情してしまう。

「雄馬、お留守番、私達。」

「ね。俺らめっちゃ張り切ってたのに。」

「くっくっく…はーはっはっ!キャストに入るのは甘くないということだ!今回は大人しく私たちの勇姿を目に焼き付けておくことだ!」

やけにテンションの高い紗香先輩に釣られて3年の先輩の方を見ると、3人ともニヤニヤが隠せない様子で、本当は前の劇にも出たかったんだろうということがひしひしと伝わってくる。

そして…星羅と天草さんは相変わらずの硬い顔つき。

当然と言えば当然だ。何故なら、ここで失敗することは許されない。天草さんに至っては劇が初めてなのだから尚更。それに、まだ一つ大きな問題が残っている。それは…

「さて、ここが一番難所なんだけど…どうやって香奈恵さんを引っ張り出すか。今彼女は不登校で、正直来て欲しいですでホイホイついてくるとは思えなんだよねー。」

「それに、どうしても俺の存在がノイズになっちまうよな…」

部室に重い沈黙が流れ、起死回生の手を探そうともがくが、一向に見つかる気配は無い。誰が誘うか?どうやって?どんな言葉で?明確に壁として認識された問題はとてつもない重圧を一気にかけてくる。それでも、絶対に諦めたくない。星羅が覚悟を決めて前に進んだなら、それを支えるのがファンの勤めだから。

「俺にやらせてくれませんか。香奈恵さんを引っ張り出すの。」

「何か案があるの?」

「案ってほどじゃないけれど、今の星羅の気持ちを、上手く言語化して、表現できたなら、きっと来てくれると思うんです。だって、その人は星羅の幼馴染なんだから、星羅のファンにならない訳がないんです。そしてそれは、ファンの俺ならできなきゃいけないんです。」

はっきりと言い切ると、星羅は少し恥ずかしそうにこちらを見て、その後優しく苦笑する。すると、その後ろにいた水月先輩が立ち上がり、俺に話しかけてくる。

「桜。それ、俺も着いていっていい?」

「いいですけど…どうしてまた?」

「俺もこの目で見て見たい。というかやってみたい。解けた縁も、結び直すことができるってことを。」

澄んだ目に何か重みのあるセリフにほとんど異議を唱える者はいなかった。唯一雄馬だけが、役もないし俺もファンだと言ってきたが、花音先輩とふゆが耳打ちして、したり顔で引き下がる。どうしたのかと聞くと

「そっちが繋がりを直す仕事なら、こっちはそれを広げるってとこかな。」

とニヤけた声で言ってきたので、何かとんでもないことを画策してる気がしてならない。ふいに、学校のチャイムが鳴る。時計を見ると針は6時半を刻んでいて、どの部活も帰る時間となっていた。全員がいそいそと帰り支度を済ませているとき、星羅がみんなに呼びかける。全員が星羅に視線を集めると、珍しくたじろいで、どんな言葉を出そうか練習するように口をパクパクする。

「えーと、みんな。今日は色々とありがと。やっぱりこの部活に入れて良かった。こんなにいい仲間に会えて、自分の過去に向き合う機会をくれて、ほんとに感謝しきれない。でも、俺もタダで助けて貰う訳じゃない。」

すっかり暗くなった夜の景色。部室の窓からは、くっきりと輝く一等星が、北の空に光を注ぐ。そんな北の空には、まだまだ大量の星が配置され、月が星の照明になる。

「舞台で見ていて欲しい。俺の最高のファンサービスを!」

そして求める。全身全霊の輝き、その観測者を。


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