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さらば変人!  作者: 差等キダイ
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第29話

 明日はAqoursの新曲のフラゲ日!

 やがて男は去っていった。

 とぼとぼと歩き、遠ざかって行くその背中には、遠目でもわかる疲労感が滲み出ていた。お、お~い、大丈夫ですか~。そっちは出口じゃなくて、草むらですよ~。

 まあいい。後は先生が立ち去るのを待とう。

 すると、先生が予想外の方向へと歩き出す。



「弟君、こっち来るよ!」

「いや、流石に中までは……」



 しかし、そんな予想は裏切られ、先生は俺と義姉さんが様子を窺っていた穴とは別の穴から、のそりと中に入ってきた。その動作には、学校で見られるような機敏さはなく、やさぐれた感じがする。

 そして、そのままスーツが汚れるのを気にする事もなく、適当な場所に腰を下ろす。

 


「はあ……」

「「…………」」



 先生はこちらには気づかず、ぐでーっと俯いて、深い溜息を吐く。悲しさと哀しさがどんよりと吐き出され、ドーム内が淀んだ空気で満たされる。本気で落ち込んでいるようだ。

 しかし、このままでは動けない。腹もへったし、そろそろ帰りたいのだが……。

 息を潜め、隣にいる義姉さんの体温を感じながら、傷心中の担任の様子を窺っていると、やがて、ブツブツと小さな声が漏れ出す。



「どうしてだろう……メールは一日五回に抑えたのに……」

「「…………」」



 やべえ……一人で愚痴りだした。

 先生はどうやら、生徒がここにいるとも知らずに、心のブラックボックスを開きだしたようだ。



「与……俺、外にいるわ……」



 オッサンが疲れた表情のまま、そそくさと逃げ出す。あの野郎、逃げやがった!



「料理も上手になったのに……」

「「…………」」



 俺と義姉さんは暗闇の中で、顔を見合わせる。

 お互い頷いて、もう腹をくくり、先生の心の闇に触れる事にした。声はかけないけど。



「ポエムだって毎日、送ったのに……」

「「っ!」」



 危ねえ。声が出るとこだった。

 今、明らかに地雷があったぞ……。

 地表に露出しすぎて誰も踏まないタイプの奴が。



「はあ、『愛しき人』の出来が悪かったのかしら……」



 タイトルは良さげだが、多分中身はきついだろう。



「それとも、『マジ恋1億パーセント』がまずかったのかしら」



 パクリじゃねえか。しかも、1億パーセントとか、絶対に消化不良を起こすだろう。

 義姉さんは無駄に優しい眼差しを、先生のつむじへと注いでいた。



「はあ……最後に読んでみるのもいいかもね。うん、『好き、大好き、愛してる……』」

「「ちょっと待ったぁ!!!」」



 慌てて先生を止めた。

 誰にだって我慢の限界はある。

 恐らく聴いたら高校生活最大の思い出になるどろう。



「きゃっ!?え?な、な、何?誰?」



 先生は突然向けられた声に慌てだし、立ち上がろうとして、天井に頭をぶつけた。



「っつ~~~…………」

「だ、大丈夫ですか?」



 義姉さんが恐る恐る声をかける。



「え、ええ……いたた、あの、どなたですか?」



 頭をさすりながら、携帯の明かりをこちらに向けてきた。

 そして、その明かりがこちらの顔を捉えると、動きがピタリと止まる。



「えーと、新藤君?」

「こ、こんばんは……」

 読んでいただき、ありがとうございます!

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