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論述大会

「ついに始まる大々会なんだよね、実況は芝田と!」

「解説の芝田でお送りするんだよね、飛び込みで変わってくれるのも歓迎だからどんどん来てよ」

「さっそく最初の大会がはじまるよ。栄えある第一大会は……論述大会!口に自信ニキさんの腕の見せ所さんっていうのかな」


二人の芝田のまるで当たり前であるかのような掛け合いは、しかしやはりこの日の、轟扇祭の当然であり無意識化の疑念など表出する前に祭りの熱気に呑まれて消える。

壇上にすでに出場選手が出そろい、あるものは鼻息荒く、あるものは静かに燻る熱気を練り上げていた。


「ワイ有能オタク、日本語ガチ勢で文才が溢れているので一人ですべて語りきってしまうレベルなんやが」

「ェヒッェヒッ……馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前」

「アッスは口よりもアスに自信があるアス!」


それぞれが勝手な、明後日の方向を向いたかのような啖呵の切り合い。だがこれこそが大々会の醍醐味である。

普段ならば決して交わることのない油と水が激しくぶつかりしのぎを削る。その非現実こそが、”ありえない”がありえるのが大々会なのだ。

だがそんな中でさえも浮いた別種の異質が紛れ込んでいた。


「あいつらどこ行ったんだよ、マジでいみわかんねぇわ……ってオイイィィィ!ここ壇上じゃね!?」


集った四人は三人と一人とも言え、それが明らかな異物であることは火を見るより明らかであった。それでもここに立っている、予選を持たない大々会においてそれこそが切符を手にするに値することを意味する。


「第一大会から組長が参加してくれるなんて最高すぎるんだよね、これは勝負がついちゃったかな?」

「さすがに早計過ぎるんだよね、他の選手にも注目してホラホラ」


見渡す眼下には無理やり押し込めたかのような人の海、それを割ってどこかへ行くなど不可能に等しいだろう。

なによりもこんな程度の無茶ぶりから逃げることを、林の高いプライドが許すはずがなかった。


「こいつら相手に背中見せるとかありえねえわ、それでなにすればいいの?」

「いまさらそんなこと聞くとか雑魚過ぎてひりついってしまった こんなの相手にするとか……べり~病み~(●・▽・●)」

最後の空席を林が埋め舞台は整う。ここからが轟扇祭だ。


「今回のお題は特になし、好きな様にその弁舌をふるってほしいんだよね」

「下手なお題よりずっと難しいんだよね、選ばれし選手さんたちじゃないと無理無理ってやつ?じゃあ試合開始」

「アッスは舌をふるってアスを攻めたいアス!アササササ!!!」


存外ダウナーな調子で切って落とされた火蓋はむしろ速攻を封じる牽制球が如く。風の戦士ことユキと我刃の視線が交錯し、居合めいた刹那が過ぎ去る。

均衡を破り先制したのは風の戦士改め某国の工作員ユキである。


「ワテクシ日本語ガチ勢の上で中東の戦場を駆け回って数々の絶望的バッドエンドをみてきたワイがお前らみたいなひりつく雑魚に弁論で負けるわけないと確信してるけど、どう?むしろ同じ土俵に立ててるだけでも感謝してほしいぐらいだと思ってるんやが???ということでワテクシが最も得意とする軍事及び政治について語る。クソオタクなので。ワテクシ以外だと無限に椅子から転がり落ちるからある程度までレベルを下げてるだけなんだよなぁ。たとえば今ワイがしてるような恰好をした工作員ほんとすき、あとで拳銃とかをゴミ箱に捨てるという展開が最高すぎて真似して実際やってみたこともあるンゴ。恥ずかしすぎて誰にも言ったことがないけど、老け顔だからといって酒を勧められたりするわね。二十歳越えたら確実に酒豪だし、数々の掲示板を荒らしてきた実績もある。クソオタクなので。各国の諜報組織からオファーがどんどん来るのは決まっているも同然なんやが、どう?」

「ユキ選手の猛攻がすごすぎるんだよね、速攻こそ弁論の花ってやつなのかな」


まくし立てる風の戦士改め某国の工作員もとい声優のマジヲであるユキは付け入る隙を一切与えずに言をばら撒く。様子見を続けていた後手も多少の焦りを感じ打破を試みる。

その息継ぎ、隙ともいえぬ隙を切り開くはやはり対面、我刃しかありえなかった。


「あのさこのライダーほんとおもしろいんだよね。しょっぱなから、どういうことなの(レ)ってなる展開ばっかでさ。淫夢の動画でみたんだけどあそこの伏線は最終回に回収されるんだよね、伝え聞いただけなんだけどまるで自分のことのように話すんだよね、ェヒ……。あと最近みんなが僕の話を聞いてくれてうれしいガバぁ、レスリングの動画大音量で流せばだれかしらこっち見てくれるだろうし、レポート出せなくても僕は元気ガバぁ。きっとパパもママも上のお兄ちゃんも下のお兄ちゃんも親戚のおじさんもいとこの兄ちゃんも近所の雷親父もみんな僕のことが好きガバ。だから何やっても、何もやらなくても許してもらえるガバ、ェヒヒッ……」

「ノーコメントなんだよね、さすがに激ヤバ注意なんだよね」


その異常に気づかないのは、遠目である観客を除けばありえたことではない。平常の彼は快活な裏表のない青年であるはずだった、その男が勝ちをとりに行くためとはいえここまで陰険な演技をできるものだろうか。

どこか壊れたポップコーンマシーンを想起させるような気色悪さでもってして、だがそれは機関銃足りえない弾幕であり割り込みを許してしまう。

他者にとってそれは救いか追撃か、ファッキンアス太郎の猛攻が迫りくる。


「アスについてお話します。アスっていうのはファックすると気持ちがいいとか、まるで桃みたいで気持ちがいいとか、バナナみたいな顔で気持ちがいいとかその他この世を構成する気持ちいことすべてはアスアス。他の奴らは全然ダメアスねぇ、まるで弁論として筋が通っていないアス。アスは気持ちがいい、それはこの世の真理アス!だからそれをみんなに伝えるためにアッスはこの大会にエントリーしたアス」

「前二人に比べると短い、でも筋の通った論理なんだよね。ふざけた名前の割には正攻法で来るとか少々予想外なんだよね」


晴れ晴れとした顔で言葉を切るアス太郎は卓に座りなおす。前者たちのような切り崩された終わりとは打って変わった締めと、次に待ち構える組長への挑戦ともいえる短い言葉に観客たちも息をのみ、呑まれていた。

ついに立ち上がる林に会場の緊張は極限まで張り詰められていく。はたしてどれほどの言葉がここから生み出されるのか。機銃のごとき速攻か、はたまた断頭台のごとき一撃か。予想だにしないことを予想せんと前傾姿勢に言葉を待つ。


「他の三人が言ってたことはあんまりわかんなかったからさ、とりあえず……」


ゴクリと、そう音が聞こえるかのような静寂。切り裂くは組長の遥か想像を凌駕する一閃であった。


「みんなで集まって相談しようぜ!いやぁこんなこと思いつくなんて俺マジで神ってるわ……お前らどう思う?」


観客へ問いかける林にこたえる声は一つとしてなく、先ほどとは別の静寂が会場を包む。その理由は林以外の誰もが理解しえたであろう。

彼らの顔に浮かぶ表情はその全てが呆れと驚愕で固まっていたのだから。


「組長さんの言葉は身に染みてわかったんだよね。だからとりあえず座っておいてよ」

「場も白けてしまったことだし、何よりこれ以上論述を展開しようと勝負は歴然だと思うから審査に入っていくんだよね」


林への興味を失いまたも火花を散らす風の戦士は水を差され不機嫌な表情をしていた。その相手であったはずの我刃は何処ぞへと消え、それでも大会は進行し審査会が開かれる。


「それでは審査員の型に意見を伺いたいんだよね。端から順にどんどん言っていってよ」

「僕はお尻の話がよかった、アス太郎選手に一票」

「うーんうんこ、全員チンコビンビンビンラディンだったけどアス太郎に一票!」

「というか開票を待たずしてアス太郎が優勝に決まってるんだよね。自分語りするだけで論述とか糞スレ建っちゃうんだよね」


挙げられた札はすべてアス太郎を示し、芝田の台詞に間違いがないことを物語っていた。栄えある第一大会は実質的な不戦勝の形をとった。

だがその熱気に些かの衰えもなく、むしろ次の大会へのばねともなったのだろう。ただ一人ユキを除いて。


「次の大会にそなえて出場者は壇上から降りてほしいんだよね」

「いい試合だったな!お前マジ頭いいわ……俺の下に来ない?」

「アスを貸してくれるなら考えてやるアス!」

「は??????????最後は仲良しこよしなんて険しすぎて笑ったわね。さすがに欠陥感じるんやが!!!」

彼は何処からか取り出した核ミサイルを地面にたたきつける。信管がひしゃげ急激に広がるエネルギーはすべてを白く塗りつくさんとする。


「ワテクシは最後に主人公が核ミサイル打つ話がしゅき」

「爆発オチなんてサイテーアス!」


確かに轟扇自体を吹き飛ばすほどだったはずの熱量は、しかしさほどの破壊をも残すことなくただ数枚の瓦礫を散乱させるだけにとどまった。

爆心地にいたはずの工作員ですら五体満足だったのだから。そして二人の芝田が瓦礫を弾き飛ばし、アフロ頭にマイクを構える。


「なんか爆発したけど僕は元気なんだよね、第一大会論述大会は優勝ファッキンアス太郎選手に決定!お相手は芝田と」

「芝田でお送りしたんだよね、次の大会もお楽しみに!」


盛大な花火で始まった大々会はまだまだ序の口、途切れることのない熱気が終わりを見せるまで止まることを知らない。


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