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開会

「今年も轟扇祭がやってまいりました定期!高まってない地蔵雑魚おりゅ!?」


壇上で開会の挨拶をする福木に大歓声が巻き起こる。伝説の子役である福木のトーク以上に、この宴の火蓋を切るのに適したものはないだろう。


「ウェ!?ぜっ゛だぁ゛い゛あ゛がっ゛え゛ぐる゛ぜぇ゛!」

「今日は目いっぱい楽しむアス!待ってろアッスのアスちゃんたち!」


個人個人で盛り上がりを隠さずに周りを気にせず騒ぐ者もいれば


「子役ガイジやんけ。まあ俺も上がってるんですけどね初見さん」

「アッアッアッ、僕達も楽しまなきゃ損だで腸流君」

「やったぜ。投稿者:変態糞カップル」

『いいゾ~これ』


今日の日を思い出にしようと最愛の人と過ごそうとするものもいる。


「ふぇぇぇ人多すぎるよぉ……というかもう寝よ」

「こんな中でよく寝られるね!?というか今からお祭りだよ!ってネカマはネカマはツッコミ役としての役割を存分に発揮するよ!」

「”壱壱四五壱四デッキ”……!」


友人とともに過ごさんとする者もいれば


「そんなに見つめて、どうかぁしましたかぁ?」

「紅葉さん、可愛くない?チートだろ!?」


想いを成就せんと奮起する者もいる。


「大会に出店になんでもあるゾ!待ちきれなくて、もうトロトロだよなぁ!?それでは轟扇祭‥‥開始!」

「「「うぉぉぉぉ!」」」


福木による合図とともに観衆の半数ほどが駆け出す。開幕ダッシュと呼ばれるそれは決して褒められた行為ではないのだが、内なる高まりに突き動かされてしまうのだろう。

また半数の動向はまばらでしばらくこの場にとどまる者もいるようであった。各々ですることは違えどその大半が楽しいといった表情をしていた、ただ一人を除いて。


「おいぃぃぃ!轟扇祭だっていうのに誘ってくる奴いないとかこんなん事件だろ!?」

「いやぁ多分みんな組長さんを誘うのが畏れおおかっただけなんだよね。何て言うのかな、有名税ってやつ?」


それはこの轟扇祭を取り仕切るはずの組長、林拳打その人である。本来であれば主催者側の彼は遊び呆けていられない身であるはずなのだが、彼に任せておくとロクなことにならないと福木がすべて取り仕切ってしまったのだ。

そのおかげで暇こそできたものの、皆組長は忙しいだろうと遠慮し林以外と予定を組んでしまったのである。


「芝田君はこの状況に何とも思わないの?俺はもっとみんなが一緒に回ってくれるものだと思ってたわ……、よっしとりあえずあいつらの様子でも見てまわるか!」

「そんな後出しで言われたところで用意できるわけないんだよね。ところで今日は暇なんだけど僕と一緒にいい思い出を作らないかい?ってあれ?」

「なにしてるの芝ちゃん、というか林組長は何処ゾ?」


芝田が振り返った時には林は既にいずこへと走り去った後で、代わりに福木が近寄ってきた。挨拶のときよりは幾分かトーンを落としているが平常には程遠く、高揚を感じさせる声音だ。


「フンッ、いつの間にかいなくなってたんだよね。これだから組長は手が焼けるよ」

「ツンデレなんて今時流行んないと思うんですけどって思ったんだけどさー。こっちも用事あるから一緒に探しますねぇ!」


普段からは考えられない芝田をからかうという行為にもそれがうかがえる。しかして林が何処ぞへ行ってしまったのも事実。

彼を探し当てるために轟扇祭を練り歩くというのもなかなかに悪くないのではないかと舞い上がるほどには。






「芝田君もどこか行っちゃったし、マジでキてるな……」

「やあやあお客さん、おいしいフランクフルトなんだよね」

「おいぃぃ!?芝田君いるじゃん!足早すぎだろぉ」

「こっちは揚げたこ焼きなんだよね」

「少々美味しいチョコバナナなんだよね」

「はぁ!?なんでこんなに芝田君いるの?増えすぎじゃね!?」


見失った部下に嘆息してあたりを見回した林はすぐにその姿を発見した、ただし複数。予想だにしなかった事態に彼の脳は瞬時にパンクする。

だがその異様は見渡してみれば確かに馴染み違和感を失っていく。立ち並ぶ店番の大半を芝田が務めているのだから。

端から端まで同じ顔が並ぶ光景は己が常識を揺るがされ、吐き気を催す違和感となるはずで、しかしそうはならなかった。


「やべえな……まあ出店は芝田君に任せればいいってことか!」

「売れ行き絶好調なんだよね」

「完売不可避なんだよね」

「最初は誰に会いに行こうかな……ってあれ我刃じゃね?おーい」


すっかり気を取り直した林は遠くに部下の姿を見つけ声をかける。普段とは違った様子の彼に疑問を抱くこともせず、真っ直ぐに歩み寄る。

我刃の方はといえば俯き林への反応も返さないでいた。


「お前さ、俺を誘わなかったのに一人でいるのかよ」

「……」

「え?なんで反応しないの?もっとコミュニケーション能力持とうぜ!」


苛立った林は我刃の肩に手をかけ覗き込む。顔を伏せ泣いているかのようにも見えた彼は携帯端末をいじっていた。

どんな文句をつけようかとその顔を見た林は、総毛立つような悪寒に襲われ次の瞬間尻餅をついていた。再び顔を上げたときには我刃の姿はなく祭りの喧騒だけが残っている。


「なんなんだよあいつ……さっきから変なことばっかりじゃね?いやそうでもないか(・・・・ ・・)


やはり切り替えの早い林がそれを気に留めるわけもなく、一度大きく背を伸ばして歩き出す。

まだ祭りは始まったばかりだ。


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