星羅チャレンジ!?
りーんごーんかーんこーん。いつものようにチャイムが鳴り響き、生徒達は教室に溢れかえる。この時間は大体いつも部室に直行するが、今日は水曜日。土日を
含めた部活のお休み日である。部活がなければ、委員会に入っていない桜はもう帰るしかないので、生徒の波に身を委ねて玄関まで流される。星羅は残念ながら委員会なので、誰か暇そうな人を見つけて一緒に帰りたい。そう思いながら辺りを見渡すと花音先輩とふゆが楽しそうに会話をしているのを見つける。
「こんにちは花音先輩、ふゆ。今帰り?」
「あ!ごきげんよう。桜さん!今帰るとこなのですが…」
「成果報告中。発明品。私の。」
「成果報告?」
そう聞いて思い出す。そういえばふゆの発明品の費用は花音先輩のお小遣いからでているのだった。とてつもない額をお願いするふゆも、それを簡単に払ってしまう先輩にも戦慄したことを覚えている。
「ちなみに今まではどんなもん作ったの?」
「たとえば…暴く機械。癒着。自動車会社と保険会社の。」
「局所的すぎるだろ…いつ使うんだそんなもん。」
「ほ、他にはありませんの?」
「他には…暴く機械。どこからでてるのか。ギャンブル代。有名選手の通訳の。」
「もう名指ししろよ。」
「さっきから暴いてばっかりですわ〜!」
こんなものばっかりで本当に成果報告に期待できるのか?そんな疑問が芽生え始める俺と先輩の心を見切り、「ふっふっふっ。」とそれっぽいことを言いながらあるメガネを取り出す。
「それは?」
「作ってみた。よくあるやつ。好感度測定器。」
「「好感度測定器!?」」
俺と先輩の反応に満たされたような顔をしたふゆは、再度メガネを高く掲げて話しだす。
「このメガネをかけると、相手からの自分の好感度が表示される。上限は100。1〜20が嫌い。21〜40が友達。41〜60が親友で61〜80が好き。」
「81から100は?」
「…ふふっ♡」
「あっはい。そうすか。」
なんだかそっけない態度をとっておかないと襲われる。そんな空気を感じ取りつつ、そのメガネに興味があったので貸してもらいつけてみる。
「まあ当然かもだけど、大体の人は30いくつぐらいだね。花音先輩は…あっ!60だ!」
「ふふん!当然ですわ!わたくし達は"ベストフレンド"ですもの!」
可愛い。そう思いながら先輩を見ているとヤキモチを焼いたふゆが無理やり視界に入ってくる。
「桜。私は?私。」
「あーえっと…」
メガネには97と表示されどう言えばいいのか反応に困る。まあでも、好かれてるのは嬉しいし…
「ありがとう…普通に嬉しい…。」
「……ふふっ。好き。そういうとこ。」
数値が100になり、花音先輩が顔をでろでろにしてこちらを見ていて、なんだか胸の辺りが苦しいので別のことでなんとかこの雰囲気を覆せないか。そう考えていると一つの考えが稲妻の如く桜の脳に流れ出る。
「さっき見た感じ、これ同性もいけるよな?」
「うん。そうだけど…」
瞬間。桜は猛ダッシュをして走りだす。疾風迅雷とはまさにこのこと。その猛烈なスピードにふゆ達の前から桜は一瞬で姿を消してしまう。
「えっ、桜?」
「ふ、ふゆさん!急いで追いかけますわ!」
「そ、そんなに速くは…ひぐぅ!?」
「ふ、ふゆさん!?」
「お、折れた…ダッシュしてないから…足の骨…。」
「ふ、ふゆさーん!」
桜は花音先輩の叫び声すら意に介さず、生徒会の扉を叩く。そうすると神妙な面持ちで雄馬が出てくる。
「事情は聞いた‥。とうとう始まるのだな…。我らの決戦が…!」
「ああ。その通りだ。」
生徒会に入るとそこには燐音先輩が座禅を組んでいて、その姿はまるで気を高める修行僧である。そして窓側には今回のターゲット。星羅が座っている。
「委員会終わった瞬間に捕まえられたんだけど…なにをやるつもりなんだよ。」
「今、生徒会の面々は退出中でね。丁度いいと思ったのさ。」
「そう。誰が一番の星羅のファンか。究極の闇のゲーム!星羅チャレンジを!」
星羅チャレンジ…それは星羅ファンのプライド。そして魂をもかけた究極のゲーム。これに敗北することは死を意味する…!
「いやしねぇよ?」
「や、やっと追いつきましたわ…。」
ばさっと扉の前に花音先輩が倒れ込む。手には通話状態のスマホを握っていて、その相手は岩倉ふゆと記されていた。
「どうやら、役者は揃ったみたいだね。始めようか。我らの決戦、星羅チャレンジを!」
なんだかなぁー。そんな気持ちのまま星羅がメガネをかけて三人を見る。…あれ?もう一度かけ直す。上下を反対にしてみたり、メガネを叩いてみたりする。でも数値がいつまでも変わらない。
「なあふゆ。これの上限って。」
「100。1人や2人。生涯のうち。」
………3人いるんだけど…。
ポツリとそう言葉をこぼすと3人はお互いの顔を見合わせてドヤ顔を作る。
「とりあえず、全員スタートラインに立てはしたようだな。」
「とか言いつつ、内心もう勝ちだと思ってたんでしょ?あまちゃんめ。」
「星羅ファンたるもの。限界のその先を越えなきゃ、星羅を楽しめさせれないよなぁ?」
なぜか室内なのに西部劇風の風が吹き抜けて桜が前に出る。深呼吸をした後、渾身の叫び声と共にバリバリとオーラが弾け飛ぶ。
「うおおおおおおお!!」
「なっ!数値130…150…190…200…!?」
「な…なんていうオーラ…!ふゆさんがいたら吹き飛ばされていたに違いありませんわ〜!」
「好きなの…?私より…星羅が…。」
「結局ダメージ受けてますわ〜!?」
メガネの数値は止まることを知らずに、とうとう300の壁を破壊する。メガネからは絶え間なく測定の音が鳴り響く。
「くっくっくっ…!素手で戦ったら世界最強と言われた俺に挑んだのが間違いだったな!お前達は、俺の心という名の剣のさびにしてくれる!」
「素手使えよ。」
「うおお!俺の星羅パワーはまだまだ上がり続ける!俺に終着点は存在しな…」
上がらなかった。大久保桜、300ポイント!
「やるの…これ?3人とも…」
「当たり前でしょ。ここで負けちゃ何も変わらないからねー。」
燐音が前に出ると、手に持っていたメモをパラパラとめくる。
「燐音先輩。それって…」
「僕はこの学校一のデータキャラ!残念だけど愛の化学式を理解している僕に死角はない!」
「大体そういうデータキャラって失敗するのが常ですけど。」
「僕は現人神をげんじんがみって読まないタイプ!そんなヘマはしないさ。さあ、行こうか!」
燐音先輩が気を高めると部屋の中にロジカルな空気が充満して、様々な化学式や方程式が浮かび上がる。
「す、すごい!あっという間に数値が240に…!」
「だがこれは序の口。桜は前半で力を使い過ぎていたからね。ここで畳み掛ける!」
測定器が出すピピピッという測定音が早まりあっという間に300に到達する。
「す、すごい。これが燐音先輩の本気…」
「うおおー!僕の星羅パワーはまだまだ上がり続ける!僕に終着点は存在しな…」
上がらなかった。豊臣燐音。300ポイント!
「な、なんだか既視感のある光景ですわ…」
「なんかアホらしくなってきた。どうせ雄馬もおんなじでしょ。」
「終わらして。早く。」
いじけたふゆを筆頭に、観客の熱がどんどん冷めていく。その冷ややかな視線に桜と燐音は落ち込んでしまう。だが唯一、雄馬だけがこの状況を、追い詰められた瞬間をチャンスに変えた!
「桜!燐音先輩!ここまできたら言葉じゃねぇだろ!」
「「ッ!!」」
二人は立ち上がり息を揃える。ロジカルな雰囲気も、西部劇風の雰囲気も、全てが交差して世界を覆う。そう、それはまさしく…
「領域展開。」
「領ォ域展開!」
「領域展開!!」
闘いは加速し、もはや常人にはついていけないレベルに到達する。だがそのレベルを越えた者。それこそが星羅の一番のファンなのだ!
「たとえ後からツッコミを入れられようと!」
「ダラダラやるつもりはねぇ!甘い決着つけようぜ!」
その瞬間、キィと扉を開けて一人の女子生徒が入ってくる。その顔はよく見覚えのある顔だが、その表情がいつもとあまりにも違うので一瞬判断できなくなる。
「……いつまでやってるの?」
「えっ、あっ、君津先輩。」
「今何時だと思ってるの?用がない人は帰って。」
「いや、でも今クライマックスで…」
「………で?」
「「「………ごめんなさい…」」」
こうして第一回星羅チャレンジは引き分けに終わったのだった。ちゃんちゃん。




