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待人の想いは

いかに選りすぐりの精鋭といえども最大勢力である轟扇組相手の大規模攻勢作戦を経験したことがあるものなどいない。

それはハルも例外ではなく、今度こそは完全に未知の生きて帰れるかの保証などない戦場であった。

だがしかしその程度で揺らぐ決意ならば、見えない過去を追い求めることはなかったし、ただの口約束のために命を賭すこともなかったであろう。

そうして今の自分を貫いてきたのは重ねた絆を無駄にしないためである。ガネさんに始まり、同格であり他部隊長の夜寸や鬼瀬も友と呼べる関係になった。

自分が流星の如く抜擢された時から思えば随分と飛躍的な進歩ではないか。そしていま彼が拠り所とするは名前以外には何も知らない少女である。

何も知らないからこそもう一度会わなければならない、会ってもっと話をしたい。友達から始める恋だってあるはずだと彼はいつになく燃えていた。


「とは言っても、とりまこの作戦を成功させないとねぇ」

「ん?どうかしたかハル。遠い目をして……あの時の喫茶店とかのことか?」

「なんでそれを!ってガネさんには隠し事できないなー、わは」

「この”ビッグマネー”には何でもお見通しよ、ハルとも結構長いしな」


ガネはハルの張り詰めた気分を見抜いて茶化すように声をかけた。長くなったとはいっても一年程度ではあるのだが、その間ほぼすべての作戦でオペレーターはガネであった。

だからこそ相棒が何時になく浮ついているのに気が付いたのだ。もちろんいつもの作戦前に比してである、ハルは休暇の時はいつも陽気に笑っているのだ。

ハルが何に対して迷っているのかは、ガネにうかがい知ることはできない。それでも友人に声をかけないという選択を、彼はとることができなかったのだ。


「今日はあの虎さんも出るみたいだし、むしろ成功する確率の方が高いだろ」

「それなら俺はサポートに回る感じだねぇ。意外とぬるゲーかな?」

「おいおい、エースが先陣を切るに決まってるだろう?何遠慮してるんだ」

「へぇ~そうなのか~、って俺が!?虎さんじゃなくとも鬼瀬っちとかいるじゃん!」


ハルの調子が少しだが戻ってきたことにガネは少し肩の力を抜く。手間のかかる子供を相手にしているようで面倒に思うこともないわけではないが、大事な相棒である。

気を取り直して現状を思い返すガネは胸によぎる一抹の不安を反芻する。ひとまず遊戯隊さえ何とかすれば今実質的なリーダーとなっている福木の勢力を抑え込める。

そう考えての今回の作戦だがそううまくいくものだろうか。得体のしれない芝田を襲撃というのはリスクが高いうえに一体どこを攻めれば打撃を与えられるのかもわからない。

数の多くない我刃勢力は後回しとして、すでに攻め落とした聖~ホーリー~部隊も復旧には時間がかかる。そう考えていけば遊戯隊を攻めるのが正解というのは正しいロジックだ。

そうであるはずなのにガネにはどこか不安が感じられた。遊戯隊の実力を過小評価しているのとは違う、彼らは十分に脅威でレジスタンスの主戦力を注ぎこんでやっと勝てるといったところだ。

なにか計算では証明できない、オカルトじみた危険を見逃している。そんな予感が確信をもってして警鐘を鳴らしているのだ。だが本当にハルを突っ込ませていいのかと逡巡するも自分一人の憶測だけで作戦の大幅変更を進言するわけにもいかず、ただ可能性を考えることしかできない。


(自分のできる最大限のことをハルにしてやる。それしかないか……)

「今度はガネさんがボーっとしてるじゃん。どしたどした?」

「ん、まあいろいろだな。ハルも自分の為すべきことを見失うなよ」

「???」


もうすぐ作戦開始の時刻である。ガネも様々な憶測も激突の中で氷解していくのだろうと思考の隅に追いやり目の前のことに頭を引き戻す。

ハルならば大丈夫、そう過信することなく注意事項を伝えていく。


「……とまあ、夜寸達と同時刻に一気呵成に轟扇組に突っこんで遊戯隊の中核を叩くっていうのが概要だ、もう全部伝えてある内容だけどな。急げよ?ほかの奴らも騒ぎを聞きつけて飛んでくるだろうからな」

「30分でこれるわけないでしょ 、その間に終わらせるさ……。ガネさんは心配性だなぁ、保護者かよっ!」

「やかましいわ。それよりハル、なにか……いやなんでもない」


無駄口をたたきながらも装備を整えたハルになにか遠いものを感じたような気がして声をかけるも思い直す。話したいことは作戦のあとにいくらでも時間を作ればいいじゃないかと。


「でかいのかましてこいよ、ハル」

「もちろん、ガネさんのサポート頼りにしてるからね!」


ついに始まる大激突。錯綜する想いはきっと互いをつなぎとめる、たしかな楔に他ならない。恋慕も友情も因縁もすべてがないまぜになったこの戦場は大きいようでその実小さい。ひかれあう理由は違えどもたった二人を中心としているのだから。


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