立ちはだかる群れ
「ここまではすんなり来れたねぇ、流石強襲過ぎるだろ!」
作戦開始からしばらくたち実働部隊は皆所定の位置に到着していた。今まで轟扇組の構成員との衝突は起こっていない。
普段ならば見咎められるような距離、遊戯隊の本拠地のひざ元にまで近づいたというのにである。
その非常は、しかし今回は好都合である。事前の予想ではすでに足止めのため数人が離脱しているはずだったのだから。
「でもまあ、そう簡単に最後までは無理かー」
そう、今ハル達の前には目を疑うほど大勢の障害が立ちふさがっていた。見たところ轟扇組の構成員と得体のしれない者が半々といったところか。
構成員のなかはハルと会ったことのある者や資料で見たことのあるものはいない。細かく覚えるほどの手練れが大勢いたらたまったものではないのだろうが。
「どうかなハルくん、見覚えあるのいる?」
「無かったわ!こんな有象無象は鬼瀬っちや俺の相手ではないねー」
鬼瀬の質問に軽く返すハル、だがその言葉は目の前の”有象無象”にも届いていたようで殺気だった目でハル達をにらみつける。
誰一人として襲い掛かってこないのは怖気づいているのか、はたまた統制が取れているのか。煽られても変わらないところを見るに後者だろうか。
ハル達もさすがに多勢に無勢で飛び込むわけにも行かず、視線の応酬が続くいていた。そんな中ざわめきが起こりひときわ高い静止の声が響く。
しかしそれを無視するかのよう得体のしれない組の方から一人の男が前へ出てきた。
「待ってよ!一人で出て行ったら勝てないって言ったよね?ってネカマはネカマは呼び止めるよ!」
「ネカマるはちょっと黙っててくれ。さっきの有象無象って言葉には?ってなってさっきからの余裕の表情、これで限界。その態度には事前情報でもイラっと来てたし流石に目の当たりにすると俺の表情からも分かるけどかなり頭にきたわ。戦績残してる人が強いっていうのといろんな事情で目立ってない人に弱いっていうのは似て非なるものだっていう。実績多く人が強い理論は分かるけど取捨選択を迫られて群れている人間に弱いとか煽ってんのかっていう。今までも知らないですよ~って言ってたみたいだけどそんなこと考えるんだったらもう少し周りの人間がそれをどうとらえるか考えてみたらどうなんかね」
「うん、何こいつ。ハルが言われてるみたいだし返してあげなよ」
「キチガイなんでしょ!というか夜寸も俺にふらないでよー。有象無象ってのは言葉の綾だし、一様謝るからさー」
「ハルくん、一様じゃなくて一応だよ」
あまりの早口に流石の隊長格たちもたじろぎ矛先であるハルに目線を向ける。だがそのハルも、いつもはむしろ周りよりもハイテンションなハルでさえも
彼の勢いにはついていけないでいた。否彼についていけるものなどいるのだろうか。
「これまでの知らないですよ~とはニュアンスが違ったでしょ。前はお前のことは眼中にない~的なニュアンスだったからこっちだってまともに研究したけど相対いる以上有象無象とかただの悪口やんけ。いまのキチガイ発言に関しては擁護できないとしか言いようがない」
「ここまで豆腐メンタルだったとは知らなかったですよ!今から倒す相手のことなんか一々覚えてられないからねぇ」
これと話しているのは随分つかれるが、もしかしたらこれが膠着状態の打開につながるかと思い相槌を打つハル。だがいったいどれほどこれとの会話を続ければよいのだろうか。
眼鏡と手に持った通信端末、そこから延びるイヤホンと手に持った拳銃とまるでどこぞの工作員を彷彿とさせるようないでたちの彼。
彼自身は隙だらけでここにいるレジスタンス陣営のだれもが一撃でのしてしまえるだろう。しかしそれをすれば後ろの大群に先手を取られる可能性がある。
いかにエースたちといえども後手は不利である、もちろんそうなっても負ける気などさらさらないのだが。だから聡明な彼らは苛立って飛び掛かりはしないはずである。
「豆腐メンタルなのを否定しようとは思わんけどそういうこと言うお前が悪いだろうが。頑張っている以上技量は上がんだろ。一番気にくわないのは攻撃的な物言いしかできないんだか知らんけどしてないことだわ。あえて触れなかったことだけど相手を怒らせた人間の発言としてこれほど失敗してる表現ないから今度同じようなことあったら気をつけろよ。相手のこと馬鹿にしたうえで複次的にブへェ!?」
しないはずなのだが、現に吹き飛ばされおかしな体勢で倒れている彼を見るに我慢の限界だったということか。
今は仲間のおかげで落ち着いているとはいえもともとハルは先刻まで随分と平常を乱していた。そんなところに訳の分からない理論をまくしたてられれば手が出てしまうのも道理であろう。
「げ、言動で示せなきゃそれ以前の問題だろ。さすがに欠陥感じるんやが、知らないって言っていいのは俺なんだよなぁ。本気か???」
「見ればわかるんじゃないの?さっきから聞いてれば早口であーだこーだうるさいんだけど!」
「やっぱり風の戦士ことユキ君じゃ手も足も出ないし、ラインの民と轟扇組の混成部隊でもまったくもって勝ち目無いんじゃないかなー!?ってネカマはネカマは説明的な口調で混乱するよ!バイトやめたい!」
「知らないですよ!君たちを全員倒して伊門のとこまで行くんだからさ。こんなところで止まるわけにはいかないんだよ……!」
突出したハルに一瞬は躊躇した混成部隊ではあったが、さすがに尻込みして好機を見逃す者はいなかった。ハルに向かって各々の得物で仕掛けたその数はエースといえどもさばききれないはずだった。物量で圧殺する作戦が功を奏し土煙の中では奴がぼろ雑巾のように成り果てているだろうと誰もが考えていた。
(伊門は今危ない状態だしこいつと合わせたら何が起こるかわかんないからここでつぶして正解だなってネカマはネカマはやっぱり説明的な独白をするよ!)
「ハルくんだけには任せておけないよ、空鋼部隊長鬼瀬もわすれないでね」
「うん、後ろにいるのが見えてなかったのかな」
「鬼瀬っちに夜寸……さっさとこいつらのして先にすすもう!」
だが煙が晴れたときにそこにいたのは無傷のハルとその仲間であった。たとえ一人で防げなくともこれだけの手練れが三人いれば話は変わる。あたりにははじかれた得物があるものはひしゃげ、あるものは断ち切られ転がっていた。いったいどのような方法ならこれを成しえるのか想像するだに恐ろしい、だがエースらが構えるものをみれば否応なく経緯を理解してしまうだろう。
鬼瀬と夜寸が持つは光の剣、一見同じに見えるがその輝きには細かな差異が見られるはずだがそれに気づくものは数少ない。
そしてその違いは次の瞬間全員の知るところとなった。ラインの民の電動銃やガス銃による一斉射撃に対する彼らの対処は剣による防御である。ただ闇雲に振り回すわけではない、弾道を見切って一発一発を迎撃しているのだ。
「よっと、まあ音を聞けばある程度はわかるんだよね……っと」
「弾道予測線を予測しているわけだね!さすが鬼瀬っち!」
鬼瀬が描く光の軌跡に触れた銃弾は弾かれ、しっぺ返しのように持ち主に帰っていく。音で弾着を予測するという芸当は彼のたゆまぬ研鑽と、
生まれ持ったフォースの融和によって辿り着いた一つの極地であった。それに光の剣が合わさり、この光の舞踏が現実となっている。
「夜寸も大丈夫みたいだし、俺も凸るかー」
「うん、このぐらいなら目で追えるし」
打って変わって夜寸の光は軌跡を残さない。光の剣が触れたものすべてを溶断し消滅させていくその様は見るものに根源的な恐怖を与える。
鬼瀬のある意味では美しいとも言える剣舞とは違う、無機質で淡々としたそれは彼の同門である傘波良などとも似て非なるものである。
それもそのはず、自らに染み付いた剣筋の無駄を省き昇華させたものこそが今の彼の最大の武器なのだから。
「早くあいつら倒さないとラインの民の面子丸つぶれだよー!轟扇組に負けてもいいのかな?ってネカマはネカマは発破をかけるよ!でもこれダメそう」
「あきらめるなら今のうちですよ!本気の僕たちに幹部もいなくちゃ勝てるわけないでしょ」
「私も一応幹部だよ!もうなりふりかまってやるもんか、混成部隊は一斉に攻撃だ―!少しぐらいの誤射は致し方なし。ってネカマはネカマは自暴自棄に指示を出すよ!」
そしてなだれ込む大軍勢。跳弾や逃走で多少は数を減らしたもののまだまだ数はある。それに対するハルは、しかし笑みを浮かべていた。
彼の絶対的な自信を感じさせるような笑みを。
「少しは体になじませなきゃだしねぇ。温存しておいてもよかったけど……トランザム!」
混成部隊の誰かが踏み出すより早く、走り抜けた閃光に数人が苦悶の声を上げて倒れる。その全てがハルのすれ違いざまの一撃で沈んでいた。
突然すぎる加速に驚く暇もなく一人、また一人と刈り取られていく。
「うーん絶好調!トランザム使うまでもなかったかな?」
そこからは早かった。圧倒的な力量差で触れることもままならない格上を三人も同時に相手取ってしまった有象無象達は目に見えて減っていく。
光の剣に触れれば一撃で戦闘不能、そうでなくともハルの怒涛の勢いに押され手傷を負っていく。大勢は決まったかに思えたがここにきてようやくレジスタンスは彼らがここに配置された意味を知る。
「うん、いっぱいきた」
「団体さんがあとからやってくるなんて予想はしてたけどちょっと早いね」
ここまでハル達は優勢だったものの包囲網を突破するには至っていなかった。この物量差ではさすがに殲滅するまで時間がかかるため足止めされてしまっていた。そこにこの援軍である、明らかに時間稼ぎをするための捨て駒であろう。しかし作戦は見事にはまりまたもや膠着状態に陥りかけていた。
「ここまで数が多いとさすがに時間かかるなー、どうしよっか?」
「仕方ない……ハルくんちょっとこっちおいで」
一度態勢を整えるために周りを薙ぎ払った三人は合流する。すぐにまた波が押し寄せるだろうが言葉を交わすほどの余裕はできた。
「なになに?もしかしてついにマキオン始めるとか!?ってなんで俺は2人に抱えられてるの?」
「それは今度にしといて。ハルくん受け身はとってね?」
「うん、歯食いしばれ」
「「飛んでけー!」」
その余裕を使ってハルを除く二人がとった行動は、果たしてハルを放り投げることだった。放物線を描いて着地するのは包囲網の外側である。
「ここは僕らに任せて先にいってね」
「うん、そういうことだから」
あっけにとられたハルは投げかけられたその言葉で己を取り戻し着地と同時に駆け出す。振り返ることはなく全力で先へと歩をすすめる。
背中にかけられた期待に応えるために。
「あー!逃げられた!とりあえずもう一人も逃がしちゃだめだよ、ってネカマはネカマは憤慨するよ!縁ちゃんにも連絡しなきゃ……」
より一層強められた包囲網から抜け出すことは困難だろうが二人もさっさとハルに追いつくために目の前の敵をなぎ倒していく。
二人に減っても力量差は大きく、太刀打ちできるものは一人としていなかった。その上先ほどより気合が入っていた二人にかなう道理はないだろう。
だがある瞬間その猛攻は何者かによって止められる。二つの光とぶつかり合うはやはり一対の光、だがそれを操っているのは一人である。
「夜寸は馬鹿だよね。昔から何も変わってない……」
「うん、やっぱり傘波良が出てきたか」
「傘波良というと、こいつがあの我刃の側近?」
にらみ合う彼らは普段の様相のまま感情を押し殺した声で互いの名を呼ぶ。ここでもまた因縁が衝突し、しのぎを削る。
過去より今を選んだ者はぶつかり合うその運命を嘆くことはなく、友のために雌雄を決しようとしていた。




