お姉ちゃん勝負!
ふかふかのカーペット。花柄の美しいカップ。豪華なシャンデリア。普通の人生を送ればまず縁のないものに囲まれて、私と愛ちゃんは相対する。
「なにニヤついてるの?気持ち悪い。」
「言葉強くない…?そんな無理して不満がらなくてもいいのに。」
「私がこれを嬉々として受け入れてると勘違いされたくない。あなたみたいにね。」
愚痴を言う月乃ちゃんとそれを笑って受け流す水月君も、私達が今から行う勝負に興味を示している。雄馬君と花音ちゃんはその全貌が見える位置に座り、決戦のゴングを鳴らす。
「それではこれより!第一回。お姉様対決を開催いたしますわ〜!」
なぜこんなことになったのか。それは今週の金曜日の話。
ぽかぽかと暖かい日差しの中、生徒会には穏やかな空気が流れている。花音ちゃんと雄馬君はたどたどしくも仕事を終わらせ、その日の光を全身に浴びるように寝そべっていた。
「あ〜気持ち〜」
「夢見心地ですわ〜」
ここ最近の生徒会業務は忙しく、後少しで体育祭があり、花縁高校の文化祭は体育祭と近く、そのことで今は生徒会役員はてんやわんやなのである。
「まったく。生徒会は生徒の模範なんだぞ。こんなだらけてる姿は本来すべきではない。」
「まあまあ、最近業務が忙しかったですし、今はゆっくりさせましょう?」
君津先輩が二人の間に腰をかけ、優しく二人の頭を撫でてあげる。それに完全に絆された二人は無防備にもそこで眠りについてしまう。
「…ちゃんと部活には出るように。」
紗香先輩はため息混じりにも、彼らの寝ている姿に甘やかすような声色を出す。立ち上がり生徒会室を出てしまうと、そこには3人だけの静かな空間が広がる。
他の先輩達は先に部活に出ていて、今は私達待ちではあるのだが、もう少し甘やかしておきたい。そんな保護欲にやられてしまい、再び2人に愛撫する。そんなときだった。勢いよく扉が開き、聞き慣れた声が生徒会に響く。
「雄馬!いつまで仕事してるの!早く部活に…」
再び生徒会室に静寂が訪れる。ただ先程とは違い、それは気まずさによって生成された人工的なものだった。
「あー…愛?多分そういうことでは無いと思うんだけど…」
「…何やってるの?部活に来ないで。」
扉の奥から愛ちゃんを落ち着かせようと奮闘する水月君と、とてつもなく冷ややかな視線で私を見てくる月乃ちゃんが出てくる。その二人の態度によって、なんだか私がいけないことをしている雰囲気になってしまった。
「その、別にそういうのじゃ…」
「んっ…あれ、わたくし達…。」
隣で寝ていた二人がまばたきを2、3回繰り返して目を開く。
「すみません、こんなに寝ちゃって。君津先輩のそばだとなんだか落ち着いちゃって。」
「ええ!まるでわたくし達の"お姉様"みたいでしたわ!」
その瞬間、空気が凍りつく。さっきの日差しからはまるで暖かさを感じることが出来ず、ピンと張り詰めた息苦しさと気まずさに動悸が速くなる。愛ちゃんの方を見ると拳を握りしめて、顔を真っ赤にしながら私を射止めるように見つめている。そして先程よりも大きく、そして威嚇するように声を出す。
「君津先輩!!私こそが真のお姉ちゃんよ!!」
……ということがあり、今に至る。月乃ちゃんと水月君は正直あまり関係ないのだが、なんだかんだで付き合ってくれている。審査員は4人。今回の種目は…
「今回の種目、それは…料理勝負よ!」
料理勝負。その言葉に月乃ちゃんが少し目を輝かせ、すぐにそれを振り払い気怠そうな顔を作る。
「お料理といえば!わたくし達2年生は水月さんにお弁当を作ってもらっていますの!」
「それで私達。舌が肥えちゃってるかもね。」
「そんなわけないでしょ。舌が肥えてるんじゃなくて馬鹿舌なんじゃないの?」
「といいつも、中学からずっと食べてくれてるけどね。」
「私の思いやり。」
「そう?ありがと。」
「構わないわ!審査が厳しければ厳しいほど燃えるもの!」
そう言ってさっさと部屋を出て調理場に二人は向かってしまう。取り残された4人はどんな料理を作ってくるかに話を弾ませる。
「お二人のお料理。とっても楽しみですわ!」
「愛姉が料理作ってるとこ見たことないんだよなー。母さんが料理上手だし、まさか壊滅的なんてことはないだろうけど。」
「……それってフラグじゃ…」
一抹の不安を抱えながら時を過ごすと扉が開いて二人が入ってくる。後ろにはメイドが配膳台に料理を乗せて部屋に運んでくる。お礼を言って料理を受け取るとどちらも見た目は美味しそうに見える。どちらから審査するかを聞くと君津が食い気味に主張してきたので、まずは君津の料理を全員のお皿に乗せる。
「「「「いただきます」」」」
君津の料理は餃子で、しょうゆの上に少量のラー油をかけ、口いっぱいに頬張る。口の中には肉汁が溢れ出て、パリパリの衣から歯に染み渡ってくる。かと言って肉オンリーと言う訳でもなく、ところどころに挟まる野菜が餃子としての完成度を物語る。その美味しさに感嘆の声を上げて箸から手が離せない。
「どうかな?」
「先輩!めっちゃ美味しいです!」
「よく出来てると思う。また食べたいと思えるくらい。」
「ふふっ。水月君のやつを参考にしたんだよ?」
「…最悪なトッピング。」
そんな不満顔も餃子の美味しさですぐ吹き飛び、あっという間に完食してしまった。全員が満足そうにしてる中、一人だけが曇った顔をしていた。
「ちょっと、何もう終わりみたいな雰囲気だしてるのよ!ここからは私のターンよ!」
全員の前に皿を出し、愛の料理を乗せていく。愛が用意したのは肉じゃがで、匂いからして先程感じていたフラグはどうやら杞憂に終わりそうである。同じようにいただきますを言って肉じゃがを口の中に運ぶ。歯でそれを噛み潰した瞬間…
「ッ!?ゲホッ!ゲホッ…み…水…。」
「ちょ、ちょっと何よ!その反応!」
「こっちが聞きたいんだけど。何これ?ほんとに肉じゃが?」
「ええと、こ、個性的な味…ですわね…。」
「愛姉。なんで料理対決で挑んだの?」
口々で不満が飛び交う。その味を感じるごとに賞味期限切れのものを再利用する限界企業の悪質さを感じずにはいられなかった。
「新鮮なのだけど!」
「はあ…」と月乃はため息を吐きながらバックを漁り、人工調味料を取り出す。
「これで多少はマシになるでしょ。こんなものでも料理は料理。作ったものを食べないのは礼儀がなってな…」
バチィ!
「…は?」
バチィ!
「…塩が弾かれるんだけど…。」
「ふゆに手伝って貰って、完全なる健康食を作ることに成功したのよ。塩とかの健康に悪そうなものが降りかかった瞬間にフルオートで反射するわ!」
「愛姉…これはちょっと…。」
「くっ!タルタルソース!ポン酢!味の素!焼肉ソース!ラー油!デスソース!ベジマイト!レモン!」
「お前のバックって四次元ポケットだったりする?」
悲しきかな。全ての調味料は弾かれ、弾いた調味料は全て当人の顔面に直撃する。月乃はぷるぷると震えて、愛の服を引っ張り引き摺る。
「1から教えてあげる。料理ってものを。」
「ま…まだ決着は…」
バンッ!と激しい音を立てて扉が閉まる。その後二人は日が暮れるまで料理の練習に勤しみ、懸命に教える月乃の姿から、真のお姉ちゃんは誰かが相違なく決まったのだった。
次回からちょっと本筋進めます。




