体育祭
季節はすっかり夏に変わり、立っているだけで目眩がする今日この頃。いつもなら学校が暑さによってもたらされた蜃気楼となってしまえばいいと思っているところだが、今日は違う。なぜなら一年に一度の大イベント。体育祭があるからである!人々の熱気はさらに気温を上昇させ、アクエリアスの売り上げも上がること間違い無し。そんな体育祭で、桜達が一番熱中しているものは…
「さあさあ!始まりました!次のプログラムは、部活動対抗リレー"文化部"バージョン!実況はわたくし豊臣燐音と!熱血テニスプレイヤーの生まれ変わり!織田紗香でお送りいたします!」
「…まだその人は生きてる気がするが…熱くなれよ!お前らァ!」
紗香先輩がツッコミを放棄すること、それはこの種目がいかに混沌としたものかを証明するには充分だった。文化部の部活動対抗リレーはその部活らしさを出しながら一位を目指すもの。ただただ走って勝つのはエンタメとしては到底受け入れ難い。演技もやる。リレーもする。両方やらなきゃいけないのが演劇部の辛いとこだな。
「さあお前ら。覚悟はいいか?」
俺は出来てる。
「では!まずは出場する部活の発表です!まずは吹奏楽!部長は石田由美!最近の趣味は副部長の家に遊びに行って「見ろ!部屋がゴミのようだ!」と指摘することだそう!」
「石の在り処はどこだろうな。」
「続いては演劇部!部長は徳川夏希!最近の趣味は海水浴場でジョーズのbgmを大音量で流すことだそう!僕らの分まで頑張ってくれ!」
「全員フカヒレにしろ!!」
「そしてお次は美術部!部長は大塩孝太郎!最近の趣味はスカイツリーを女体化させることだそう!」
「我が国にも自由の女神出現だな。」
「最後にパソコン部!部長は平塚真澄!最近の趣味はチキチキクレカ申請チャレンジ!当人曰く、たとえグレーゾーンの遊びだろうとスレが盛り上がるなら構わないとのこと!」
「後で取り締まるからな。」
桜は他の部員と共にスタートの白線の前に立つ。先頭を率いる先発。今桜に一世一代の大勝負が起ころうとしていた!
「位置に着いてー。よーい。スタート!」
一斉に走り出し、それぞれの特色を表すものを繰り出す。吹奏楽部はランドセルを背負いながらリコーダーを吹き、パソコン部は走らずパソコンを展開し、美術部はキャンパスを用いず空に絵を描く。そして俺は…
「おーとどうしたことだ!?演劇部、ただただ全力疾走!紗香さん!このプレーはかなりアウトゾーンなのではないでしょうか!?」
「いや、桜の衣装を見ろ。」
「あ、あれは…!?」
そう!今の俺の衣装はメロスと同じ!韋駄天。セリヌンティウスに金賞を持ち帰るという理由で合法的に全力ダッシュできるのだ!他の部活動をあっという間に追い抜き、次の演者である夏希先輩とふゆ、そして水月先輩に余裕を持ってバトンを渡す。
「先輩達!お願いします!」
「さあさ!ガラスの靴のシンデレラのお通りじゃー!」
「お嬢様。どうぞお手を。」
「よろしく。エスコート。」
キラキラとした白銀の衣装に包まれたふゆが着実に歩を進め、魔法使い風の二人がそれを両脇で支えこむ。シンデレラが一歩一歩を踏み出しているそのとき、ある勢力が動き出す。
「ここでパソコン部。一気に駆け出した!すごい!とんでもないスピードだ!一体何があったというのか!?」
「奴らは情報のエリート。数多のYahoo知恵袋から最適化された走り方をインプットしたのだろう。」
「もっと前に調べとけ!そんな群衆の声には耳を傾けず、どんどん一着の演劇部に迫ってゆきます!」
「ふっふっふっ、私からは誰も逃げられねぇ。轢き潰して、粗挽き肉団子にしてくれるぜぇ!」
突如、後ろからさせるかぁと怒号が鳴り響く、振り向くと美術部が数々のパソコンやスマホの絵を持ってやってくる。
「おいお前!この絵のスマホの機種を当ててみろ!まさか逃げないよなぁ!?」
「は?分かるに決まってるでしょ。その機種はiPhone15。メインカメラは4800万画素で1200万画素だったiPhone14とは劇的な変化でその他にも…」
「おーと美術部!パソコン部の妨害のつもりが話が長すぎて逆に拘束されてしまったぁ!ただ絵自体が批判されないこと。それは機械ファンとして彼らの絵を最大限に評価しているからでしょう!」
「これで美術部とパソコン部は共倒れ…。残るは吹奏楽部と演劇部となったな。」
演劇部が2周目を走り切り、ラストの走者。山口星羅の出番が回ってくる。彼が身に纏っている衣装はつい先日発表されたライブの衣装で、ファンにとってはこれほど熱いものはない。だがどうやらこのままイージーウィンとはいかず、吹奏楽部も全力で走ってくる。
「ここで吹奏楽部。ホルンとコントラバスを背負うことで全力疾走を正当化する流れ!吹奏楽部の期待の新エース天草早苗!すばらしい走力で星羅と並んだぁー!」
「陸上の方が向いてないか…?」
早苗が俺の隣にピッタリとくっついて走ってくる。重そうな楽器を背負う彼女の目は俺になにかを訴えかけていた。煌びやかな衣装で埋め尽くした俺を写しているはずの目。その目に映ってるもの。例えるならばそれはプレゼント箱。誰が見ても胸が踊るようなプレゼント箱。でも、彼女にはその箱の正体がゴミ箱だと知っている。ぐちゃぐちゃになった過去を押し込んだゴミ箱に。燃え上がるような熱気を今は感じることができず、標高の高い山の頂上のような、その息苦しさと凍える空気に肺が壊され、息が乱れる。
「あんたはいいよね、背負うものがないフリができて。」
「………」
彼女は決して俺を追い越さない。追い抜かれたりもしない。ただただピッタリ俺の横についてくる。
とても…とても重いものを背負って。
「ゴール!吹奏楽部、演劇部共に同着でーす!」
…清算されていない過去は、決して横から離れない。




