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見参

「やめてー折れちゃうー」


宙に浮いた伊門は今尚追撃を喰らい続ける。先の聖翼仰天刃で打ち上げられてから未だ地に足をつけることは叶わず。

他者で塗り固められたはずの佐原は、しかし伊門ライムをすら一方的に痛めつけるほどの秘奥を隠していた。

否、他者を積み重ね、そこからつぎはぎが如く”強さ”を抽出してきたからこそのオリジナル。あまりの連撃に体勢を整えることもままならず軽いとは言えないダメージが蓄積されていく。


「ほらほらほらほら、気持ちィダルルォ!?」


慇懃無礼な態度はなりをひそめ、粗暴な態度の彼は紛れも無い”佐原”の本性である。抑圧された人格は得てして狂暴になるというが、佐原のこれは切り刻まれた魂の慟哭か。

一撃が重いわけではないものの、衝撃を逃がせない空中で延々と続けられる一方的な攻撃は精神をすり減らす。

ダメージを最小限にするために少しでも逸らし弾き打点をずらしていなければ、今頃伊門の体はぼろくずのように転がっていただろう。


「コロスぞ!」

「おいおいこれで終わりだと思ってねぇだろうなぁ、ライムちゃぁん?チェーンリボルバー!」


大きく打ち上げられた直後、佐原が懐から「D」と書かれたボタンを取り出しそれを高速で連打し始める。次の瞬間先ほどとは違った衝撃が伊門を襲う。

いつの間にか佐原が握っていたのは二振りの銃、そこから放たれた銃弾が彼の体を打ったのだ。今度は地に足がついたものの、銃撃の嵐はやまず佐原の舞踏は止まらない。

一度だけ耳にしたことのある噂。曰く佐原に”蒼”を使わせるな、と。もしそれがオリジナルに始まる一連の攻撃だとすれば随分と厄介なものを引きずり出してしまったことになる。

1セットの銃撃が終わるたびにボタンを連打することが隙といえなくもないかもしれない。だがそこに近づこうとしてもまた銃撃でごり押される。


「お前の目的はなんだ、佐原。なぜこんなことをしテス、いるのですか?」

「ライムちゃんがこーんなにも弱いままじゃぁ、安心して負けてはやれねぇなぁ!いつまでも三枝なんぞに縋ってんなよ、あはははは」

「うるさい!」


威勢だけは負けんとするも佐原の哄笑は絶えず、休む間もなく彼を攻め立てる。ドラッグカーを超高速で安定させるかのように狂想薬でブーストしていた肉体も、薬が切れかけガタが来る。

空中分解の見え始めたレースは減速せずに終着点へと進んでいく。だから……だからもしも反撃の機会があるとするならば今しかない。

次に佐原が構えを解きボタンを押すその瞬間が最後の機会となるはずだ。


(それまでもってくれよなー……頼むよー)

「もう終わりか、ライムちゃーん?ちんこかよ」


何度も放たれた攻撃は熾烈さを落とさずとも観察するに十分であった。すべてが初見の攻撃でないならば対応は可能なはず。実際佐原のそれはまるでプログラムされたかのように繰り返されている。


「これだけ見てればその隙を見落としちゃうわけが無いんだよなぁ」


最後の銃撃を逸らさず受け止め、なおも踏み込む。佐原がボタンを押すより早く、銃撃を再開するよりも疾く、木津喪の切っ先を走らせる。腕を弾いても止まることなく胴を一閃し斬撃を繰り返す。

蒼を使い始めてから初めての反撃は一撃では終わらない。このチャンスを逃せば負けが確定することがわかっているからこそ、今ここに全力を賭す。


「ファッキンアス!」

「ぎょえっへー、これは大ピンチィ!」


己を鼓舞し、止まりそうになる四肢に発破をかける。足りない血液を循環させ一撃一撃に確殺の意思を込める。余力なんて考えない、ここで負ければ運命に負けるという確信。

三枝を超えることもできず佐原の思い通りになるなんてプライドが許さない。自分が伊門ライムである限りはハル以外に負けるなんて認めない。


「マァァァァァァ!!」

「カカッとね」


そこからの両者の応酬はこれまでのどれよりも鮮やかな演舞であった。相手の次手を読んでいるからこそのやり取りは打ち合わせしたかのように噛み合う。

この絶技を一言で表すとすれば、「新宝島」これ以外にあり得ないだろう。かち合い相殺しまたぶつかり合う。ついに拮抗した二人はボックスステップを続ける。


「アス!?」

「おふざけが過ぎましたか、生きてるーっ!」


だがその均衡を破ったのは佐原である。彼より球状に放たれた衝撃波は伊門を吹き飛ばした。距離をとっただけとはいえ伊門にはもうこの距離を詰めるほどの力すら残っていなかった。

ここまでしても届かない。自分の道に立ちふさがる壁すら越えられずに三枝を超えようなどと夢のまた夢。それでも最後まで諦めない、諦めたくない。

きっと彼なら見栄を張る。虚勢でもはったりでもネゴシエーションだと彼は言ってのけた。ならばそれを超えるはずの自分がここで立たずしてなんとする。


「ここまでみたいですねぇ、結局君は運命を超克できなかったわけですか。そんなら黙って運命を受け入れろよ、ライムちゃん!」

「ハルさんならきっとこういうはずです。そんなの”知らないですよ!”ってな」


散る前に宿敵の口癖を反芻する。彼がいつもしていたこの否定は、きっと何もかもを知らないと己を奮い立たせる言葉だった。


「行きますよ……聖翼仰天刃! 」


そして……彼女にとってのヒーローを呼ぶ最高最速の救援信号だった。


「運命?知らない子ですね」


到達するはずの幕引きはいつまでたっても止まったままで、なぜか目の前には超えるべき相手が立っていた。その背中はまるで自分を守っているかのようで到底理解が追い付かない。


「ここまで来て君が邪魔するんですか三枝君。そこの伊門ライムが君の目指してきた敵だってことはもちろんわかってますよねぇ?」

「知らないですよ!好きな女の子がボロボロになってて見過ごせるわけないでしょ。まずはお前をぶっ飛ばす」


やっぱり彼の言動は意味不明で(昔と同じで/喫茶店のときと同じで)心を揺るがせる。作戦の最終目標であったはずの自分を守るなんて矛盾は、でもきっと知らないと笑い飛ばすのだろう。

妙な安心感が体を包み、張り詰めていた緊張が切れる。ここで倒れればきっと三枝ハルを超えることはまた遠くなってしまうと分かっていても、先ほどのような焦燥はない。

意識が薄れていく中最後に彼の言葉が聞こえた。


「俺が何とかするからね、ライムさん。それに伊門っち。ちょっとだけ待っててくださいよ!」




ついに引き合った二人は相対せず、片割れを守るために拳を握る。どんなに危うくともすんでのところで間に合う。

やはりヒーローは遅れてやってくるものなのだから。

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