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握手会

ギラギラと熱い陽射しの日曜日。最高気温は37度で外に出るのさえ億劫になるが、今日はその限りでは無い。その理由は単純明快、山口星羅のライブがあるからだ。この前体育祭で着ていた衣装はステージの上ではその輝きをさらに増し、シンデレラがかけられた魔法はこんなものなんだろうなと思い耽ってしまう。会場は、猛暑となった外をかき消すくらいの冷気を流して快適にライブを楽しんでもらおうと図ったスタッフの努力も虚しく、ファン達の熱気によって外以上の熱を持ってしまう。ダンスの最後に締めのファンサをバッチリ決めて、今回のライブも大成功に収まった。桜達の興奮は冷めやらず、客席を立ったあとでもワクワクが溢れ出していた。

「いやー凄かったね!せらっちのライブ!誘ってくれてありがとね!ウチも元気でてきちゃった!」

「先輩にも俺の星羅の凄みをわかってもらえて光栄です!」

「は?誰の星羅だって?」

「醜いよ二人とも。格付けはすでに完了しているのにさ。」

「あはは!息ピッタリだねー!」

メンバーは相変わらずの星羅ファン3人と夏希先輩。

いつものテンプレゼリフも軽く受け流せるのは、夏希先輩のスルースキルとコミュ力の賜物だろう。星羅のことで色々熱く語りあっているとライブの成功感謝の握手会をやっていた。すでに列は長蛇を極めて、この熱い日には少々厳しいものがある。

「夏希先輩。俺らは並ぼうと思ってるんですけど、気温が気温なので先に帰っちゃっても…」

「いいって!気を遣わなくても。私、みんなが思ってる以上に楽しんでるんだよ?せっかくならファンになってみるのもありかなーって。だったら握手会行かない手はないっしょ!」

熱い日だろうがなんだろうが、いつものノリのいい性格なのは変わらず、自分が好きなものを好きと言って貰えるのが嬉しい人にとって、彼女はとてつもない人たらしに見えるだろう。

「よう燐音!久しぶりだな!友達も一緒か?」

列に並んでいるといきなり後ろから声をかけられる。その男はスキンヘッドにグラサンといかにもな格好をしていて、着ている服が星羅Tシャツなのも、この場においてはどう転んでもいかにもな奴に映るだろう。

「えと…知り合い?」

「紹介するよ!この人は"スターリン"。僕らの同志さ!」

「スタッ…ええ!?その名前もだけどその人に対して同志っていうのはもっとやばいんじゃ…。」

「驚かせて悪いな嬢ちゃん。この名前は星羅ファンのニックネームみたいなもんだ。星羅ファンクラブの会員No.が4番以内にもなってくるとこうやってニックネームをつけることが許されるんだ。せっかくの星羅四天王。星に関連するニックネームを付けたいだろ?」

「…もうちょい健全なヤツならなぁ…。っていうか会員番号4番以内なんだ!スゴッ!」

スキンヘッドの男…もといスターリンが恥ずかしそうに顔をかく。この人の会員番号は4番。前に燐音先輩と来た時も親しげに話していて、どうやら二人は旧知の仲らしい。ライブに行けば毎回のように会い、そのたびに星羅のライブに対して熱く語ってくれることから我らは同志なのだ。

「嬢ちゃんは今回が初ライブか。思いっきり楽しんでくれよ!」

「すでにめちゃくちゃ楽しいでーす!」

「はっはっはっ!こりゃ将来有望だな!」

そんなやり取りをしてる間に列の前にいる人が3人くらいになってくる。喋っていると案外あっという間でなんだか得した気分になる。そしていよいよ夏希先輩の番になったと思った途端、さっと黒い影が割り込んでくる。

「ちょ…抜かさないでくれる?」

「初参加のガキがッ!いい気になるなよ…」

「またお前か…」

後ろにいるスターリンが頭を抱える。目の前の星羅はスタッフ達に色々と呼びかけて人を集め、なんだか騒動が大きくなる。

「言いましたよね、"星羅⭐︎エクストリーム✨✨パラライズ(ちょっwwかっこよすぎてマジ無理ww)"さん。もう他の人に迷惑かけるのはやめてほしいって。」

「えっ…何今の名前…。あれがまさかニックネーム…?ドン引きなんだけど…」

「奴は会員No.3の俺より古株の星羅ファン。だが3年前、軽い気持ちで来たTikTok民に粘着レスバを繰り広げたことからミーム化。残念な生き物図鑑に載ってるだとか、星羅じゃ中和できないだとか散々な言われようだ。」

「黙れ!!星羅様で中和できないのはお前らの信仰が足りて無いからだろうがぁぁーー!!」

「…うわぁ…」

「星羅様。どうかご理解ください。これ以上よくわからんTikTok民にファンの民度が下げられるのは嫌なのです。」

「ファンの民度が悪いのはあなたのせいですよね!?」

どんどん人が集まり対処しようとするも暴れられてはどうしようもない。せっかく暑さに耐えたのにこのまま中止?そんな不安がよぎったそのとき、まったをかける人物がいた。

「これ以上星羅の新規ファン獲得を妨害するのはやめてもらおうか。"星羅⭐︎エクストリーム✨✨パラライズ(ちょっwwかっこよすぎてマジ無理ww)"。

「りんっち。せめてカッコの中は省略しない?」

燐音先輩の声を聞くと暴れていた…えっと…"ラっこ"でいいや…。"ラっこ"がこちらをくるりと向き、敵意をむき出しにしてくる。

「燐音…学校で先輩という立場を得てから随分とつけ上がったなぁ。お前ごとき、この俺に指図できる立場ではないというのに。」

「どうだかね。今の君は星羅を悲しませてる。だから…僕がここで君を始末する。」

「…星羅チャレンジ…!」

辺りがザワザワと湧き立つ。星羅チャレンジ。それは星羅ファンのプライドと魂を賭けた闇のゲーム。しかも今回の相手は会員No.3だというのだからただでは済まない。

「燐音先輩!無茶です!」

「そうですよ!だって相手は…!」

「よせ。」

肩にポンとなだめるように手を置かれる。スターリンはなにか確信めいた目で燐音先輩を見つめていた。

「星羅様、並びにスタッフの皆様方。どうかここはお時間いただけないでしょうか。星羅チャレンジに負けたものは全てを失う。二人とも生半可な気持ちではないのです。」

「…ねえプロデューサー。なんとかして止まらないの?人死にそうな雰囲気なんだけど…。」

「星羅チャレンジは誰にも止められない。そういうものなんです。」

星羅がため息を吐くと、それが決戦の掛け声だと言わんばかりに空気が張り詰める。その息苦しさを一瞬にして打破し、"ラっこ"がおもむろにスマホを取り出し、こちらに一つの映像を見せる。

「どうだ!この画像は2017年第3回目のライブ映像だ!あの頃はまだファンが少なかったから、この映像には数百万という価値がついている!」

スマホからとてつもない衝撃波が放たれ、バトル漫画のように地面に亀裂が入る。もはやその星羅パワーは一個人が持ち得ていいものにとどまっていないことは誰の目から見ても明白である。

「りんっち!危ない!」

吹き飛んだ瓦礫が燐音先輩に向かって放たれる。ちゃんと見ていれば避けられたはず。だがそんなことができるわけがない。何故なら彼は…

星羅しか見えてないのだから…。

「魅せてあげるよ。会員No.2。"明星の燐音"の実力を!」

刹那。空気は震え、鳥はざわめき、宇宙が揺らぐ。

彼のスマホからは山口星羅との日常生活の映像が流されていた。それはただの高校生の一面。だがしかし、アイドルの彼しか知らないものと、普通の高校生としての一面を知っている者とでは、計り知れない溝があるのだった…

「ば、馬鹿な…この…俺がぁぁぁぁー!」

「貴様に!星羅ファンを名乗る資格はない!」

ウオオオオオオオオオ!

「……次の方どぞー。」

なんかこんなトンチキなの見てたら頭がおかしくなる。そんな思いからこの騒ぎを少し遠巻きで見ていた女の子に声をかける。その子はパタパタと近づいてきて、とてもニッコリ笑った…と思う。その子はマスクにサングラスをしていて、誰かから逃げてるのかというくらいガチガチの変装をしている。いつものように手を握り返す。そのとき、彼女の手からなにか妙なものが伝わってきた。暖かい。だけじゃない。それはずっと冷たいとこで放置された皮膚を触っている感覚で、そんなのはこの猛暑にはあり得ないことで。

小さくてツルツルの手。似ている。

初めてアイドルとして握手したあのときの子。初めて俺が異性として気にした子。俺に色々な初めてをくれた子。そこまで考えてようやく気づく。この子は…

「ずっと…応援してるから。星羅君。」



初めて…俺が傷つけてしまった人だ。

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