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再戦

「そろそろだとは思ってたんだよなぁ」


包囲網を抜けた後、立ち止まることなく駆け抜けてきたハルがついに足を止める。

かけられた声の主は立ち並ぶ自転車の中、ハルの行く手を阻むように立ちふさがっていた。


「こいつを通しちゃうなんて、ネカマるはやっぱり駄目じゃないか……」

「そんな奴いたかな?まあいいや、お前も倒して先に行かせてもらいますよ!」


そんな風に挑発するような声をかけるものの、しかしハルからはここまで進んできたときのような余裕は見られない。

逡巡し緩んでいた神経が叩き起こされる感覚。縁田はこの道程になぎ倒してきた十把一絡げの構成員とは比べるまでもない強敵であった。

以前拳を交えたときは状況のせいとはいえ隙をついてその場を離れるのがやっとで、最後の一撃を放たれていたら果たして致命傷を免れることはできたのか。


「ンフーフフー、ここは通せないなぁ」

「はなから簡単に通すとは思ってないですよ!」


しかし懸念をおくびにも出さずに啖呵を切る彼は時間が惜しいとばかりに腰だめに拳を構える。

ここで無駄話をしている間にも仲間が戦い傷ついているはずだ、それを無視できるハルではない。


「軽く見られたのは心外だぁ。慢心には気を付けよう!」


相対する縁田の構えは右足を引く、以前は見られなかったものである。まるで引き絞るようなその構えの威圧感はハルを即座に動かすに十分なものであった。

危機感や焦燥感といった類の産毛が逆立つようなそれは、確殺の意思をもってして放たれようとしている。


「トランザム!」

「やっぱり早い……けどもう遅いんだよなぁ」


加速し研ぎ澄まされる感覚の中、それでもやっと目で追えるほどの速度で縁田の足が解き放たれる。

打ち出されたであろう何かを捉えることは叶わず、次の瞬間にはハルの視界は塗りつぶされた。


「ッ!?いったい何なんですかねぇ」


蠢くそれはハルを取り囲み徐々に包囲網を縮めていく。その正体は蜂の大群である。視界を埋めるほどのそれに刺されれば必死、さらに素手で戦うハルには

分が悪くすでに大勢は決したかに思われる。

だが外から動向を見ていた縁田の行動はとどめを刺すことではなかった。


「蜂さん、下がってどうぞ」

「汚物は消毒だ―!」


縁田が言うが早いか、蜂の羽音にまぎれて聞こえないはずのハルの声が響き渡る。迫る死の球体を抜け出した彼はどこに持っていたのかゴキジェット片手に再び跳躍する。

蜂を引き戻しているすきをつかれることになったがそれでも縁田は左手のハチの巣を滑り込ませる。

不安定な状態からハルほどの手練れの一撃を迎撃できたことはむしろ称えられるべきであろう。

直後大ぶりの攻撃で距離をとる縁田はしかし不敵な笑みを崩さない。


「俺のビンビンスズメバチをくらっても無事とはね」


大技を凌がれ、自分が武器とするハチの巣を失ったというのにである。右手を胸に当て挑発するような彼からは一片の絶望も見受けられない。


「技の名前なんて知らないですよ!それにこっちも無事じゃないしね」


言い返すハルの腕はもとの二倍ほどに膨れ上がり力なく垂れ下げられていた。先の技を切り抜けるのに五体満足であろうはずがない。

しかしそれでも十分足止めにはなっている。このまま牽制が続けば、いずれ殺到した増援に彼は押しつぶされてしまうだろう。

前回とは違うはずだった衝突が、前回と同じ結末に終わろうとしている。地力ではなく状況によって勝利をつかむというのは決して責められるべきことではなく。

この場の判断としてはもちろん最善に近いものだったはずだ。が、それはだれが判断をするべきものか。

戦士として己が劣っていると認めるに等しい選択を、再び選び取ることを許容できるのであれば縁田はここまでの高みには立っていなかった。


「やっぱり俺も遊戯隊ってことかな」


急に動き出した縁田にハルが反応できなかったわけではない、縁田の放った明後日の方向への一撃に困惑し動きを止めたのである。

それはこの空間の出入り口となる道の崩落を狙ったもの。ハルの退路であり、増援が入ってくる予定だった場所。


「すごく謎だなぁ、発狂~?」

「こうすれば邪魔は入らない。今度こそ、ここで死んでいただきます!」


不可解な行動の理由は単純明快、彼がハルとの一騎打ちを望んだというただそれだけ。作戦を揺るがし、心配していたはずの友人をも危機にさらすかもしれない。

それでも己を抑えることができなかった。眼前の強敵と最後まで死合いたいという想いが彼を遊戯隊足らしめているのだから。

久しく感じていなかった純粋な勝利への渇望が本来の彼を呼び覚ましていく。ひたすらに竿を投げ続け、芋を植える。楯突いてくる格下を討伐し蹴散らす日々のなか、強くなるために始めたはずのそれらがいつの間にか流れ作業のようになっていた。

苦行を超えれば何かを見いだせると信じた先の、麻痺した感覚で続ける惰性の日々でついた錆は今や完全に剥がれ落ちた。


「全力攻撃3倍……行きますねぇ!」


先のものとは違う気配、ひりつくようであっても明らかな高揚をもたらしてくる。余力を残そうなどという冒涜を選択肢から消しさり、今この瞬間だけは縁田マサアキを打倒するためにすべてを賭す。

ハルも今や熱気に当てられていた。ここで手を抜けば勝ったとしても一生後悔することになるだろうと、否全力であろうとも超えられるのか。


「トランザム!後のことは……知らないですよ!」


激突する二人の拳は互いの肉を裂き、交差する蹴りは両者を打ちのめす。すでに本調子の動きに比べれば随分と緩慢でキレがあるとは言い難い。

関節が悲鳴を上げ骨は軋み、それでも彼らは笑顔を崩さない。これを逃せば二度とこいつとは戦う機会がないかもしれない、考えることは同じくさらに熱が高まっていく。


「なんでここ崩落してるの?これじゃあ作戦が台無しだよ!ってネカマはネカマは苦言を呈すよ!」


集まってきた増援が足止めを食らい、縁田の考え通りに邪魔が入ることはない。高まっていく彼らに外野の声は聞こえていないようではあったが。


「あにゃあああああ!」

「あ・あ・あ・あ・あ・あ、あああ↑↑↑!」


雄たけびは己を鼓舞するためのもの。体を赤く染める血と青いあざは戦化粧となり頽れるはずの体を強引に縫いとめる。まだ戦っていられると、まだ戦っていたいと吠える。

だが永遠に続かんと望まれた闘争は終結を迎えようとしていた。終演を飾るは全霊の一撃こそふさわしく、昂る熱のすべてが注がれる。


「鬼蜂流奥義……meet・アンド・me!」


縁田が構えるは以前の戦いでついぞ放たれることのなかった秘奥義。満身創痍のこの体で使えば自滅は必至であるはず、それを分かった上でとは執念の為せるわざか。


「ビースト発動、不知火ですよ!」


対するハルが叫ぶは彼の十八番、トランザムとは違うもの。彼の根幹をなすその言葉で森羅万象のことごとくに、知ったことではないと反旗を翻す。


「アイ・マイ・ミー・マイン、アーイク……!」

「さあ、いこうか!」


一瞬で最高速まで加速した二人の一撃は互いをくだすべく、なお勢いを増す。縁田の組まれた手は黄と黒の光を放ち、その圧倒的破壊力を物語っている。

いつものからめ手が混じったものとは違う真っ向勝負の型だ。それと拮抗するハルもまた愚直に、しかしこれまでにないほどの力で拳を突き出していた。

逃げ場をなくした力の奔流は二者の間で抑え込まれ、炸裂した。どちらかに傾けば一方に流れたであろうそれはあまりに保たれた均衡により全方位に放たれたのだ。

吹き飛ばされた彼らは地に伏し立ち上がらなかった。





ハルを送り出した後も夜寸と鬼勢は傘波良と激戦を繰り広げていた。二対一でこうまでいなされてしまうという事に歯噛みしつつも、これが時間稼ぎになるのならと攻めを休めることはない。


「君たち馬鹿だよね、あいつ一人で何ができるんだ。」

「ハルくんの目は決意した目だった。ならそれのサポートをしてあげるのが先輩の仕事かな……っと」


切り結びながらも言葉を交わす彼らに周りの構成員たちは手を出せないでいた。あまりの技量差に傘波良に当てないことが不可能に思われたためだ。

そうであったはずなのに夜寸はあらぬ方向に光剣をふるう。しっかりとした手ごたえとともに飛来した紙片が溶断され、焼け焦げた匂いが鼻につく。


「へー、今のを”視”られるんだ。」

「うん、これに割って入れるなんてお前は?」

「俺?俺はねぇ、”壱壱四五壱四デッキ”の使い手さ」


大量のカードを弄びながらにやついた顔で名乗る乱入者、そして遅れてきた老婆を背負ったもう一人も夜寸らとかち合えるだけの実力は持っているかに思える。

なおも続く動乱の中、渦中の二人は未だ出会わず。底にあった純粋な想いが戦火で上塗りされていく。


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