第60話
とりあえず今日は真っ直ぐに帰ることにした。色々とくだらなすぎる問題はあるが、もうしばらくはライブに集中すりゃいいんじゃないかという諦めの境地。うん、悪くない。諦めることで楽になることも沢山あるはず。
「さて、どうしたもんかな」
「さっさと成仏しろ。それしかない」
「んな身も蓋もないことを……つーか、気になってたんだけど、お前全然喜ばねえんだな。せっかく巨乳美人になったってのに……」
「馬鹿野郎!!!」
「おわっ!な、何だよ、びっくりするじゃねえか……」
「人は心だろうが!例え見た目が絶世の美女だろうが、心が伴わない奴に俺はときめいたりしねえ!つーか、お前はオッサンだろうが!」
「……どーん」
オッサンはあろうことか、バニーガールの衣装の胸の部分をずらして、胸をご開帳した……文面だけ見てみると、恐ろしい状況だな。一応、身体は女になっているということを理解していただきたい。
二つの豊かな膨らみがゆっさゆっさと揺れて、暴力的なまでにその存在をアピールする。
しかし、そんなものに興味はひとカケラもない。
「ふん、それがどうした。まあ、いいや。疲れたからちょっと休もう。あ、ちょうどそこに座るのにいい場所が」
「どう見てもただの道端じゃねーか。おい、不自然なくらい中腰になってんぞ」
俺はニヒルに微笑み、電柱の陰に隠れるように腰を下ろす。さっきも言ったが、疲れたからちょっと休むだけだ……5分くらい。
「あの……さっきから一人で何をやっているのですか?通報しましょうか?」
まさかの遭遇。
俺の背後5メートル程離れた場所に、変態でも見るかのような視線を向けてくる梛ノ宮愛里が立っていた。片手にはスマホが握られ、言葉通りに通報する準備は万端である。
「おい、具合の悪い人に『救急車呼びましょうか?』って聞くようなノリで通報しようとするな」
「いやいやいや、あなたはどう考えても不審者にしか見えませんでしたよ。何なら私が退治してもいいぐらいです」
「やめい。その前に俺がどう不審者か説明しろ」
「独り言を言い始めたかと思えば、突然馬鹿野郎!と叫んで、宙を見てエロい目つきをして、中腰になってニヤニヤしながら道端に座り込みました」
「…………」
反論など一つも思いつかない。俺の負けだ。
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