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来訪


「クソッ……あの子約共め……」

朽ち果て歩く事も許されない身体を引き摺りながら、森は地面を這っていた。伝わる冷たさは完全に敗北した口惜しさと、轟扇組への恨みを想起させる。義眼は既に潰れ、目から伝わる情報は何も無かった。感じるのは虚無感と復讐心。


「あいつら……絶対に許さない……必ずまたボコボコにしてやりますよ………」


彼の心は復讐の炎に満たされていた。もしこの閉ざされた瞳が開いていたのなら、其処には業火の如き煌きが住み着き、彼を復讐の鬼に変貌させていただろう。

だが、本当の鬼は其処に居る。他の何処でもない、彼の目の前だ。それに森が気付いた時には、指先がその鬼の口を撫で、そして切り飛ばされていた。


「あッ……ガっ……!?」


激痛と指先の喪失、そして目が見えないという恐怖。何より恐ろしかったのは、自身の指が無くなってもまだ、何処に誰かいるのか気配すらもつかめない。目の前に居ると誰かに教えられたとしても、彼にはそれを信じる事は出来なかっただろう。その筈だ、何せそこに居るのは鬼であり、災厄であり、伝説であり、規格外であり、四天王なのだから。


「お゜や゜ぁ゜? †当たってしまったの†」


それに気付いても、森は納得できなかった。何故此処にそれが?

確かに、雷が落ちて人が死ぬ事はあるという。しかし、そうだとしても、その雷が自身に落ちる等とは誰が考えるか? それが実在している事は知っている。だがそれに襲われている等とは考えられなかった。

森は弱くはない、弱くは無いがそれと戦うには次元が違い過ぎる。出来るのは恐怖し、絶句する事だけ。そしてそれは口数を増やしていく。


「ピーってなってそこー!wwwwそれmurderwwwww殺人、Killingwwww」

「今此処でしっかり償わないと後で後悔するよぉ? いずれ沈没するよぉ? エッフォン!」


妬敗奴(やべーやつ)四天王――その力の余り、敗北を妬み、敗北を味わう事の出来ない四人の輩。


「な、なにを……僕が何を……?」

「これはね、先読み。貴方が、世界を、滅ぼす、かも!ってそういう事でしょ?wwwはいじゃあ次に進んで~」

「オイタが過ぎるといずれ沈没するよ? 我々は世界の守護者です。バランスを乱しかねない諸君は……お亡くなりになります――」

「下がれ、豪の者」


空気が振動する。ただ一言発せられるだけで世界が止まり、空気が凍り、釘を叩きつけたかのような重々しい気が流れ込む。彼こそ、妬敗奴四天王最強、両の手で持つその刀は正に――


「と、特大刃…………!? 有り得ない、どうして――」

「我は禍、また斬撃にて破天を得ん。この剣の道極めたるには、愚弄の悪を斬奸すべし」

「何を、何を言っている!?」

「もはや颱言はすまい」


地を踏む音が森の耳へと流れ込む。時が止まったかのような永遠の静寂から、迫り来る破滅への秒読み。腰も抜け、恐れおののく森はただ、目が潰れていることが幸運だったと思わざるを得ない。迫り来る禍を目視せずに済むのだから。


「存生の砌負いし怨憎、我が剣に担いて弔意とせん。以て瞑すべし……どうも、特大刃です。皆さん静かにしてください」


瞬間巻き上がる暴風、抉られる大気。其処に森の姿はない。今抜いた一振りで彼の存在ごと悪意は消し飛び、彼の残した遺志や影響が切り払われたのだ。



「†彼の痕跡が何処かに残っていますね……場所はあの轟扇組本部……キヒッ」

「しかもこれなろうパワー! これは何? 上位存在の気配でしょう!? だから私は向かいます、と」

「バランスを乱している諸君が集まっているだろう? おっもしれえ場所だなぁ」


四天王たちは全員が気付いていた。森だけでない、世界を歪みかねない何かの力が南千住から流れ出ていた。特大刃は一言も発しないまま剣を納め、歩き出していく。


「どうするんだい? やってくかい? もう答えは分かってるみたいなものですけど」

「ようは殺すって事でしょう? 碌でもない事を起こしているダメボーイダメガールを。でもそういうの、私達が直接殴りこんで関与する事は聞いた事がありません」

「良いじゃないですか。俺たちが意思をもって行動するというのも……違う世界のやり方なんですって、ベクトルが違うじゃない。まるでコッチが踊らされているような気分になって面白いじゃないですか……これも編纂者の小説(シナリオ)通りですかね……キヒッ」


四天王たちは各々歩み始める。目指すは不可解の地、南千住。流れ出る高揚と無限の違和感。だがそれ以上に、特大刃だけが然りと感じていた。


「祭――」

「†どうかしたの†?」

「祭の気だ……成程、やはり、乱れている」




嵐が近い。刃と拳のかち合う嵐の。


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